『俺達に墓はない』
公開:1979 年 時間:91分
製作国:日本
勝手に評点:
(悪くはないけど)
あらすじ
ムショ帰りの島勝男(松田優作)は軍資金を調達するためデパートで爆弾騒ぎを起こし、大金を奪う。そんな島の後ろをつける不審な男(志賀勝)。
男に気にも留めなかった島はアジトであるバーで、弟分で相棒のヒコ(岩城滉一)と暴力団への襲撃を計画している最中、酔いつぶれた女・ミチ(竹田かほり)と出会う。
今更レビュー(ネタバレあり)
軽妙タッチの優作が好き
松田優作の『遊戯シリーズ』三部作の間を埋めるように撮られた東映セントラル作品。同1979年に公開された『蘇える金狼』や『処刑遊戯』といった硬派ハードボイルドに比べると、相当に軽妙なタッチで撮られている。この『探偵物語』的なノリは嫌いではない。
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ただ、主人公はあまり常識的には褒められた人物ではない。何たって冒頭のシーンから、出所したばかりの島勝男(松田優作)が、デパートの洋品店売り場にダイナマイトを仕掛けて売上を奪い、大きなヤマを踏むための軍資金を作ろうというのだから。
玩具の銃に不発の爆弾、おまけにレジから現金を鷲掴みにする強盗手法といい、時代を感じさせる。ここまで危ない橋を渡って、手にした資金は87万、当時ならまずまずの収穫なのか。
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このデパートで島が顔を見られた売り子が川村ミチ(竹田かほり)。数日後に島は、弟分のヒコ(岩城滉一)が新宿ゴールデン街でやっている店・阿邪馬(アジャバ―という名のバーか)で、ミチと偶然再会。デパートでただ一人逃げ遅れたミチは犯人と疑われ解雇されたようだ。
バディ・ムービーといえるのか
こうして男二人に女一人という、いかにも犯罪映画にありそうな組み合わせができあがる。本作は島とヒコのバディ・ムービーというわけでもない。
少年院で知り合ったという二人は仲も良いし、ヒコは兄貴を慕ってはいるが、ちょっと頼りないイケメン青年。そういう意味では岩城滉一のキャスティングはハマっている。関係性でいえば『傷だらけの天使』のショーケンと水谷豊に近いかも。ヒコが犬のようにじゃれつく姿も似ている。
本作で島と風変りなバディを組む形となるのは、ピラニア軍団・志賀勝が演じる謎の刺青男・滝田だ。はじめは、同じ都築興業の金庫を狙う正体不明の商売敵だったが、獲物を横取りされた滝田を島が追いかけるうちに、いつしか互いの実力を認め合う関係となり、一緒にヤマを踏むことになる。
大事故と背中合わせのカースタントは、当時は特撮なしだろうから凄い迫力だし、二台とも海にダイブさせちゃう大胆さも近年では新鮮。挙句の果てには、殴り合いの死闘の後にサウナで仲直りという、大時代的な展開も微笑ましい。
いつしか、島と滝田には信頼関係が芽生え、一方滝田のおかげで都築興業の連中に捕まり、私刑にかけられたヒコは、滝田に強い恨みを抱くという、人間相関図が出来上がる。豚小屋で私刑といえば『孤狼の血』(白石和彌監督)だが、こちらが元ネタか。
麻薬中毒にみえないミチの健康美
『探偵物語』でもお馴染みの竹田かほり扮するマドンナのミチはいつしかヒコといい仲になっており、シャブ中になっている設定だというのに健康的な魅力は維持。
バー阿邪馬に有線から流れるピンクレディの「カメレオン・アーミー」や「ジパング」に混じって、竹田かほりが後に結婚する甲斐よしひろの「HERO」が流れるのは偶然ではあるまい。
物語は島と滝田が組んで成田空港行の富裕層のツアーバスを襲い、賭博資金を巻き上げることには成功するが、あとからヒコが絡んできて、仲間割れと殺し合いに発展してしまうという流れだ。
アクションそのものは迫力ものだが、不織布マスクの上から煙草を吸ってみたり、湯船に顔を付けてサングラスをつけてみたりと、優作のおふざけも止まらない。
警察の非常線を突破するために、カップルの二人乗り自転車から男を下ろし、代わりに島がペダルを漕ぐ。乗っている若い女が友情出演の森下愛子。当時は子供心に竹田かほりと似ていると感じていたが、同じ作品で目にすると、違いがよく分かる。
お楽しみ三点セット
この時代の邦画のお楽しみはロケ地とクルマ、それにチョイ役の出演者だが、今回の舞台は主に新宿。高層ビルが数えるほどの西新宿が目につく。歌舞伎町界隈は、当時も今もあまり違和感はないか。
クルマは『遊戯シリーズ』同様にマツダ車中心か。目立ったのは、名前の割にスポーティなグランドファミリア。後半、大金を手にして豪遊するミチが乗り回すのが赤いいすず117クーペ。流麗なデザインがイイ女に合う。ここで輸入車が登場しないところは、時代を感じる。
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他の出演者は、敵の暴力団のダンディな組長には大河ドラマ常連だった内田稔、その組員にはミイラ男のような包帯姿になっても島を襲う石橋蓮司や、チョイ役だが図体のでかい阿藤快。
また、ワンシーンのみだが、病室で滝田を尋問する刑事が三谷昇と山西道広なのはご愛嬌。そうそう、ダッチワイフのデリバリーをしてくれる山谷初男も、人の善さが滲み出ている。
冷静に振り返ると、松田優作・岩城滉一・志賀勝・竹田かほりという主要メンバーはみんな腹黒い人物であり、みんな好きに殺し合ってくれよと突き放した感じで観てしまったが、クライム・アクションなんてそんなものか。
本筋と殆ど絡まないが、ナース服で滝田の病室に「排尿の時間です」と警察の目をくぐって侵入し、瞬く間に拳銃を渡して、ポットの緑茶を尿瓶に入れて去っていく敵組織の山科ゆりの手さばきが、誰よりも鮮やかだった。次にヤマを踏むなら、彼女と組むべき。