『007 慰めの報酬』
Quantum of Solace
前作ラストの1時間後から始まる延長戦。とはいえ二年前の作品詳細を記憶している前提の物語の理解は厳しい。愛を捨て仕事に生きるボンドの人生観が形成されていく。
公開:2008 年 時間:106分
製作国:イギリス
スタッフ 監督: マーク・フォースター 原作: イアン・フレミング キャスト ジェームズ・ボンド: ダニエル・クレイグ カミーユ: オルガ・キュリレンコ グリーン: マチュー・アマルリック メドラーノ将軍: ホアキン・コシオ フィールズ: ジェマ・アータートン マティス:ジャンカルロ・ジャンニーニ ホワイト:イェスパー・クリステンセン フィリックス: ジェフリー・ライト グレッグ: デヴィッド・ハーバー M: ジュディ・デンチ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
前作で死んだヴェスパーの死の真相を探るためハイチに飛んだジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)。
奇しくも知り合った美女カミーユ(オルガ・キュリレンコ)を通じ、ヴェスパーを死に追いやった謎の組織の幹部ドミニク・グリーン(マチュー・アマルリック)に接近する。
ドミニクの巨大な陰謀を知ったMI6はボンドに任務を課すが……。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
冒頭からのテンポのよい展開とアクション
興行的には成功を収めた前作のエンディングから1時間後の設定、ミスター・ホワイト(イェスパー・クリステンセン)をMI6に連行するボンドが、敵組織の激しい追撃にあうカーアクションから始まる。
このアヴァンタイトルから、前作から一気にクールになったタイトルバックとテーマ曲、そしてホワイトの取り調べ中にボンドやM(ジュディ・デンチ)を攻撃する、謎の組織がMI6に潜入させたスパイ。
ここまでのテンポの良い一連の流れはかなり期待値を上げる。
前回活躍せずに廃車となった、ボンドカーのアストン・マーティンDBSは、今回もすぐにズタボロになるが、アルファロメオ159相手に見せ場があったのは好印象。
また、イタリア・シェナの家並みの美しいテラコッタの屋根でのチェイスとバトルも見応えがある。
前作の続編という設定のハードルは想像以上
だが、ここまでのつかみは良いが、娯楽アクションとして本作をとらえた場合、シリーズ初の前回続編という位置づけはハードルが高かったのではないか。
二年前の前作の詳細を記憶している前提なのは厳しい。実際私は、今回は前作と間を置かずに観たことで、封切当時の鑑賞では気づかなかった、複数の点をようやく理解した。
- ボンドが愛したヴェスパーは、彼のために前作で死を選んだ。今回死を偽装していたヴェスパーの元恋人(写真の男)は、彼女をミスター・ホワイトの組織に引きずり込んだ張本人といえる。
- 謎の組織のメンバーであるハイチの地質学者スレイト、その手がかりはル・シッフルに渡したはずの番号管理した札束とのことだが、前作の悪玉ル・シッフルを、名前だけでピンとくる人は少ない。
- 前作の黒幕がミスター・ホワイトとなれば、今回ボンドの良き理解者で協力者だったマティス(ジャンカルロ・ジャンニーニ)は、前作ボンドの早合点で、MI6の拷問を受ける羽目に遭っているのだ。なんといいヤツ。
- CIAのエージェントでボンドと通じている男は、よく見たら前作で一文無しになったボンドに賭け金を用立ててくれたフィリックス(ジェフリー・ライト)ではないか。
- ラストでボンドがやっと捕まえたヴェスパーの元恋人が、新しく獲物にしている女諜報部員の胸には、かつてヴェスパーが大切にしていたものと同じデザインのペンダント。
いずれもきちんと予習復習して観れば分かるだろうことだが、この娯楽シリーズでそこまでさせるつもりなのかと作り手の姿勢を疑う。
そこはもっと盛り上げないと
さて、仮にこれらの前作由来のネタを把握できていたとしても、まだ、本作には物足りなさが残る。ひとことでいえば、もっと盛り上がれるだけの素材があるのに、フルに活用できていない。
例えば、今回は貴重な協力者でちょい悪オヤジの魅力あるマティスの、なんと勿体ない扱い。
今回の敵ドミニク・グリーン(マチュー・アマルリック)がなぜ砂漠の土地の取得にこだわるか、石油に代わり採掘するものとは何かの見せ方も効果的だったとはいいがたい。
極めつけは、グリーンのやっつけ方だろうか。今回のボンドガールであるカミーユ(オルガ・キュリレンコ)が、家族を惨殺された憎き仇であるメドラーノ将軍(ホアキン・コシオ)に復讐を果たすというドラマはきっちり見せる。
だが、肝心のボンドの仕事ぶりはあっさり目だ。
かつての『ゴールドフィンガー』で金箔まみれで死んだボンドガールのように、石油まみれで殺されたMI6職員のフィールズ(ジェマ・アータートン)。その借りを返したようではあるが、グリーンを砂漠に置き去りにしただけの映像表現では、ちょっと消化不良気味。
◇
マーク・フォースター監督は私の好きな作風の監督なのだが、初期の『チョコレート』や『ステイ』、最近では『プーと大人になった僕』などの得意分野と本作では大きく異なる。
このシリーズで初めてアクションものを手掛けたのは、荷が重かったのかもしれない。
とはいえ、見どころもある
本作で気に入った点は、タイトルバックや舞台が各地に移動する際の地名を示すレタリングのカッコよさ。そしてM16の本部内の各種情報設備のデザインなどは秀逸。
これといったスパイ道具は出てこないけれど、携帯電話だけでも随分未来的に見えている。
ボリビアで宝くじに当たった高校教師だ、と言って高級ホテルのスイートを取るなど、ボンドの会話が洒脱になってきたことも嬉しい。
◇
振り返れば、この二作品によって、ボンドは初めて真剣に愛した女性ヴェスパーと決別し、ダブルオーの職務に邁進することになるのだ。
そして、貴重な情報源を片っ端からデッドエンドにしてしまう、この暴走しがちな若手諜報部員に、厳しくあたりながらも根っこでは信頼している上司Mとの、不思議な絆のようなものが、このあとどうなっていくかが、次回以降の見どころか。
『007 カジノ・ロワイヤル』
(2006)
『007 慰めの報酬』
(2008)
『007 スカイフォール』
(2012)
『007 スペクター』
(2015)
『007 ノータイムトゥダイ』
(2021)