『なま夏』・『メリちん』|𠮷田恵輔監督の初期自主製作今更レビュー

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『メリちん』

公開:2006年 時間:87分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        吉田恵輔
脚本:        仁志原了


キャスト
メリー:カオティック・コスモス
マチ:        後藤飛鳥
タラちゃん:     仁志原了

勝手に評点:2.0
(悪くはないけど)

あらすじ

上京していた幼なじみタラちゃん(仁志原了)が帰郷、地元に残った友人、メリー(カオティック・コスモス)とマチ(後藤飛鳥)に10年ぶりに再会する。だが、帰郷した彼は変わってしまった関係性に気付かず二人を振り回していく。

 

今更レビュー(ネタバレあり)

『なま夏』に続き、𠮷田恵輔監督が自主製作時代に手掛けた監督第2作。

田舎町に古いベンツでやって来た、いかつい輩風の怖そうなお兄さんが、農道を自転車で走る若い女に声をかける冒頭。

二人は小学校からの知り合いで、男は東京で売れない俳優をやっているタラちゃん(仁志原了)、女はマチ(後藤飛鳥)。タラちゃんは、もう一人の友だち、メリちん(カオティック・コスモス)を探しているようだ。

ここで、タイトルは登場人物の愛称なのだと分かる。メリーというから女性かと思いきや、酒造で働く気弱そうな若者で、実はマチとも同棲している。

三人はとても仲良さそうには見えず、オラオラ系でガキ大将気質のタラちゃんに、いやいや付き合っている感じがすぐに見て取れる。

タイトルバックに登場する童画タッチのアニメで、男の子が女の子におしっこさせて、その様子を興味深そうに眺めている。

これは何か意味深なものだと思ったら、それはどうやら、子供の頃にタラちゃんが神社の境内でマチに放尿させている風景で、それを盗み見てしまったメリちんは、大人になっても、自分もマチのその姿を見たいという潜在的な欲望を隠し持っている。

そんな過去を抱えた三人が、タラちゃんの帰省によって10年ぶりに再会し、川遊びや肝試しなど、田舎町ならではの時間つぶしに付き合わされるのが面白い。

2010年の監督作品『さんかく』において、高岡蒼佑が部屋に遊びにきた中学生の小野恵令奈がトイレで放尿する音に興奮するシーンがあったが、その原点がここにあったと思った。

いじめっ子キャラのタラちゃんに二人の交際がバレないように注意しながら、暇つぶしに振り回されるメリちんとマチ。実は、二人の関係を途中からタラちゃんは見抜いてしまうのだが、それを言わずにいる。

一方、そのタラちゃんが実はVシネでもチンカスのような役しかもらえず、インポでAV俳優の仕事もできずにいることに、メリちんたちも気づいてしまう。それぞれが相手の弱味を知りながら、三人の関係が続いていく。

タラちゃんの携帯で仕事相手の連絡を受けたメリちんが、「朝7時にスバ何とか前に集合だって」というのが笑。もはや新宿にスバルビルないから説明がいるかも

漫画家志望のメリちんの絵日記を盗み読み、自分が迷惑野郎だと思われていると知ったタラちゃんは、塞ぎ込み、マチに誘いをかけ、ついに肉体関係を持ってしまう。

そして、因縁の神社の境内でタラちゃんがマチを襲っている場面に、なぜかメリちんが遭遇し、殴り合いの大喧嘩に。

この三人、途中から、いつかみんな確執を忘れて仲良くなるものだと思っていたのだが、𠮷田恵輔監督がそんな生ぬるい映画を撮るわけないか。自分もインポで仕事もなく苦しんでるタラちゃんだが、心を改める様子はない。

メリちん」とは、子供の頃に自分のめり込んだようなチンチンをみたタラちゃんが付けたあだ名で、そんな経緯も知らずに町中に浸透している。

メリちんはそれがつらかったが、タラちゃんは何度言っても呼び名を改めない。そんなものだ。いじめる側には、相手の気持ちなど分かるまい。

どうせなら、この傍若無人なタラちゃんに、もっと激しい天罰が下った方が、観る方も溜飲が下がりそうだが、中途半端に善人キャラなのが始末に悪い。

なお、タラちゃん役の仁志原了は、本作をはじめ、初期の𠮷田恵輔監督作品でいくつか脚本を手掛けているが2016年に他界。『ばしゃ馬さんとビッグマウス』安田章大が演じた大口を叩く脚本家志望の男も、彼自身がモデルとなっている。