『罪人たち』
Sinners
ライアン・クーグラー監督のヒューマンタッチなホラー作品。突如現れた悪魔の正体は。
公開:2025年 時間:138分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ライアン・クーグラー
キャスト
イライジャ・ムーア(スモーク):
イライアス・ムーア(スタック):
ともにマイケル・B・ジョーダン
サミー・ムーア: マイルズ・ケイトン
メアリー: ヘイリー・スタインフェルド
アニー: ウンミ・モサク
パーリン: ジェイミー・ローソン
コーンブレッド:オマー・ベンソン・ミラー
デルタ・スリム: デルロイ・リンドー
ボー・チョー: ヤオ
グレース・チョー: リー・ジュン・リー
レミック: ジャック・オコンネル
バート: ピーター・ドレイマニス
ジョーン: ローラ・カーク
ホグウッド: デヴィッド・マルドナルド
勝手に評点:
(オススメ!)

コンテンツ
あらすじ
1930年代、信仰深い人々が暮らすアメリカ南部の田舎町。
双子の兄弟スモークとスタック(ともにマイケル・B・ジョーダン)は、かつての故郷であるこの地で一獲千金を狙い、当時禁止されていた酒や音楽を振る舞うダンスホールを開店する。
オープン初日の夜、欲望が渦巻く宴に多くの客が熱狂するが、招かれざる者たちの出現により事態は一変。ダンスホールは理不尽な絶望に飲み込まれ、人知を超えた者たちの狂乱の夜が幕を開ける。
レビュー(まずはネタバレなし)
掘り出し物ホラー
ライアン・クーグラー監督のフィルモグラフィからは、まさか新作がホラーだとは思っていなかった。
実際に中盤までは、普通にギター青年を主人公にした黒人社会のドラマとして観ていたので、突如として様相が激変したのには驚いた。
だが、これはいい。不穏な雰囲気がたまらない。本年のアカデミー賞で作品賞に輝いた『ワン・バトル・アフター・アナザー』は勿論良かったが、個人的にはこちらの作品に獲って欲しかった。
いずれも、身売りされてしまうワーナーブラザースの作品だ。定評のある、社会に切り込む気概と毒気のある作品が今後も作られることを切に望むよ。
◇
さて、映画は序盤、プリーチャー・ボーイと呼ばれる牧師の息子サミー(マイルズ・ケイトン)のもとに、従兄弟にあたる双子のスモークとスタック(ともにマイケル・B・ジョーダン)が現れる。
二人はシカゴで荒稼ぎをしていたギャングだったが、今度は黒人相手の酒場で一発当てようと故郷に戻ってきた。
新装の店を支える仲間たち
まずは白人のホグウッド(デヴィッド・マルドナルド)から製材所を買い取り、そこを黒人用クラブに改装。
- ギターを持たせればブルース・ミュージシャンとして卓越した才能を持つサミー
- スモーク&スタックとは旧知のピアニスト兼ブルースハープ奏者のデルタ・スリム(デルロイ・リンドー)
- 地元の中国人商店主夫婦のグレース(リー・ジュン・リー)とボー・チョウ(ヤオ)
- クラブの用心棒として役立つ農場労働者のコーンブレッド(オマー・ベンソン・ミラー)
- そして料理人にはスモークの疎遠になっていた妻アニー(ウンミ・モサク)
こういったスタッフを中心に、スモーク&スタックはクラブを開店し、初日から酒と料理と音楽で大盛況となる。

客の中には、スタックの元恋人で白人女性のメアリー(ヘイリー・スタインフェルド)や、サミーが夢中になっている女性歌手のパーリン(ジェイミー・ローソン)もいる。
◇
クーグラー監督作品には欠かせないマイケル・B・ジョーダンは今回二役。
この二人がタッグを組んだ『ブラック・パンサー』からのマーベル繋がりか、店のメンバー唯一の白人キャストには『ホークアイ』のヘイリー・スタインフェルド。
渋いところでは、久々に観た気がするデルロイ・リンドーなどがキャスティングされる。メンバーを集めてクラブの一夜を盛り上げる話だけでも十分見応えがある。
悪魔が来りて弦を弾く
だが、その序盤の途中に、まったく関係なく、ある挿話が入り込む。
アイルランド移民のレミック(ジャック・オコンネル)が、チョクトー族に追われて、KKK団の夫婦の家に助けを求めるのだ。ようやく漂い始めたホラーの匂い。
ところで、この挿話のほか、特定のシーンだけ画面のアスペクト比が急に切り替わるので、何か意図があるのかと思ったが、どうやらIMAXフィルムとウルトラ・パナビジョン70の両方式の併用というだけで他意はない模様。

そして、サミーのギターで浮かれるスモーク&スタックの店に、レミックとKKK団夫婦の三人がギターを片手にやってくる。
「俺たちにも歌わせてくれよ、カネならあるんだ」
だが、白人はお断りだと追い返される。それが、悪夢のような惨劇のはじまりだった。
ライアン・クーグラーがロバート・ロドリゲス監督のファンだというのが、作品の端々から滲み出ている。だいぶ前に観たきりだが『パラサイト』の影響は感じ取れたかな。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
アイ・アム・レジェンド系列だった
ネタバレというほどのことではないのかもしれないが、何を隠そう、この謎の男レミックというのが悪魔というか、バンパイアなのだ。
匿ってくれた夫婦をまず噛み殺して仲間にし、サミーの音楽に引き寄せられてクラブにやってくる。だが店には入れず、人気のない夜の野外に出てくる人間を次々に餌食にしていく。
餌食になってしまったのかは一見では分からないが、噛まれた傷で見分けるほか、招かれないと屋敷の中に入れないという、古典的なルールが踏襲されており、「入れてくれないか」の台詞で正体がバレるのが結構面白い。
それ以外にも、バンパイアは生き血を好み不老不死、ニンニクは苦手で陽光を浴びると皮膚が焼け焦げて死んでしまうというお決まりの性質も健在。
吸血鬼がゾンビのように襲ってくるホラーといえば、つい先日懐かしい『アイ・アム・レジェンド』を観たばかりだし、同じような映画は多数あるのだが、本作の惨劇展開は飽きさせない。
一人ずつニンニク齧らせて身の潔白を証明するところなんて、『遊星からの物体X』っぽくない? あの映画と同様に、本作でもクラブのメンバーが一人ずつ敵の毒牙にかかっていく。
悪魔に魂を売ったギタリスト
招き入れなければ屋敷に入ってこれないのに、夫が殺られ娘も狙われそうになった中国人女性のグレースが「入ってこいや!」と挑発しちゃうものだから、もう全面戦争に突入。
そうなると、『ワカンダ・フォーエバー』のように善戦できるほどのメンバーではなく、ほとんどがバンパイアの餌食に。これは、噛まれちゃった方が幸せかも、と思ってしまう自分が怖い。

ギターがうまくなりたくて、ミシシッピの十字路で悪魔に魂を売ったミュージシャンの都市伝説があったと思うが、本作もそれに着想を得ているのだろう。
九死に一生を得た、ただ一人の生き残りサミーは、その後も牧師である父に背きギターを捨てず、シカゴでミュージシャンとして活躍する。
◇
ライアン・クーグラー監督は、物語の手仕舞い方も洗練されている。
バンパイアとの戦いだけなら結構エグい系のホラー映画なのに、前後の登場人物の絡め方や映像の美しさのおかげで、ヒューマンドラマとしても成立してしまっている気にさせるのが凄い。
