映画『首』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

映画『首』考察とネタバレ|これは、令和の<風雲!たけし城>か

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『首』

北野武監督が長年の構想の末に完成させた、本能寺の変の新解釈映画。豪華キャストによる緊張感漲る演技に注目

公開:2023 年  時間:131分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本・原作:    北野武

キャスト
羽柴秀吉:     ビートたけし
明智光秀:       西島秀俊
織田信長:        加瀬亮
黒田官兵衛:      浅野忠信
羽柴秀長:       大森南朋
徳川家康:        小林薫
千利休:        岸部一徳
難波茂助:       中村獅童
曽呂利新左衛門:    木村祐一
荒木村重:       遠藤憲一
斎藤利三:       勝村政信
般若の佐兵衛:      寺島進
本多忠勝:       矢島健一
服部半蔵:       桐谷健太
宇喜多忠家:      堀部圭亮
蜂須賀小六:       仁科貴
滝川一益:       中村育二
丹羽長秀:      東根作寿英
安国寺恵瓊:      六平直政
間宮無聊:      大竹まこと
清水宗治:       荒川良々
森蘭丸:         寛一郎
弥助:          副島淳
為三:         津田寛治
遣手婆:        柴田理恵

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2023KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd

ポイント

  • 戦国時代の『アウトレイジ』だよこれ。全員ヤクザ風の前作と違い、今回は配役もバラエティ感が強め。北野監督が撮ると、本能寺の変はこうなるか。頻出する首刎ねシーンは衝撃的だが、次第に感覚も麻痺するので大丈夫(か?)。北野監督が王道のバイオレンス映画に戻ってきたことに安堵。

あらすじ

天下統一を目指す織田信長(加瀬亮)は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい攻防を繰り広げていた。そんな中、信長の家臣・荒木村重(遠藤憲一)が謀反を起こして姿を消す。

信長は明智光秀(西島秀俊)や羽柴秀吉(ビートたけし)ら家臣たちを集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索命令を下す。

秀吉は弟・秀長(大森南朋)や軍師・黒田官兵衛(浅野忠信)らとともに策を練り、元忍の芸人・曽呂利新左衛門(木村祐一)に村重を探すよう指示。

実は秀吉はこの騒動に乗じて信長と光秀を陥れ、自ら天下を獲ろうと狙っていた。

レビュー(若干ネタバレあり)

北野武監督の待望の最新作。クランクアップから3年以上が経過するも、KADOKAWAとの契約をめぐる対立でお蔵入りかと騒がれていた本作。

更にオリパラ絡みの贈収賄で角川歴彦会長が逮捕・会長辞任と騒動が続き、いよいよ暗礁に乗り上げた感が強まっていたが、ついに待望の公開となった。

北野作品で東宝配給は珍しいと冒頭に少々驚いたが、初期の佳作『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)から32年ぶりらしい。自身で撮る時代劇としては『座頭市』(2003)以来ということになるか。

ただし、今回は史実をベース、しかも織田信長が天下布武をめざし、家臣・荒木村重の謀反から明智光秀による本能寺の変、そして最後に羽柴秀吉が知略で勝ち残ると言う、戦国時代の最も映画的な部分を切り取る。

(C)2023KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd

過去、大河ドラマをはじめ数多くの時代劇が作られたこのドラマを、いたずらにコントや現代解釈に逃げ込まずに、血生臭い演出で撮る。この取り組み姿勢が、いかにも北野監督らしい。

だって、このバイオレンス寄りの時代絵巻は、どうみたって戦国時代版の『アウトレイジ』だ。名だたる歴史上の豪傑たちを北野作品おなじみの豪華な面々が演じているところも、<アウトレイジ三部作>を彷彿とさせる。

冒頭から狂気の演技と尾張弁で圧倒的な存在感を見せる、加瀬亮織田信長『アウトレイジ』の金庫番から出世したインテリヤクザとはまた違う高みへ飛躍。

「努力次第で跡目を譲ってやるに、お前ら死ぬ気で働け」

家臣たちを奴隷扱いの独裁者ぶり。劇場予告で何度も目にした印象的な台詞やカットが、実は本編では冴えない作品はよくあるが、本作に関しては予告編の上を行く。

信長が荒木村重(遠藤憲一)忠誠心を試すため刃先に刺した饅頭を食わせるシーンなども、劇場予告の先に、想像以上の過激さと、さらに衆道まであろうとは。さすがはR15指定の世界。

(C)2023KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd

羽柴秀吉サルや、徳川家康(小林薫)タヌキは良く知られるが、明智光秀(西島秀俊)ハゲ滝川一益(中村育二)ギョロ目と、家臣は誰でも蔑称で呼びたがる信長。

特に光秀ハゲと連呼するあたりは、豊田真由子元議員が世間を賑わせた2017年の「このハゲー!違うだろ!」発言報道の影響か。北野監督自身、あの報道で「これ、ニュースなら言ってもいいんだ!」と思ったと語っていたし。

過去の北野作品では銃撃戦がメインだったが、本作はタイトルにもあるように、敵を斬っては大将の首を取る、或いは一族郎党の首を処刑して刎ねる。これは結構エグい。下手すると気分が悪くなるレベル(次第に感覚が麻痺するので平気になるが)。

また、男色の話を積極的に採りいれたせいか、女優陣もほとんど登場しない。ワンシーンに遊女たちがでてくるくらいだ。名のつく役は遊女を仕切る遣手婆柴田理恵だけというのは面白い。レジェンド信長はいても、バタフライ帰蝶は登場しないのだ。

ハゲ呼ばわりの光秀を演じた西島秀俊は、その善人キャラゆえヤクザ映画には出番なく、『Dolls』(2002)以来久々の北野作品オファー。気位たかく生真面目な性格がいかにも光秀っぽい。

対する謀反者の荒木村重役の遠藤憲一も、北野作品では初監督作『その男、凶暴につき』(1989)以来ではなかったか。この二人は実は互いに好き合う仲で裸で同衾したりして。

西島秀俊が男と愛を語らう姿は『きのう何食べた?』に見えて仕方がない。

(C)2023KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd

たけしが演じる秀吉の側近には、弟の羽柴秀長(大森南朋)と軍師の黒田官兵衛(浅野忠信)大森南朋『アウトレイジ 最終章』でたけしの右腕役をやり、たけし配下でシリーズを生き残った稀有な存在だった。

今回も、秀吉に気さくに意見できる数少ない人物として活躍。浅野忠信『座頭市』(2003)以来の北野作品。前作の敵役から今回は参謀。

この二人はともに、北野監督が無駄な芝居や動きは好まないのも体感しているし、一発勝負の撮影スタイルも熟知している。

だからこその、秀吉が突如繰り出す予定外の台詞や無茶ぶりに、アドリブで必死に応酬したり、何とか自分なりの爪痕を残そうとしている姿が、スクリーンから伝わってくる。

劇中に合戦シーンは何度か出てくるし、それなりにカネもかかっていて壮大ではあるが、史実を追いかけるだけの俯瞰ショットのようなものは少なく、傍目には勝敗も見えづらい。あくまで、合戦の中で必死にもがく兵隊目線のショットなのだ。

戦線で鎧をつけ甲冑姿の秀吉が軍略を指示する。まるで『風雲!たけし城』のひとコマだ。つい、隣に谷隼人を探してしまうが、そこにいるのは大森南朋浅野忠信

(C)2023KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd

合戦シーンで笑ったのは、徳川家康(小林薫)何度も影武者を用意しては、すぐに敵陣営に斬殺されるのを繰り返すところ。『影武者』といえば黒澤明だが、これが北野流の解釈なのかもしれない。

黒澤といえば、侍の時代活劇が国を渡り『荒野の用心棒』『荒野の七人』といったガンファイトに変わっていった訳だが、北野武は、自身のヤクザ映画の銃撃戦を侍の時代劇に再アレンジしたといえる。

これまでの監督作品では、たけし本人が主演する場合には、組織のボスからの命令で不条理な仕事をやむなく引き受け、ひどい目に遭って最後は復讐に燃える展開が多かった。

一方、本作の秀吉は、たけしが初めから策士なのがユニークだ。今までのパターン踏襲なら、彼が光秀をやりそうなところだから。

そして意外なことに、これだけ多くの歴史上の大物が揃っている中で、本作で最も見せ場の多いおいしい役を演じたのは、どの軍にも抱えられていない、カネ次第で動くような連中なのだ。

抜け忍で今は芸人という曽呂利新左衛門(木村祐一)、百姓の出で秀吉に憧れ侍大将を夢みる難波茂助(中村獅童)、この二人が物語の展開上は実の主人公といってもいいほどの活躍をみせる。

(C)2023KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd

二人とも、映画の中ではむちゃくちゃ汚い格好の役なので(引き受けた中村獅童も偉い)、とても終盤にむけて大暴れするとは思っていなかったが、終わってみれば秀吉や光秀を凌ぐ活躍ぶり

また、甲賀の里を統率する般若の佐兵衛(寺島進)も、痺れるほどの男前。北野作品常連の寺島進だが、これほどかっこいい役を与えられるのは珍しい。

(C)2023KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd

北野作品ということで当然海外市場も大注目だろうが、日本人なら誰もが知るところのこの歴史の1ページは、丁寧に説明することをしない。

また観客が日本史を知ってる前提でのポツリと呟く台詞の面白さも随所にあることから、これを海外で理解してもらうのは、結構大変かもと思ってしまった。

裏を返せば、世界史に疎い私のような者が、その面白味を十分に理解できていない優れた歴史映画は、海外にいっぱい存在しているのだろう。

ともあれ、本作は『アウトレイジ』同様に、監督からオファーを受けた俳優たちが実に嬉しそうに真剣に取り組んでいる様子がありありと伝わってきた。首実検はグロいけどね。