『ミスター・ガラス』
Glass
『アンブレイカブル』、『スプリット』に続くM・ナイト・シャマラン監督のヒーロー三部作完結編。
公開:2019 年 時間:129分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: M・ナイト・シャマラン キャスト ケヴィン・ウェンデル・クラム(群れ): ジェームズ・マカヴォイ デヴィッド・ダン(監視人): ブルース・ウィリス イライジャ・プライス(ミスターガラス): サミュエル・L・ジャクソン ケイシー・クック: アニャ・テイラー=ジョイ エリー・ステイプル医師:サラ・ポールソン ジョセフ・ダン: スペンサー・トリート・クラーク ミセス・プライス: シャーレイン・ウッダード
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
フィラデルフィアのとある施設に、それぞれ特殊な能力を持つ三人の男が集められる。
不死身の肉体と悪を感知する力を持つデヴィッド(ブルース・ウィリス)。
24人もの人格を持つ多重人格者ケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)。
驚くべきIQの高さと生涯で94回も骨折した壊れやすい肉体を持つイライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)。
彼らの共通点は、自分が人間を超える存在だと信じていること。
精神科医ステイプル(サラ・ポールソン)は、すべて彼らの妄想であることを証明するべく、禁断の研究に手を染める。
今更レビュー(まずはネタバレなし)
同一キャストで20年後の続編
M・ナイト・シャマラン監督が『シックス・センス』の大ヒットの勢いで撮った『アンブレイカブル』(2000)。そこからだいぶ年月を経て公開された『スプリット』(2016)のラストで、両作品が同じ世界の物語であることが匂わされる。
そして本作でついに、20年の時を越えて三部作が完結することになる。役者は揃っている。
- <アンブレイカブル>、つまり不死身の強運男デヴィッド(ブルース・ウィリス)
- その対極的存在で、すぐに骨折してしまうガラスのような脆弱な体のイライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)
- そして精神がスプリットして24人もの多重人格の<群れ>を持つケヴィン(ジェームズ・マカヴォイ)
自分が超人であると信じているこの三人が、どう絡んでいくのか。
舞台となるのは当然フィラデルフィアの町。町の<監視人>、初老のデヴィッドは息子と防犯グッズ店を経営しながら、父子で町の平和のために自警。横行する<群れ>の犯行を監視している。
『アンブレイカブル』で父をヒーローと信じる息子ジョセフ(スペンサー・トリート・クラーク)が、立派な青年に成長している。
ブルース・ウィリスが白髪まじりのおじさんになっていることより、当時子役だったスペンサー・トリート・クラークが『北の国から』には及ばずとも、時間の経過を感じさせる。
店頭客の役でシャマラン監督がまたカメオ出演するが、デヴィッドに「前にスタジアムで働いてただろ?」などと20年前のネタをぶち込んでくるのは良かった。
シャマランの出たがり癖は長年続いているが、初めて意味があった気がする。
収容さてた施設で三人が出会う
相手に触れることで悪を感知するデヴィッドは、街で<群れ>のケヴィンとすれ違い、彼の悪事を見抜く。
ジェームズ・マカヴォイの多重人格芝居は前作以上にキレが増したように思う。今回は初めから正体が割れているので、序盤から人格変化も出し惜しみなくフル稼働だ。
性別の切り替えは演技力だよりだが、ビーストの筋骨隆々はさすがにCGだろう。美女から野獣までの一人芝居だ。<群れ>に監禁された女子高生らを救い、デヴィッドはケヴィンの人格中最強のビーストと対戦。
だが、そこに邪魔な警察が介入し、二人とも病院施設に収容されてしまう。そして、施設には前作で逮捕されたミスター・ガラスことイライジャという先客がいる。
彼らの三つ巴の対決を描くのだと思っていたが、そこに新キャラが登場。精神科医のエリー・ステイプル(サラ・ポールソン)。
彼女は超人だと思い込んでいる三人が普通の人間だと自覚し回復できるよう、この病院施設であれこれと心療処置を試みるのだ。
そして三人の自称超人にはそれぞれ応援者がいる。
デヴィッドには息子のジョセフ、イライジャには母(シャーレイン・ウッダード、彼女も前作から続投)、そしてケヴィンには、『スプリット』での被害者ながら理解者となったケイシー(アニャ・テイラー=ジョイ)。
アメコミのインクの匂い
さて、『アンブレイカブル』から始まる本シリーズは、イライジャの大好きなアメコミの世界にいるヒーローやヴィランが実在するのだという前提で構築されている。その意味でキャスティングはよく考えられている。
『X-MEN』のチャールズ(ジェームズ・マカヴォイ)に、『アべンジャーズ』のフューリー長官(サミュエル・L・ジャクソン)。
またDCやマーベルのアメコミライターで有名なフランク・ミラーが監督した『シン・シティ』のブルース・ウィリスに『ザ・スピリット』(スプリットじゃないよ)のサラ・ポールソンと、アメコミのインクの匂いがしそうな面々。
フィラデルフィアの中心部にCGで作った超高層ビル<オオサカタワー>のデザインもそれっぽい。ビル名はウィリスの出世作『ダイ・ハード』の<ナカトミ商事ビル>を思わせる。
ただ、それ以外は相変わらず拍子抜け感否めず。オオサカタワーは結局外観だけしか登場しないし、ケヴィンはただのフードかぶった老人だし、イライジャも役柄上、はげしく動くと骨折する設定だから盛り上がらない。
大体、<ミスター・ガラス>ってタイトル(原題の”Glass”も同様)、単語のインパクト弱すぎない? これで観客動員は厳しかったのでは。
結局本作で見応えがあるのは、ジェームズ・マカヴォイの七変化と暴れるビーストくらいなのだ。それなら前作で十分じゃないかと思ってしまったのは私だけか。
今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
エリー医師は何やら秘密結社じみた組織に属していて、このような自分を超人と思い込んでいる輩に現実を受容させるミッションを負っている。
ケヴィンやデヴィッドにも、超能力と思しきものに科学的アプローチで説明しようとするが、やはり無理がある。火事場の馬鹿力というには、二人ともあまりに強力だからだ。
結局彼女が明かすには、彼らが超人であることを認めるわけにはいかず、こうやってごまかしの説明で闇に葬るのが仕事らしい。弱い。あまりにオチが弱い。
本シリーズは完結作に至っても物語に深みがなく、タイトルロールであるミスター・ガラスでさえ、あっけなく死んでしまい、活躍の場はほぼない。
かろうじてサプライズと言えそうなのは、『アンブレイカブル』で彼が引き起こした列車事故でデヴィッドは唯一生き残り、そしてケヴィンの父は死んでいたのだということ。
父の死がきっかけで、ケヴィンの多重人格は悪化しビーストが生まれた。イライジャは死の直前に、この列車事故で二人の超人が生まれたこと、自分が黒幕であることを誇らしげに言うが、ただの偶然であり、説得力はない。
結局、この三人の超人はみな殺されてしまう。
シャマランらしいサプライズなのは、この超人たちの戦いぶりを撮影していたエリー医師たちの映像を、イライジャが母とケイシーとジョセフという彼らのシンパ三人に秘かに送り届け、そこから拡散させたことだ。
これが、次代の超人たちを生み出すというオチらしい。ねらいは分かるが、20年越しの三部作のラストにしては寂しい限りだ。
ラストシーンはフィラデルフィアの駅で新たなヒーローの登場を待つ三人。この歴史ある駅の待合ホールは、どんな撮り方だってそれなりにいい映画に見せてしまう魔法のロケ地なので、一応格好がついてはいるけれど。