『ドラゴンへの道』
猛龍過江 The Way of the Dragon
ブルース・リーが製作・監督・脚本・音楽監修・武術指導・主演のまさに自作自演作品。チャック・ノリスとの激闘は必見。
公開:1972 年 日本公開:1975年
時間:100分 製作国:香港
スタッフ 監督・脚本: ブルース・リー 製作: レイモンド・チョウ キャスト タン・ロン: ブルース・リー チェン: ノラ・ミャオ ジミー: ユニコーン・チャン トニー: トニー・リュウ ゴードン: チャック・ノリス ワン伯父: ウォン・チュンスン ホー: ウェイ・ピンアオ ギャングのボス: ジョン・ベン 日本人武術家: ウォン・インシック 西洋人武術家: ボブ・ウォール
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
ローマの中華料理店「上海」は、立ち退きを迫る地元マフィアからの執拗な嫌がらせに困っていた。
香港から助っ人としてやって来た中国拳法の達人タン・ロン(ブルース・リー)は、マフィアが送り込んだ男たちを鮮やかに撃退する。
しかしマフィアもアメリカから最強の武道家を呼び寄せ、抗争は激化していく。
今更レビュー(ネタバレあり)
笑い取りすぎブルース・リー
ブルース・リーの香港凱旋第3作で本人が製作・監督・脚本・音楽監修・武術指導・主演の6役を務めている。
イタリアはローマのロケも香港映画では珍しく、主演作史上最大のヒットというのは分からないでもない。そして、何といってもクライマックスのチャック・ノリスとの激闘は、今となっては奇跡のような組み合わせだ。
◇
だが、個人的な評価はいまひとつだ。あまりにブルース・リーが笑いを取りに行き過ぎる。生真面目で孤高のカンフーマスターのイメージを勝手に抱いてしまっているからかもしれない。
ちなみに、リンダ・リー夫人によれば、本作の主人公タン・ロンは家庭でユーモラスにふるまう素顔のブルース・リーに近いと言ったらしい。
でも、ここまで笑いに徹しなくてもいいと思う。ローマに行っても英語もイタリア語も分からず、ひたすら中国語で貫いて周囲に赤っ恥をかきまくるタン・ロン。
高級レストランでオーダーすると、スープが何種類もテーブルに並べられ、必死でたいらげる。そうかと思えば洋式トイレの使い方が分からず、うさぎ跳びのような恰好で便座の上に乗ってみたり。
時代背景もあるだろうが、まるでコントのようなノリがしばらく続く。いつになくどんぐり眼のギョロ目強調で、どこか博多華丸っぽい。
ローマの柔術、ではなく中国拳法
タン・ロンは、ローマで父の後を継いで中華料理屋を経営している店主のチェン(ノラ・ミャオ)の相談を受けた弁護士が、急病で代わりによこした従兄という設定らしい。
彼女の店は地上げをたくらむ地元ギャングの嫌がらせで、土地を売るよう迫られていた。
そこにやってきたタン・ロンの腕が立つとは従業員一同誰も信じなかったが、何度も店に来ては嫌がらせをするギャングの舎弟どもを叩きのめすことで、信頼を勝ち取る。
タン・ロンの強さを目の当たりにした従業員の若者たちが、手のひらを返したような態度で、彼に弟子入りを懇願する姿が面白い。
物語の展開は至極単純ではあるが、従業員の腕試しにつきあったり、敵ギャングの舎弟連中を次々と一撃で倒すところなど、タン・ロンの強さは別格で、観ていて鮮やかだ。両手にヌンチャクの扱いっぷりも見事なものだ。
そしてギャングの親分の腰巾着で、中国語を通訳する狡猾な男は、『ドラゴン怒りの鉄拳』でも活躍したウェイ・ピンアオ。今回の役では、完全にオネエになっている。
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いつも悪役に日本人が登場するブルース・リーの作品だが、本作に登場する空手家(ウォン・インシック)は「おまぃわぁタン・ロンかぁ?」と怪しいイントネーションで、明らかにネイティブジャパニーズではない。
そして、その日本人と西洋人の用心棒を従えて、ギャングのボスの切り札ゴードン(チャック・ノリス)が登場。こいつが今回のラスボスだ。
コロッセオの決闘
タン・ロンが強すぎて、格下の用心棒二人は瞬く間に倒されてしまう。
そして通訳に誘い出されてタン・ロンが訪れるのは、ローマのコロッセオ。雄大な競技場のはるか向こうに、小さくチャック・ノリスが近づいてくるのが見える。これは貴重なショットだ。
そもそも、こんな場所で格闘が行われるとは、まさに『グラディエーター』のよう。などと感動してはみたものの、実際のバトルフィールドは、長い通路の一角のみ。
しかも背景になっているどこまでも続く通路も、遠くに見えるコロッセオの対岸も、どう見ても書き割りの作り物だ。まあ、それは仕方ないか。コロッセオで格闘ロケの許可がおりるとも思えない。
その代わりと言っては何だが、ブルース・リーとチャック・ノリスの対決、これは本物のド迫力だ。前半、これまでどの作品でも無敵だったブルース・リーが、なんと劣勢になっているではないか。
◇
そこからの巻き返し、そして一撃必殺の反撃開始。この手のアクションに目が肥えた今なら、カット割りや殺陣の組み立てなどに物足りなさを感じる部分もなくはない。
だが、攻撃そのものの威圧するような本物感は、まさにこの二人の達人のみがなせる業。チャック・ノリスの回し蹴りの風圧を顔に感じそうな迫力だ。
中華料理店の仲間と思われたワン伯父(ウォン・チュンスン)が、実は店を高値で売って香港に帰りたいのだとギャング側に寝返ったり、ギャングのボスは最後に登場して銃を撃って暴れ始めた途端に警察に捕まったり。
最後は詰め込み過ぎの忙しい展開になってしまったのはご愛嬌か。
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ブルース・リーの主演作の中では、本作に比べれば正統派な展開の『ドラゴン怒りの鉄拳』に比べ見劣りするものの、チャック・ノリスとの激闘のおかげで記憶に残る一本になっているように思う。