『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』
The Lord of the Rings: The Return of the King
公開:2003 年 時間:201分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: ピーター・ジャクソン 脚本: フラン・ウォルシュ フィリッパ・ボウエン 原作 J・R・R・トールキン 『指輪物語:王の帰還』 キャスト フロド・バギンズ: イライジャ・ウッド サム: ショーン・アスティン ピピン: ビリー・ボイド メリー: ドミニク・モナハン ガンダルフ: イアン・マッケラン アラゴルン: ヴィゴ・モーテンセン レゴラス: オーランド・ブルーム ギムリ: ジョン・リス=デイヴィス エルロンド: ヒューゴ・ウィーヴィング アルウェン: リヴ・タイラー ガラドリエル: ケイト・ブランシェット デネソール: ジョン・ノーブル ボロミア: ショーン・ビーン ファラミア: デビッド・ウェナム ゴラム: アンディ・サーキス セオデン: バーナード・ヒル エオメル: カール・アーバン エオウィン: ミランダ・オットー ビルボ・バギンズ: イアン・ホルム
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
あらすじ
中つ国の命運を分ける最終決戦がついに始まる。邪悪な力を持つ指輪を滅びの山に捨てるべく旅を続けるフロドとサムだったが、ゴラムを道先案内に燃えさかる滅びの山を目指すが、ゴラムの策略にはまり仲を裂かれてしまう。
一方、ヘルム峡谷の戦いで思わぬ敗北を喫したサウロン軍は、総力を結集して人間の国ゴンドールを襲撃。王としての務めを果たそうとするアラゴルンは、数では劣る味方の軍勢を率いて死闘を繰り広げていた。指輪を担う者が旅の目的を遂げることに、一縷の望みを託しながら。
レビュー(ネタバレあり)
ついに完結編
ピーター・ジャクソン監督による三部作もついに完結編。アカデミー賞で作品賞をはじめ11部門を受賞するという、『ベン・ハー』『タイタニック』に並ぶ史上最多受賞の快挙。
前作同様に『スペシャル・エクステンデッド・エディション(SEE)』なるものが50分増量で用意されており、原作由来のエピソードも多く収録されているようだが、俄かファンの私には本作で十分満腹感あり。
◇
冒頭、指輪を川で拾った友人をスメアゴル(ゴラム)が絞殺し、いとしいしとを手にする回想シーンがいい。
彼は元来ホビットの支族に属するようだが、この時点では今よりもだいぶ人間味のある風貌だったのだ。前作に続き、本作もゴラムの憎めない敵キャラは魅力的。
その後に登場するホビット族のピピン(ビリー・ボイド)とメリー(ドミニク・モナハン)は、こんな切迫した事態でも喫煙と飲食を満喫中。
ここだけ切り取れば不届き者だが、今回の目玉は、リングを葬る過酷な旅を続けるものの、どう見たってふがいないフロド(イライジャ・ウッド)を命がけで支える三人の小さき勇者たち。
すなわち、前述のピピンとメリー、そしてフロドに同行するサム(ショーン・アスティン)の活躍なのである。彼らにここまでの活躍の場が与えられるとは、一作目からは想像できない展開だ。
フロドとサム、スメアゴル
シリーズ完結編は当然ながら、冥王サウロンの野望を阻止すべく、指輪所持者であるフロドが当初の目的であるリングを捨てることができるかに焦点があてられる。
旅の仲間たちは一丸となるのではなく、大きく三つのパーティに分散することになる。
一つはフロドとサム、そしてスメアゴルのグループ。スメアゴルの道案内で危険なルートを選んで塔や峠を抜けて滅びの山を目指す。
◇
途中、原作にはない大蜘蛛との対決が最大の見せ場だろうが、ここはレイ・ハリーハウゼン監督のストップモーションアニメを思わせる動きが懐かしくていい。蜘蛛の糸でミイラ男のように動けなくなるフロドの姿にも芸術性を感じる。
フロドは原作通りとはいえ、すっかりスメアゴルに手玉に取られ、人物的には精彩を欠く。彼が初志を貫徹できたのは、サムの人間の大きさによるところ大で、何とも歯痒い。
ガンダルフとピピン、そしてアラゴルンたち
ガンダルフ(イアン・マッケラン)はピピンとともに、サウロンが襲撃計画を立てているゴンドールの都ミナス・ティリスに向かう。
ゴンドールの執政デネソール(ジョン・ノーブル)は一作目で戦死した長男ボロミア(ショーン・ビーン)を愛しており、次男ファラミア(デビッド・ウェナム)にはつらくあたる。
この父子の確執は前作から匂わされていたが、完結編でも不和解消せずに父は無残な死を遂げる。
残るアラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)はレゴラス(オーランド・ブルーム)やギムリ(ジョン・リス=デイヴィス)そしてメリーらとともにローハン王国に入り、ゴンドールに援軍を出そうとしていた。
アラゴルンら勇者三名の活躍は言わずもがなだが、ここでは小さいながらも仲間のために積極的に戦うメリーの姿に心打たれる。
女だてらに兵士として戦うエオウィン(ミランダ・オットー)とメリーが力を合わせて、ついにはナズグルの首領「アングマールの魔王」を倒す。
ついに倒れるサウロン
三つのパーティはそれぞれが連携することなく、だが互いの生存と目的の達成を信じて突き進んでいく姿が美しい。
フロドのために、命を張って陽動作戦に出てサウロンの注意をそらすアラゴルンたち。情報過多の現代にこそ、この繋がらなくても信じ続ける仲間の絆の尊さが沁みる。
そして、幽霊船の海賊のような大量の死者の霊たちが、アラゴルンとの約束によりオークたちに襲いかかる。普通なら敵キャラでしかありえない死者たちがサウロン勢を量で圧倒するシーンの痛快さ。
◇
本作には、不思議なことにラスボスであるサウロンと戦ってついに相手を倒す展開がない。これは原作通りなのだが、正直いって三部作の完結編にそれは画竜点睛を欠くのではと思った。
だが、それではアラゴルンたちが主役になってしまう、本作の主役はあくまで、欲望に抗いながら指輪を捨てるフロドなのだという考えから、この形をとったのだと知る。そういわれると、これは理に叶っている気になる。
最後まで心揺らぐフロド
土壇場でリングを捨てる直前に、「リングは俺のものだ」と指にはめて透明になるフロドの心の弱さ。そして、フロドの指を食いちぎりリングを奪って大喜びするスメアゴル。
だがフロドともつれあい、そのまま谷底に転落死。そしてリングも溶岩流のなかに溶けていく。これでサウロンの野望は葬り去られた。ああ、哀れなスメアゴル。あの憎めないキャラにこの最期とは。
◇
原作未読だと登場人物の名前や種族、各国の地名など、理解しにくいものが多いけれども、大雑把に全体の相関をつかむことくらいなら、どうにかなる。
私のように、原作を読んでいながら、誰が誰だか混乱してしながら観ていた人もいるかもしれない。ちなみに、「王の帰還」の王とは、かつてサウロンを倒した王イシルドゥアの末裔アラゴルンのことである。
大人目線で考えると、ツッコミたい点がいくつもある気はするが、大御所トールキン先生の名著を相手にそんなつまらないことを言い出しても始まらない。
ホビットたちの世界に夢中になれる純真無垢だった幼少期に、この映画に出会えることができたらと、少し悔しい思いである。
ファンタジー小説を忠実に優美な三部作に仕立て上げた、ピーター・ジャクソン監督の偉業には今更ながら賛辞を贈りたい。さあ、次は『ホビットの冒険』三部作に進むかな。