『昭和歌謡大全集』
村上龍原作を篠原哲雄監督が映画化。若者VSオバサン集団の殺し合い合戦。
公開:2003年 時間:112分
製作国:日本
スタッフ
監督: 篠原哲雄
脚本: 大森寿美男
原作: 村上龍
『昭和歌謡大全集』
キャスト
イシハラ: 松田龍平
スギオカ: 安藤政信
ノブエ: 池内博之
ヤノ: 斉藤陽一郎
スギヤマ: 村田充
カトウ: 近藤公園
スズキミドリ: 樋口可南子
タケウチミドリ: 森尾由美
トミヤマミドリ: 細川ふみえ
イワタミドリ: 鈴木砂羽
ヤナギモトミドリ: 内田春菊
ヘンミミドリ: 岸本加世子
スガコ: 市川実和子
サカグチ: 古田新太
金物屋の店主: 原田芳雄
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
ことの発端はささいな行き違いだった。それまで何の接点もなかった6人の少年たちと6人のおばさんたち。
睡眠不足の昼下がり、ひとりの少年がひとりのおばさんの喉に突き立てた一本のナイフ。
復讐はさらなる復讐を呼び、殺し合いは続いて行く。そして少年とおばさんのプライドをかけた殺し合いは、いつしか〈戦争〉へと発展していた。
今更レビュー(ネタバレあり)
完璧な映画化だ
懐かしいNHKの歌番組と同じタイトルからは想像できない、シュールでバイオレンスに溢れた作品。
東京都調布市を舞台に、昭和の歌謡曲を愛する、6人の冴えない青年と6人のバツイチ・オバサン集団の殺し合い合戦を描いている。
◇
その過激な思想に基づくナンセンスでバカバカしい行動は、筒井康隆の作品を彷彿とさせるが、れっきとした村上龍原作の映画化だ。
それどころか、村上龍自身が「文句なく、自分の小説の映画化作品の中で一番」とまで言い切っているのだから、畏れ入る。
いや、でもそう言いたくなるのはわかる。だって、あれだけ過激でバカバカしい原作を、篠原哲雄監督は結構まじめに映像化しているし。
そこに小説には真似のできない、本物の昭和歌謡の名曲たちをぶち込んでいるのだから、原作以上に村上龍の思いを具現化できているのかもしれない。
個人的には、村上龍原作映画の頂点は『オーディション』(三池崇史監督)だと思っているが、確かに『昭和歌謡大全集』の突き抜け感は気持ちがいい。

<恋の歌>
イシハラ(松田龍平)ら6人の若者は共通の話題も趣味もなく、なんとなく集まっては、昭和の歌謡曲を歌う非モテ男子たち。ある日、その一人・スギオカ(安藤政信)が路上でヤナギモトミドリ(内田春菊)を刺殺する。
安藤政信は、続く村上龍原作の『69 sixty nine』でもおバカ男子たちの一人を演じるが、モテたいノンポリ高校生を描いた同作よりも本作の不健全さが笑える。調布の畑で刺され、スーパーで買ったアサリとともに殺されるヤナギが哀れだ。
<星の流れに>
スズキミドリ(樋口可南子)ほか、みなミドリという名の6人のバツイチ・オバサンたち。
その一人、ヘンミミドリ(岸本加世子)がヤナギの死体を発見し、現場に落ちていたバッチから、トミヤマミドリ(細川ふみえ)が犯人がゲーセン王者のスギオカだと割り出す。彼女たちは報復を決意。
<チャンチキおけさ>
事件現場で立ちションするスギオカを、ラッタッタに乗ってダスキン棒に出刃包丁でイワタミドリ(鈴木砂羽)が刺殺。豪快な放尿と出血で倒れるまでのカット割りが秀逸。
そこにチャンチキおけさが流れるカオス。ちなみに、ラッタッタって昔流行った原付ね。こうして若者とオバサンの仁義なき抗争が始まる。
<港が見える丘>
犯行現場を目撃していた、地縛霊みたいな女子大生のスガコ(市川実和子)からの情報で、どうやら敵はミドリ会だと知った若者たち。
埼玉県境の金物屋で店主(原田芳雄最高!)からトカレフを買うと、ヤノ(斉藤陽一郎)が月夜にお寺の境内でイワタを射殺。
<錆びたナイフ>
次にスガコはミドリ会に協力し、若者たちの正体が判明。湖畔の宿で元自衛官(古田新太最高!)から米軍払い下げのバズーカ購入。まさに目には目を、歯には歯を。
このあたりまでは、何となく三木聡っぽいゆるーい感じで報復合戦が続く。その過程で若者たちは行動に共通の目的を持つようになり、オバサンたちは人の話を聞くようになる。
主婦が集まって死体遺棄に夢中になる話、桐野夏生原作の『OUT』を思い出す。

<骨まで愛して>
そしてここらで戦いがスケールアップ。夜の海岸で歌っていた若者たち目掛けて、ミドリ会がバズーカを撃ち込む。
これでヤノ(斉藤陽一郎)、スギヤマ(村田充)、カトウ(近藤公園)は爆死、その後ノブエ(池内博之)も刺殺され、ついにイシハラ(松田龍平)だけが生き残る。
一方、ミドリ会はスズキ(樋口可南子)、タケウチ(森尾由美)、トミヤマ(細川ふみえ)、ヘンミ(岸本加世子)が健在。
<君といつまでも>
再び金物屋を訪ねたイシハラは、貧者の核兵器と言われる燃料気化爆弾の作り方を教わり、苦労の末に完成させる。製造工程の苦労をきちんと描いているところは、妙に好感が持てる。
<また逢う日まで>
ヘリをチャーターしたイシハラは、ミドリ会の面々が充実した日々を送っている調布上空から爆弾を落とし、町を壊滅させる。なんとまあ、不謹慎な展開であろうか。調布市民にしたら、たまったもんじゃない。
原作と違い、ノブエは途中で死ぬし、ヘリパイ(津田寛治)もイシハラに射殺されてしまう。松田龍平の何を考えているか読めない個性的な表情が、不気味さに拍車をかける。

キャスティングについて
ミドリ会の主力選手は樋口可南子と岸本加世子だが、茶髪でヤンキーあがりにしか見えない鈴木砂羽と森尾由美は普段とイメージが違い、細川ふみえもこれまでの起用と異なりグラビアアイドル的な役でないところが意外だった。
樋口可南子、岸本加世子、池内博之、安藤政信といった面々の顔ぶれをみると、北野武監督の作品世界と混同しそうだ。
バズーカでド派手な攻撃をしたあたりから激変する作風と、物語とは何ら関係を持たないようであるが実は意味のある昭和歌謡のサブタイトル。カルトムービーの匂いがプンプンと漂う。
篠原哲雄監督は、村上龍自身が監督した初期の複数作品などよりも、余程忠実に原作の世界観を映像化してくれているのだろう。
オバサンなんて殺されて当然だと若者たちを応援する金物店主の原田芳雄が、実に人間らしいキャラで好きだわ。
