『28日後…』今更レビュー|そして誰もいなくなった

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『28日後…』
28 Days Later

監督ダニー・ボイル、脚本アレックス・ガーランドのタッグで贈る感染パニックもの。

公開:2002年 時間:114分  
製作国:イギリス

スタッフ 
監督:          ダニー・ボイル
脚本:      アレックス・ガーランド


キャスト
ジム:       キリアン・マーフィー
セリーナ:        ナオミ・ハリス
マーク:        ノア・ハントレー
フランク:    ブレンダン・グリーソン
ハンナ:       ミーガン・バーンズ
ウェスト: クリストファー・エクルストン
ファレル:   スチュアート・マッカリー

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

あらすじ

わずか1滴の血液で感染し、人間の精神を破壊し凶暴化させる新種のウイルスが発生した。

28日後、昏睡状態から目覚めた青年ジム(キリアン・マーフィー)は病院の集中治療室にいた。

あまりの静けさに不安になって外に出ると、そこには荒廃し無人となったロンドンの街が広がっていた。襲いくる感染者から逃れるなかで生存者たちと出会ったジムは、彼らと行動をともにすることになる。

今更レビュー(ネタバレあり)

監督ダニー・ボイルと脚本アレックス・ガーランドのタッグによるシリーズ新作『28年後…』が公開予定ということで、20年ぶりに観ました『28日後…』

昨日、伝染病に立ち向かう江戸時代の町医者の実話を映画化した『雪の花』を観たばかりなので、連日の感染ものだ。

人類を凶暴化させる恐怖のウイルスがロンドン中に蔓延したことで、英国民は集団脱出。すっかり無人化してしまったロンドンの町並の映像が、かなりのインパクト。

この手の危険なウイルスに感染する話というのは、一つのジャンルとして成立するほど作品がある気はする。洋画ならダスティン・ホフマン『アウトブレイク』、邦画なら草刈正雄『復活の日』あたりが頭をよぎる世代である。

現実社会ではコロナ禍を経験しているから、なおのこと怖さが強まる。ただ、これら正統派のパニック映画とは違い、本作はホラー映画、それもゾンビ映画に近いノリ

動物愛護団体らしき一味が、研究施設に侵入し、囚われのチンパンジーを逃がしてしまう。

だが、動物の血液は、狂暴化するウイルスに冒されており、人間はその血液に触れるだけで、赤い目を光らせたゾンビに豹変。こうして瞬く間に、ロンドンは地獄と化し、町から市民は姿を消す。

そこに取り残されたのが、事故で入院しICUに入院していた青年ジム(キリアン・マーフィー)。訳も分からず、無人の町を彷徨い、わずかに残った生存者のセリーナ(ナオミ・ハリス)マーク(ノア・ハントレー)に出会う。

ここから、彼らのサバイバルレースが始まるのだ。

ホラー映画ゆえか、理屈合わせをしようという気持ちはサラサラないようだ。

人間をみつけるとすぐに襲い掛かってくるゾンビたちが、なぜ28日間もジムを放置していたのかの説明はなく、彼だけが一人で町を彷徨っている理由は弱い(前述の小松左京『復活の日』では、確か南極にいたから主人公たちは感染を免れたのだ)。

終盤で兵士たちを相手に、どうみても草食系青年のジムが大活躍して、スタローンなみに敵を倒していくのにも説得力は乏しい。だが、そこはツッコむ点ではないのだろう。

この作品で伝えたいのは、ただの若者たちに突如襲い掛かる感染恐怖と、生き残るための行動力。粗い画質の映像も、リアリティを醸し出すのに役立っている。

まわり道をせずに、危険を承知で障害物だらけのトンネルを選んでクルマを走らせてしまうのも、この手の映画では既定路線だ。

主人公ジムを演じていたのがキリアン・マーフィーだったとはすっかり忘れていた(というか、当時はまだ無名に近かった)ので、オッペンハイマーの面影がある若者が、ゾンビから逃げ回っているのには驚いた。

そして、彼を救い出し、ともに戦う勇ましい女性セリーナには、今や007シリーズボンドの同僚マネーペニーとして活躍のナオミ・ハリス。どうりで強いはずだわ。

仲間のマークは登場して間もないというのに、彼が感染したと知るや否や、すぐに鉈を振り回して息の根を止めてしまうセリーナの過激さに度肝を抜かれる。

その次に彼らが出会ったのは、フランク(ブレンダン・グリーソン)と中学生の娘ハンナ(ミーガン・バーンズ)の父子。

英国軍が流しているラジオ放送を受信し、「聞いていたら集合してほしい」との呼びかけを信じ、マンチェスターに向かう。すがるような気持ちで、誰かが語りかける放送に命運を賭ける姿が、坂元裕二『片思い世界』を思わせる。

ジムたちが目指すマンチェスターのビル街が無人のハイウェイの彼方に見えるが、激しく炎上している。消防隊などいないのだ。このカットは圧巻。

道中で大きなスーパーマーケットをみつけ、みんなで大量に大人買いを楽しむシーンは本作唯一のコメディリリーフ。だがその後に、フランクは死体から飛び散った血が目薬のように、網膜に入り感染してしまう。

「俺から離れろ!」

娘を突き飛ばし、獣に豹変してしまう父。この場面は涙なしには見られない。『ハリー・ポッター』シリーズのマッドアイ・ムーディ役でお馴染みブレンダン・グリーソンの好演。

集合場所で兵士たちに出会い、助けられたかのように見えて、実はウェスト少佐(クリストファー・エクルストン)たちはセリーナとハンナを兵士の慰安婦にするつもりだった。

その展開は、何が起こるか想像もつかずワクワクできた前半に比べ、ちょっと失速感が強い。ずっとゾンビ相手に戦うのではなく、もっとクズな連中が英国人の中にいたというわけだ。

だが、軍の連中から逃げようとする中で、ジムは大空を横切って飛んでいく飛行機の姿をみとめる。感染で壊滅的なのは、英国だけなのかもしれない。

ジムとセリーナ、ハンナの三人がうまくゾンビたちの力を借りて軍の兵士たちをやっつけてサバイブするクライマックスはご都合主義ではあるが、死んじゃったら後味悪いし。

他国の軍用機からの救援を待ち、シーツで「HELLO」のメッセージを大きく掲げるハッピーエンド。何も解決してないけど、ま、いいか。