『ブラインド・マッサージ』
推拿 Blind Massage
ロウ・イエ監督が描く、盲人たちのマッサージ院に繰り広げられる人間ドラマ。
公開:2014年 時間:115分
製作国:中国
スタッフ
監督: ロウ・イエ(婁燁)
原作: ピー・フェイウー(畢飛宇)
『ブラインド・マッサージ』
キャスト
ワン(王): グオ・シャオトン(郭曉冬)
シャー(沙復明): チン・ハオ(秦昊)
ドゥ・ホン(都紅):メイ・ティン(梅婷)
シャオマー(小馬):
ホアン・シュエン(黃軒)
コン(小孔): チャン・レイ(張磊)
マン(小蠻): ホアン・ルー(黃璐)
チャン(張宗琪):
ワン・シーファ(王志華)
イーガン(張一光):
ムー・ヘイピン(穆懷鵬)
タイへー(徐泰和):
ハン・ジュンジュン(黃軍軍)
ヤン(金嫣): ジャン・ダン(姜丹)
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
幼い頃に交通事故により視力を失い「いつか視力が回復する」と言われ続けている若手の小馬。目が不自由であることを理由に破談しながらも、結婚を夢見て見合いを繰り返す院長の沙復明。
客から「美人すぎる」と評判だが、自分にとって何の意味もたない「美」に嫌気がさす都紅。
そんな視覚障害者たちが働く南京のマッサージ院に沙復明を頼って同級生の王大夫と恋人の小孔が駆け落ち同然で転がり込んできた。
彼ら二人によって、平穏だったマッサージ院の日常が一転し、緊張が走るようになる。
今更レビュー(ネタバレあり)
盲人たちのマッサージ院
題名からエロいマッサージ店の映画だと思い込んでいたが、勝手が違った。ロウ・イエ監督が南京のマッサージ院を舞台に描く恋愛ドラマ。
これまで現代中国の若者たちの恋愛を、鮮烈なタッチで描いてきたロウ・イエ監督、本作でもその切り口は変わらないが、舞台となるマッサージ院は、働く者たちがみな盲人であるということがこれまでにはない設定となる。
原作は畢飛宇の同名小説。中国20万部ベストセラーの傑作長篇だそうなので、読んでみた。映画と大きく変わるところはないが、人物の内面描写はさすがに原作の方がきめ細かいと感じた。
もっともロウ・イエ監督は盲人の日常世界を研ぎ澄まされた映像と音響で表現しており、小説と映画にはそれぞれに作家性が滲み出ている。
マッサージ師それぞれの日常
公式サイトなどでは役名は全てカタカナ記載だが、視覚イメージが湧きにくいので、原作にならって漢字記載で。
沙復明(チン・ハオ)と張(ワン・シーファ)が共同経営する南京のマッサージ院では多くの盲人が働いている。生まれつき全盲の者もいれば、交通事故や病気で視力を失った者もいる。
◇
青年の小馬(ホアン・シュエン)は、幼い頃に交通事故で視力を失い、絶望から頸動脈を切り自殺を図った。その生々しい傷跡が首筋に残る、繊細で純粋な若者だ。パッと見、坂口健太郎っぽい。

生まれつき目の見えない沙院長は結婚を夢見て見合いを繰り返す。全盲が理由で破談しても懲りずにパートナーを探し続ける、社交ダンス好きの明るい男。
全盲だからって、こういう陽気な人物も大勢いることを、このマッサージ院は教えてくれる。

<美人すぎる>と評判のマッサージ師の都紅(メイ・ティン)。たしかにマッサージ院の中では目を引く美しさだが、当人はそう言われることに嫌気がさしている。美しさというものを知り得ない彼女には、何の価値もないことなのだ。

だが、同じ境遇のはずの沙院長は、都紅の美しさを知りたいと切望するようになる。この、盲人ならではの感性は新鮮な驚きだった。
◇
そして、彼らのマッサージ院に、沙院長と同級生だった王(グオ・シャオトン)と恋人の小孔(チャン・レイ)が駆け落ち同然で転がり込んでくる。ぱっと見、西島秀俊と岸井ゆきの? いやちょっと違うか。
まだ幼さの残る小馬は、この小孔の色香に感じたことのない強い欲望を覚えはじめる。

これは王先生と女の取り合いになるのかと思いきや、それを匂いで察知した風俗好きの先輩、泰和(ハン・ジュンジュン)が店に誘い出す。そこで働く小蠻(ホアン・ルー)と出会った小馬は、人生に新たな希望を見出す。
人生の決断のとき
「金ができたら、故郷に帰って店を開こう」だったり、「好き合った盲人同士で結婚しよう」だったり、みんなそれぞれの夢を抱えながらこの仕事をしている。
だが、マッサージ院は、けして和気あいあいのムードの理想の職場ではない。そこには、願っても健常者とは同じレベルに立てないと諦めた者たちのひねくれた感情もあれば、身内同士のいがみ合いもある。

- 娘を全盲の男には嫁がせないと両親に反対され悩んでいる小孔
- 完全に失明してしまう前に、愛する人との婚礼を目に焼きつけたいと願う金嫣(ジャン・ダン)
- 愛する都紅が一向に振り向いてくれず、片思いの沙院長
- 両想いとなった小蠻が風俗店で他の男の相手をしているのが耐えられない小馬
- 出来の悪い弟の作った借金返済のために、結婚資金を取り崩さないといけなくなる王先生
みんな、心に痛みを抱えながら生きている。
そこに追い打ちをかけるように、更なる試練がいくつも巻き起こる。
- 小馬は風俗店で男性客に暴行を加え、小蠻とともに町を出て新たな人生を切り開く。
- 王先生は、結婚延期を悲しむ小孔を見て借金肩代わりをやめ、取り立て屋を前に自分の肉体を切り刻んで気迫で追い払う。
- 都紅はアクシデントでドアに指を挟み大けがをし、マッサージ師を諦めて職場を去る。
- 残された者たちの慰労会で沙院長は血を吐き、緊急入院。結局マッサージ院を売り渡す。
こうして、盲人たちはそれぞれ人生の決断を迫られる。
わかりやすい起承転結も、予定調和もなく、どう転がっていくか見通せない展開は、邦画ではなかなか見かけないものだ。
だが、何も見えず、何が起きるか暗中模索の世界を生き抜いてきた彼らは、健常者より肝が据わっているのか、臆せずに、人生を一歩一歩、力強く進んでいくように見える。
ラストシーン、沙院長のマッサージ院は店を畳んだが、小馬はひっそりと小さなマッサージ店を開業する。小馬の目に、希望の光は届いているように見える。