『天国にいちばん近い島』
大林宣彦監督が『時をかける少女』に続き、原田知世を起用した作品。亡き父に聞いた、ニューカレドニアにあるという、天国にいちばん近い島を探し求めて女子高生が旅に出る。
公開:1984 年 時間:102分
製作国:日本
スタッフ 監督: 大林宣彦 脚本: 剣持亘 原作: 森村桂 『天国にいちばん近い島』 キャスト 桂木万里: 原田知世 タロウ・ワタナベ: 高柳良一 深谷有一: 峰岸徹 村田圭子: 赤座美代子 タイチ・ワタナベ: 泉谷しげる ユキコ・ワタナベ: 峰岸美帆 桂木次郎: 高橋幸宏 桂木光子: 松尾嘉代 青山良男: 小林稔侍 山本福子: 小河麻衣子 中山千枝: 石井きよみ 石川貞: 乙羽信子
勝手に評点:
(私は薦めない)
コンテンツ
あらすじ
桂木万里(原田知世)は、ドジで根暗な高校生。彼女は5歳の時、南太平洋に浮かぶ小さな島・ニューカレドニアの名を、父・次郎(高橋幸宏)がしてくれたおとぎ話で知った。
そこは、神さまのいる天国から、いちばん近い島だという。万里にとって<天国にいちばん近い島>は父と一緒に行く約束の場所だったが、突然、その父が亡くなった。
万里は母・光子(松尾嘉代)に相談し、冬休みのニューカレドニア・ツアーに参加した。
今更レビュー(ネタバレあり)
ずっと封印してきました
大林宣彦監督による角川映画弾3弾。前作の『時をかける少女』に続き、原田知世の主演作。
森村桂による同名原作の映画化だとずっと思いこんでいたが、元ネタはエッセイなので、インスパイアされて作ったものかもしれない。まあ、角川文庫が売れれば、細かいことは気にしない時代なのだ。
ちなみに、NHKの朝ドラ『あしたこそ』(1968)の原作でもあるそうだ、さすがに観たことがないけれど。主演が藤田弓子となると、『さびしんぼう』にも繋がっていくように思える。
◇
本作は、ネクラなメガネ女子の万里(原田知世)が、亡くなってしまった父が昔話をしてくれた、ニューカレドニアにあるという天国にいちばん近い島を探し求めて、海を渡る話である。一人旅の旅行記という点では、原作の意を汲んでいる。
公開時に観て以来、30年以上ぶりに観直したのだが、心のどこかで、記憶を封印してずっと遠ざけていたのだろう。なかなかにイタい作品なのである。
アイドル映画ではけしてない
当時本作を観に行った人の多くは、『時かけ』で原田知世に魅了されたクチだと思うが、みんな少なからず衝撃を受けたのではないか。だって、アイドル映画になっていないのだ。
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深窓の令嬢とは言わないが、華奢で色白で、清楚で純真で物静かで、などと彼女に勝手に抱いていたイメージが崩れ去る。
常にヘトヘトになってスーツケースを転がし、メガネもずり落ちて、炎天下に汗だくでメイクも落ちて、次第に日焼けしていく原田知世。コバルトブルーの海をバックに、写真集になりそうなアイドルショットは、ついぞお目にかかれないのである。まさに等身大、自然体の彼女。
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本作を観終わってボロボロになった心を癒してくれたのは、同時上映の澤井信一郎監督薬師丸ひろ子主演の『Wの悲劇』だったことをよく覚えている。あの時ほど、当時の併映システムをありがたく思ったことはない。
父親とのエピソードが弱すぎる
さて、本作は脱アイドル映画ではあるが、かといって芸術作品としてドラマに重きを置いているかというと、そうではない。
頼りない女子高生が、ツアー旅行とはいえ一人でニューカレドニアまで行き、勝手に動き回って危険を冒してまで約束の地を探すにしては、その動機が弱すぎる。
◇
幼い頃の父との約束が原動力なら、もっと強固なものにしなければ。橋の上で娘に向かって淡々と台詞をいうだけの高橋幸宏が父親役では、いくら若死にしても女子高生を動かすだけの説得力に欠ける。
むしろ、存在感のわりに全く本筋に絡まず、ツアー客の中に混ぜた意味が不明の室田日出男あたりが、適役だったのではないか。
大規模な製作費で海外ロケを組んだせいか、気前よく役を与えて参加させすぎたように感じたのは、室田日出男ばかりでなく、現地に住むマダム・ヒロコ(入江若葉)も何のための存在なのか分からない。
ツアーガイドの青山(小林稔侍)は良かったが、ツアー客で知り合った女子大生(小河麻衣子)はさすがにキンキン声がうるさく、ドラマに絡まないのなら静粛にしてほしい。
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父親との約束がヤワで牽引力がないために、行く場所ごとに、「ここではない、ここも違う」と嘆きながら旅を続ける万里に共感も湧かず、ただ台詞だけが上滑りして聞こえてしまう。
いちばんの見せ場だったはずの、ドラム缶の風呂に入った万里が突如号泣するシーンさえ感情移入できず、あまりに泣き方が不自然で観ている方が気まずくなる。
中年男の願望ムービーは勘弁
意外なことに、普段の大林映画なら、もっとも現実世界から遠い存在の峰岸徹が、本作では一番地に足の着いた芝居を見せてくれた気がする。
白いスーツ姿で登場するあたりは毎度お馴染みの伊達男ぶりだが、島の事情に詳しく狂言回し的な役を担い、最後には大人の恋も成就させたりする。
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ただ、万里がちょっとこの大人の男性に恋心を抱く展開は、いただけない。角川春樹が何より好きな、若い娘にモテるオッサンの話にする必要がどこにある(原作由来なのか)。
原田知世は本作に前後する『愛情物語』や『早春物語』でも、この角川の呪縛から逃れられてはいない。
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ところで、海外ロケを敢行した時点ですでにニューカレドニアは政情不安定で流血の独立運動が起きていた。それがまるで反映されず、映画は能天気に美しい島としか描かれていないと当時は批判もあったと記憶する。
だが、作品の本来のテーマを考えると、ここに今なお戦争の匂いを加えることは全体のバランスを崩すだろう。
なにより、反戦作家である大林宣彦監督なら、背後に流血沙汰が起きていても戦争の影を感じさせない絵を撮ることに強い思いがあったはずだ。
三世代の愛のカタチ
本作で思わぬ拾い物は、現地に暮らす日系三世のタロウ・ワタナベを演じた高柳良一の好演だ。坂道に停めたピックアップトラックの荷台から、大量のヤシの実が転がり落ちていく登場シーンからして、絵になっている。
日に焼けて逞しい好青年は、『ねらわれた学園』の剣道部主将を思い出させて、薬草を採りにタイムリープしてくる未来人より余程似合っている。何より、日本語がたどたどしいことが求められる役なのだ。本作の高柳良一は、なかなかいい。
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戦地で海に沈んだ夫の死に場所を訪ねて、戦後何十年も経って妻(乙羽信子)が島にやってきて、タロウの父(泉谷しげる)に船で現地に案内してもらう。
タロウと万里、その上の深谷(峰岸徹)と圭子(赤座美代子)、そして更にその上の世代の男女の愛を描くシーンだ。
だが、なぜかその妻は、戦争でも御国に供出しなかった結婚指輪を、「私だと思ってください」と言って海に投げるのだ。
おいおい、何してくれんねん。ここは、感動させる場面ではないんかい。妻ははるばる、再婚の報告にでも来たのだろうか。結婚指輪を妻に投げ返されて、喜ぶ男がいるか。
チルチルとミチル
終盤、タロウは美しい砂浜に座り、帰国の迫る万里に自作の紙芝居を披露する(漫画家のとり・みき作です)。
「私の<天国にいちばん近い島>を見つけた。それは眼の前にあります」
「僕もニッポンを見つけた。それは万里さんです」
結局、万里が探し求めていた<天国にいちばん近い島>は、タロウの心の中にあり、タロウにとって夢の国である日本は、万里の心の中にあった。メーテルリンクの『青い鳥』だ。探し物は身近なところにあるもの。
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予定調和でサプライズはないのだけれど、当時ヒットを飛ばした原田知世の同名主題歌では「てんごくにあなた、いちばんちかいしま~」と歌っている。ここに<あなた>が入ってたら、ネタバレじゃね?
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さて、本作は残念ながら終始辛口コメントになってしまって、心苦しい。原田知世をアイドル路線で見せず、ドラマにリアリティも求めない。
ならば、いつもの大林監督らしく、もっと実験的に攻めたり、合成や台詞で遊びまくってしまえば、カルト的な面白味が出たかもしれない。その意味では、ややどっちつかずな印象を拭えないのが惜しい。