『サブスタンス』考察とネタバレ|用法・用量を正しく守ってお使いください

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『サブスタンス』
 The Substance

落ち目の女優が謎の薬物で若さと美貌を取り戻す。デミ・ムーアがそこまでやるとは。

公開:2025年 時間:142分  
製作国:イギリス

スタッフ 
監督:      コラリー・ファルジャ


キャスト
エリザベス・スパークル: デミ・ムーア
スー:     マーガレット・クアリー
ハーヴェイ:     デニス・クエイド
フレッド:

   エドワード・ハミルトンクラーク
オリバー:     ゴア・エイブラムス
トロイ:     オスカー・ルサージュ
ダイナーの男:クリスチャン・エリクソン
男性看護師:      ロビン・グリア
医師:         トム・モートン
ディエゴ: ウーゴ・ディエゴ・ガルシア

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS

あらすじ

50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス(デミ・ムーア)は、容姿の衰えによって仕事が減っていくことを気に病み、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、「サブスタンス」という違法薬品に手を出すことに。

薬品を注射するやいなやエリザベスの背が破け、スー(マーガレット・クアリー)という若い自分が現れる。

若さと美貌に加え、これまでのエリザベスの経験を持つスーは、いわばエリザベスの上位互換とも言える存在で、たちまちスターダムを駆け上がっていく。

エリザベスとスーには、「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあったが、スーが次第にルールを破りはじめる。

レビュー(ネタバレあり)

年齢を理由に仕事を失った、かつて芸能界で一世を風靡した女が、クローン技術に手を出した末に、美と若さに固執して破滅してゆく。

もはや世間に相手にされなくなった、過去の栄光にすがりつく女優役にデミ・ムーアとは適役すぎる。彼女の出世作『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990)の頃に、美貌と妖艶さでブレイクした女優といえば、ほかに『氷の微笑』(1992)のシャロン・ストーンあたりが有名どころか。

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS

変身願望を満たすために、どうにかして若く美しい自分を手に入れる話というのは、けして珍しくない。

魔法の力を借りたり、凄腕の美容整形外科医に頼ったり、本作のように怪しげな最新の生化学的なテクノロジーによって、生まれ変わるパターンも、どこかで見かけた気はする。

欲望のままに若さを手に入れた者が最後に痛い目に遭うという話に落ち着くのは、どの作品にもほぼ共通するところだと思うが、この作品のように、途中から完全にホラースリラー映画に舵を切って進んでいくのは珍しい。

前半は上質な近未来SFのような雰囲気だが、後半からはカオス化してホラーとなる。

デミ・ムーアが演じる女優エリザベス・スパークルが手を出した謎の薬物<サブスタンス>による夢の実現は、ややプロセスが複雑だ。

怪しげな広告動画で自分の「ベターバージョン」を手に入れたくなったエリザベスが注文の電話をすると、<503>のナンバーカードが郵送される。無人のロッカーボックス部屋を訪れ、お試しキットを入手。

サブスタンスの薬物と注射器のセットとともに、使用法や注意事項が数多く書かれている。このあたりの小道具のディテールや、コールセンターの男のビジネスライクな応対などが、サスペンスフルでいい感じ。

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS

若い女に生まれ変わるといっても、背中が裂けてそこからもう一人の自分が出てくるという驚きの展開。登場したのは若くセクシーな娘スー(マーガレット・クアリー)

スーに背中を縫合されたエリザベスは浴室で倒れたままだが、死んだのではない。母体としてスーに栄養を補給する役目を担うのだ。

スーは7日間経過したら、エリザベスと選手交代しないといけないルール。こうして、母体とクローンは、両者あわせて一人という生活を送り始める。

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS

エリザベスが長年出演していたエアロビクス番組から降ろされ、スーはその後釜としてTVプロデューサーのハーヴェイ(デニス・クエイド)に抜擢。出演後すぐにブレイクし、瞬く間に売れっ子タレントとなる。

もう一人の自分が男たちにちやほやされ、業界で売れていくのを、エリザベスは複雑な思いで眺める。自分に対する嫉妬心。エリザベスはやけ食いで過食となり、その影響はスーにも及ぶ。

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS

こうして両者は、自分の分身に対していがみ合うようになる。想定通りの展開ではあるが、光と影、若さと老いの対比の中で、エリザベスの老化とみじめさが顕著に描かれる。

いや、デミ・ムーアがこの役を引き受けた覚悟に敬意を表したい。日本だったら、このオファーを受けるような女優はいるだろうか。

一方のマーガレット・クアリーは溌剌とした若さが眩しいが、本作やヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』『憐れみの3章』など出演作に怪しげなキワモノが多いのが興味深い。

スーを演じるマーガレット・クアリー『ANORA アノーラ』マイキー・マディソンのように思えたが、二人はタランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で共演していたのか。

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS

さて、定められた用法・用量を守らないとどんな悲劇が起こるか。ちょっとしたルール違反で、エリザベスの手足には過度な老化が見られ始め、一方スーの体内にも異変が生じてくる。

このあたりまでは、個人的には本作をワクワクしながら観られたのだが、ここから先、エリザベスが老人化してしまうと、ちょっとシラケてしまった。

映画に期待するものは人それぞれだろうが、ホラー映画化を望んでいなかった私には、ここからはヤリすぎに見えた。

エリザベスは髪も抜け落ち、まるで『ロード・オブ・ザ・リング』ゴラムのような姿になり、もうサブスタンスの服用はやめようと終了キットを入手するが、悲しいかな、このまま若く美しい自分に終止符を打てない。身も心もルッキズムに囚われているのだ。

エリザベスの体内からはもう、スーに与えるべき栄養素が枯渇し、絶体絶命の中で迎えた大晦日のイベント。

歯抜けババアになるわ耳や爪はもげるわで、もはや人間の姿を維持できないスーは、一回限りの活性剤を注入しステージに立つ。

(C)2024 UNIVERSAL STUDIOS

ここからは、もう『エレファントマン』にしか見えない。いや、それでは心の清らかな人だったジョン・メリックに失礼か。

そしてステージ上の『物体X』はさらに進化を遂げ、気づけばジョン・カーペンター好みのグロい代物になって徘徊する。

ラストカットは冒頭と同じ、エリザベス・スパークルの名前の刻まれたハリウッドはウォーク・オブ・フェームのプレート。

監督はコラリー・ファルジャ。女性監督なればこそ描ける辛辣な内容だった。