『ジンジャーとフレッド』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ジンジャーとフレッド』今更レビュー|フェリーニ生誕100年勝手に後夜祭⑤

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『ジンジャーとフレッド』
 
Ginger e Fred

フェデリコ・フェリーニ、ジュリエッタ・マシーナ、マルチェロ・マストロヤンニ。円熟期の三人が作り上げた映画愛の作品。

公開:1985 年  時間:128分  
製作国:イタリア

スタッフ 
監督・脚本:   フェデリコ・フェリーニ

キャスト
アメリア・ボネッティ: 
         ジュリエッタ・マシーナ
ピッポ・ボティッチェラ: 
       マルチェロ・マストロヤンニ
トト:          トト・ミニョネ
プレゼンテーター: 
        フランコ・ファブリッツィ

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

あらすじ

クリスマス・シーズンのローマ。駅に降り立ったのは、かつて<ジンジャーとフレッド>の名で人気を博したタップダンスの芸人コンビのひとり、アメリア(ジュリエッタ・マシーナ)

コンビを解消してから30年、彼女は相方のピッポ(マルチェロ・マストロヤンニ)とテレビの特別番組に出演することになっていた。

久しぶりに再会した二人は、番組の準備でドタバタのテレビ局でリハーサルを行うが、年を取ったせいかダンスに精彩がない。不安を抱えた二人に出番は刻一刻と近づいてくる。

今更レビュー(ネタバレあり)

フェデリコ・フェリーニ監督の後期の作品。彼の妻でありミューズのジュリエッタ・マシーナと、彼の分身ともいえる盟友マルチェロ・マストロヤンニが晩年の<ジンジャーとフレッド>を演じる。

この二人の役が、ジンジャー・ロジャーズフレッド・アステアという、『トップハット』等で知られるダンス・コンビの名に因んでいることは知っていたのだが、私はてっきりこの名コンビの自伝的な作品なのだと思っていた。

ところが、どうも初めから勝手が違う。

クリスマス・シーズンのローマ駅にひとり降り立つのはアメリア(ジュリエッタ・マシーナ)という名の女性。このアメリアが、かつて<ジンジャーとフレッド>というコンビ名で人気の博していたタップダンサーだった。

つまり、ジュリエッタ・マシーナマルチェロ・マストロヤンニは、ジンジャーとフレッドモノマネ芸人だったのである。

このひとを喰った設定が楽しいではないか。華麗な半生を描く伝記映画ではなく、かつて一世を風靡した芸人コンビの久々の再会ドラマなのだ。そうなると、フェリーニの得意領域だ。

駅に降り立つアメリア役のジュリエッタ・マシーナはもう若くはないが、悪戯っ子のようなつぶらな瞳と明朗さは健在で、歳を重ねてもなお可愛い女性だ。

コンビを解消してから30年になるが、テレビの特別番組に出演オファーがあり、久方ぶりに相方のフレッドことピッポ(マルチェロ・マストロヤンニ)に会うことになる。

だが、そう簡単には再会とならない。マイクロバスでほかの無名芸人たちとホテルに送り込まれ、不安な前夜を過ごす。

性転換手術をした男や、小人たちの音楽隊、マッチョな男たちの集団、カフカプルーストのそっくりさん。芸人たちはバラエティに富む。

ローマ駅には吊るされた豚の巨大なオブジェがあり、町中にはキッチュな広告ポスターがベタベタ貼られ、ホテルの内装は妙に未来志向のデザインで、全体のチグハグ感がフェリーニっぽく、楽しい。

なかなかピッポが現れず、床につくと隣室の客のいびきがうるさくて眠れない。アメリアが文句を言いに隣室をノックすると、顔を出したのがなんとピッポだ。

再会の嬉しさが全身から滲み出ているアメリアも可愛いが、「お前も変わったなあ」とバカ笑いし、ぶっきらぼうにドアを閉めるピッポの対照的なリアクションもいい。

二人ともいい年齢だ。ダンスを披露するシーンはあるが、華麗にタップを踏むわけではない。ちょっと踊るだけで、ピッポは息切れし、すべって尻もちもつく。

男女のコンビではあるが、恋愛関係にあったわけではない。解散後何年も音信不通だ。アメリアは結婚し孫もいる。ピッポは解散後に病気を患い、最近離婚している。そんな二人の男女の、微妙な距離感が微笑ましい。

前立腺の心配をしたり、アメリアの目の前で着替えることも躊躇うようになったり、もはや若き日の自分ではない。

ダンディでならした二枚目俳優のマルチェロ・マストロヤンニもさすがに頭髪も薄くなり腹も出てきたが、その老いもまた映画的には、ちょっとした味わいになっている。

みんなでテレビ局に向かい、どうにかリハーサルを終え、いよいよ本番を迎える。はたして無事にタップを踏めるだろうか。

二人がそんな不安を抱え、踊り始めた途端に突如停電が起き、ステージは真っ暗になる。暗闇の中で、互いへの思いを素直に打ち明ける<ジンジャーとロジャース>。このまま逃げよう。そう言って、去りかけた時に再びライトが付く。

ステージ上の華麗なタップダンスを売りにする作品ではないし、二人の恋愛ドラマに大きな展開があるわけでもない。ドラマとしては中途半端な内容なのだろう。

だが、特別番組で他の出演者が見せるくだらない芸だったり(食べられるパンティの話とか、くだらなくて笑)、タップはもともと私語禁止の奴隷同士が会話するための通信ツールだと蘊蓄を語ったりと、雑多な要素が混ざり合った面白さは格別だ。

歳を取るってこういうことなのか、そういう残酷さを見せつけられている気もするが、そんな人生でも、このような救われるひとときがあるとよいなあと、しみじみ思ったりもする。