『007/サンダーボール作戦』
Thunderball
ショーン・コネリーがボンドを演じた007シリーズ第4作。ボンドガールにクローディーヌ・オージェ、ルチアナ・パルッツィ。
公開:1965 年 時間:130分
製作国:イギリス
スタッフ 監督: テレンス・ヤング 原作: イアン・フレミング 『007 サンダーボール作戦』 キャスト ジェームズ・ボンド: ショーン・コネリー ドミノ: クローディーヌ・オージェ エミリオ・ラルゴ(No.2): アドルフォ・チェリ フィオナ・ヴォルペ(No.12): ルチアナ・パルッツィ ブロフェルド(No.1): アンソニー・ドーソン ブヴァール大佐(No.6): ボブ・シモンズ ヴァルガス: フィリップ・ロック リッペ伯爵: ガイ・ドールマン フェリックス・ライター: リク・ヴァン・ヌッター パトリシア: モーリー・ピータース ポーラ・キャプラン: マルティーヌ・ベズウィック ダーヴァル少佐(アンジェロ): ポール・スタシーノ クーツ博士:ジョージ・プラウダ M: バーナード・リー Q: デスモンド・リュウェリン マネーペニー: ロイス・マクスウェル
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
核爆弾を搭載したNATOの飛行機が、悪の国際組織スペクターによって奪われた。スペクターは英米首脳に対して1億ポンドを要求し、1週間以内に支払わなければ英米に核爆弾を落とすと脅迫。
イギリス諜報部の長官Mから核爆弾の奪還を命じられたジェームズ・ボンドは、西インド諸島バハマの首都ナッソーへと向かい、スペクターの幹部ラルゴ(アドルフォ・チェリ)の愛人ドミノ(クローディーヌ・オージェ)に接近する。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
今度の売りは水中対戦
前作『ゴールドフィンガー』のガイ・ハミルトンから監督の座が再びテレンス・ヤングに戻り、一旦エンタメ路線に振れかけたシリーズを自身で軌道修正。
『ドクター・ノオ』、『ロシアより愛をこめて』に続く三作目、かつテレンス・ヤング監督としてはシリーズ最後の作品。
◇
まずはアヴァンタイトルでスペクターNo.6のブヴァール大佐(ボブ・シモンズ)を倒すボンド。ブヴァール大佐は自身の偽装葬儀から女装して退室しようとするもボンドに見抜かれ殺される。
背負ったジェットパックの噴射で空を飛び逃げるボンド、直立のまま飛行する姿がコミカルだ。
そして前作で初登場のアストンマーチン・DB5(大破してたから二台目か)からは追っ手に放水を浴びせ逃亡成功。ここまでは、娯楽性重視か。
ここでタイトル。放水から始まり、今回のデザインテーマは水のようだ。これまでの女体に映写から若干趣向が変わる。主題歌はトム・ジョーンズ。
当初は『ゴールドフィンガー』はじめ、以降の複数作品でも主題歌を歌っているシャーリー・バッシーが“Mr. Kiss-Kiss Bang-Bang”なる曲を録音していたが、急遽差し替え。
これは、歌詞にタイトル名が含まれていなかったことを不安視したためらしいが、それは納得。だって、トム・ジョーンズが”thunderball!”と歌い上げるところは、やはり鉄板の高揚感があるから。
スペクターの幹部総結集
本作ではついに、スペクターの全容がかなり具体的に示される。ブロフェルド(アンソニー・ドーソン)がネコを膝に乗せて幹部会議を開き、各国の幹部たちが恐々と実績を報告する。
今回のミッションは、核弾頭を搭載したNATOのヴァルカン爆撃機を奪取し機体ごと海に沈めて隠し、英米政府に原爆と引き換えに1億ポンド相当のダイヤモンドを要求するものだった。
◇
そんなテロ計画が進んでいるとはつゆ知らず、我らがボンドは健康回復のため訪れている保養施設で、美女のマッサージやら脊椎牽引を受けるやらで忙しい。
この保養施設のエピソードは原作ではもっと丁寧に書かれ、ボンドがオーガニック食品に目覚め禁煙するという、およそ柄でもないキャラに変わりかけていく(自室の家政婦に「そんな食生活じゃ早死にしちまいますよ』と心配される始末)。
映画はその辺は割愛だが、それでも相当ボンドのキャラで遊んでいる。
脊椎牽引器をスペクターの手先、リッペ伯爵(ガイ・ドールマン)に細工され身体が引き裂かれそうになる場面はまるでリアクション芸人のようだ。
診察中に女医を抱きすくめてキスに及ぶ行為は、今なら(当時でもか)女好きのスパイを通り越して立派な性犯罪者である。
Thunderballs are go!
そんな折、ボンドに招集がかかる。スペクターからの脅迫で、「政府が応じる場合はビッグベンの時報の鐘を1回多く鳴らせ」との粋な指示。
英米は結束してMをリーダーにMI6のすべての00エージェントを集め、スペクターから核弾頭を奪還する任務を指示する。名付けて<サンダーボール作戦>。
スペクターの幹部連中もMI6の00エージェントもそれぞれが一同に集まる場面があるなんて、本作は相当ゴージャスな印象。
◇
Mからカナダ行きを命じられたボンドだが、「バハマのナッソーが怪しい」と言い出す。写真にあるNATOオブザーバのダーヴァル少佐(ポール・スタシーノ)が、保養施設で死んだ男と同じ顔だったからだ。
写真の隣には、その妹のドミノ(クローディーヌ・オージェ)が水着姿で写っており、ボンドはナッソーで彼女に近づく。水着もドミノに因んでモノトーンだとか。
保養施設でボンドを殺しかけ、最後には退院したボンドを追いかけて正体不明の女ライダーに撃たれド派手に車ごと大破するリッペ伯爵。
彼は原作ではボンドに蒸し焼きにされかけたことで、本来の職務を遂行できずスペクターに消されたことになっているが、映画ではわかりにくい。
一方で、ナッソーが怪しいと敵の行動をMが一人で推理してしまう原作よりも、このリッペ伯爵やダーヴァル少佐の存在によりボンドがナッソーを疑うことになる、映画オリジナルのプロットは出来が良いように思う。
シリーズ初の水中戦
ナッソーに来てからのボンドは、リゾート地でボンドガールのドミノと親しくなり、彼女を愛人にしている本作のメインヴィラン、エミリオ・ラルゴ(アドルフォ・チェリ)にカジノのカードゲームで近づく。
そして旧知のCIAのエージェント、フェリックス・ライター(リク・ヴァン・ヌッター)や現地スタッフの支援を得てミッションを進めるというあたりは、いつもの要領どおり。
ラルゴの片目に黒い眼帯姿は海賊のようで、なかなか雰囲気が出ている。
ライターの登場もお馴染みのものだが、面白いことに、毎回キャストが変わっている。これは、次作の撮影時に高額のギャラを要求してくるために、毎回変更してしまうのが理由らしい。
ちなみに、ダニエル・クレイグのボンド時代からは、ジェフリー・ライトが連続登板でようやく定着。
◇
核弾頭を搭載して沈んだ爆撃機をみつけようとラルゴを探るボンド。
逃走中のボンドをクルマに乗せてくれた二人目のボンドガール、フィオナ・ヴォルペ(ルチアナ・パルッツィ)もタコの指輪をしたスペクターの幹部で、彼の刺客であった。
ライダースーツのグラマラス美女は、峰不二子の原型となったとも言われる。
マルティグラの盛大なパレードの中の逃走劇や、殺人ザメの入ったプールでの格闘など、シリアス路線の見せ場も多い。
珍しくアロハシャツ姿で出張してきた堅物のQが、「君は使い方が乱暴すぎる」と文句をいいながら秘密の小道具の説明をするなど、笑える場面も健在。
入浴中のフィオナに「何か身につけるものを」といわれ、ボンドがサンダルを放るところは歴代名シーンのひとつ。
本作のクライマックスは、海中で発見した爆撃機をめぐっての、ラルゴたちのスペクター組と、ボンドたちの米国海軍組との水中バトルだ。これは団体戦でもあり、かなり見応えがある。
私の素人目には、水中ゆえにダルな動きにしか見えず迫力はいまひとつだが、当然特撮などではないだろうし、撮影時の苦労を思うと、この場面は称賛に値する。両陣営のウェットスーツの色が違うのも、視認しやすくていい。
◇
そして最後は、ラルゴに殺されたのかと思われたドミノが一矢を報いる。というより、絶体絶命のボンドに代わって、ドミノがラルゴの息の根を止めるのである。兄の仇討ちだ。
ラスボスを主人公自らが倒すことにこだわらないのも、この作品の軽妙な魅力なのかもしれない。