『モービウス』
Morbius
ソニーズ・スパイダーマン・ユニバースの三作目は吸血鬼と天才医師の顔を持つダークヒーロー。
公開:2022 年 時間:108分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ダニエル・エスピノーサ
キャスト
モービウス: ジャレッド・レト
マイロ: マット・スミス
マルティーヌ: アドリア・アルホナ
ニコラス: ジャレッド・ハリス
ロドリゲス: アル・マドリガル
ストラウド: タイリース・ギブソン
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
天才医師マイケル・モービウス(ジャレッド・レト)は幼い頃から血液の難病を患っていた。
同じ病に苦しみ、兄弟のように育った親友マイロ(マット・スミス)のためにも治療法を見つけ出そうと、コウモリの血清を投与するという危険な方法を試す。
彼の身体は驚くべき変化を遂げ、超人的な筋力、スピード、飛行力に加え、周囲の状況を感知するレーダー能力まで手にするが、その代償として得たのが抑えきれない“血への渇望”だった。
人工血液を飲みながら、人間としての意識を保とうとするマイケルの前に、生きるために血清を投与してほしいと懇願するマイロが現れる。
レビュー(まずはネタバレなし)
全編に既視感ありのヒーローもの
『ヴェノム』(2018)から始まった「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)」。当初の不安は二作目の『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』でちょっと持ち直したように思え、本作には期待していただけに、この失望は大きい。
SSUは別にMCUに対抗しようなどという野心は抱いていないのかもしれないが、本作はあまりに残念な内容だった。
◇
今世紀に入ってから、スパイダーマンやMCU、或いはダークナイト・トリロジーなどの影響で、アメコミ・ヒーローの映画は各段にレベルが上がった。もはや子供向けの作品の域を超えている。
SSUの最新作とくれば、当然そのようなものを期待するが、本作は随所に古臭さを感じてしまうのだ。1990年代の作品といわれても、さほど驚かないだろう。
主人公のモービウスは、スパイダーマンの敵役として知られるマーベルコミックのキャラクター。
天才医師である彼は、生まれつきの血液系疾患を抱えており、蝙蝠の血清を利用した治療を試みた結果、血に飢えたバンパイアと人々の命を救う医師としての人格が共存する。
キャラクター設定としては、けしてつまらなくはない。ただ、蝙蝠系ヒーローといえばDCのバットマンというメジャープレーヤーがいるし、天才医師のヒーローにはドクター・ストレンジもいる。更には、モービウスの生態はほぼ吸血鬼なので、子供のころから観てきたダークホラーとの既視感がハンパない。
出自の紹介など駆け足でよい
冒頭、モービウスが少年時代に血液系疾患の病棟でマイロと出会い親友になるまでは、雰囲気もあって作品の期待も高まったのだが、その後に大人になってからの展開がもたつく。
天才医師となったモービウスが、蝙蝠から吸血する器官を摘出し、それをヒトの細胞と組み込むことで血清を生成する。自分の身体で試してみると、吸血鬼のような怪物に変貌してしまう。それを映画では丁寧に描いている。
だが、このプロセスって、もはや必要か? 血清を実験で打ったら怪物になるのなんて、これまで幾度となくヒーロー作品で観てきており、こんなのアバンタイトルでさらっと処理してしまって何ら不足はない。
MCUの迷作『インクレディブルハルク』でさえ、ここはダイジェスト扱いだったと記憶する。まして本作は108分と近年のヒーローものにして短めなのだから、こんな分かりきった成り立ちに時間を割くべきではない。
同じ血清を打ってしまった親友が、モンスターと化しヴィランになるという展開も、マーベル作品ではよくあるパターンだ。話としては盛り上がるが、さすがに目新しさはない。
おまけに、モンスターとなるモービウス(ジャレッド・レト)も親友のマイロ(マット・スミス)も、その変貌の様子は最先端の特撮技術とは縁遠く、マイケル・ジャクソンの『スリラー』のMVを思わせる懐かしさ(まあ、ジョン・ランディス監督の傑作だけど)。
地下鉄の駅で二人がもつれて戦う様子は見応えがあるにはあるが、流れるように尾を引く残像の処理がどうにも時代遅れに思える。『ヴェノム』の馴染めない、あの漫画チックな造形デザインがなくなったのは歓迎だけれど。
掘り出し物のマット・スミス
モービウスを演じたジャレッド・レトに不満はないが、なにかモンスターとなる前から吸血鬼っぽい精悍でギラついた風貌でもあり、あまりに当たり前すぎて印象が薄い。これならば、『ハウス・オブ・グッチ』(リドリー・スコット監督)での怪演のほうが、余程インパクトがあった。
◇
その代わりというのではないが、ヴィランであるマイロを演じたマット・スミス、彼の方が本作ではキャラが立っていて面白い。
スパイダーマンのシリーズはなぜか悪役に人間味があって(人間だもの)、魅力的にみえるケースが多い。総じて敵役が没個性で面白くないMCUとは対照的なのだ。
はじめは善良そうにみえたマイロが吸血鬼となる。パワーを漲らせて肉体を鼓舞しながら踊るように正装に着替え、顔だけモンスターになるというコミカルな演出は、まるでジム・キャリーの『マスク』のよう。ほら、やはり90年代のイメージの映画だ。
マット・スミスは、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021、エドガー・ライト監督)の伊達男役の好演が記憶に新しいが、本作においては彼の存在が数少ない拾い物。
レビュー(ここからネタバレ)
次回作ホントに公開されるかな
ネタバレと書いてみたものの、本作にはあえて特筆するようなネタがない。
ただ、米国でも公開当時、あまりの期待外れな内容に、酷評を通り越して、いじられる対象となってきたという話もある。日本でいうところの、『大怪獣のあとしまつ』に近い反応かもしれない。
この作品を観ると、はたしてSSUにはちゃんと次回作が登場するのか不安視してしまうが、一応ラストには今後の作品展開に含みをもたせる。
まずは終盤の戦いで死んだと思われたマルティーヌ(アドリア・アルホナ)が、モービウスの血によって復活する。彼女は今後、新たなるモンスターとして再登場してくる可能性があるようだ。
さらに取って付けたようなおまけがある。『スパイダーマン:ホームカミング』のヴィランであったバルチャー(マイケル・キートン)が突如現れて、モービウスにチームアップを呼びかけるのだ。
ここまでほぼ、SSUから独立した話でありながら(デイリー・ビューグル紙は出てきたけど)、土壇場で強引にスパイダーマンのユニバースに組み入れることの是非は、人によって意見が分かれるところ。
◇
それにしても、あまりに新味のない吸血鬼ヒーロー映画。これはホントにソニーズ・スパイダーマン・ユニバースの新作なのか。
コアなファンやレトロなヒーロー映画が好きな方にはぜひオススメだが、一般ピープルには微妙な反応になること請け合い。少なくとも私には刺さらず。