『ヒットマン』
Hit Man
リチャード・リンクレイター監督が描く、ニセ殺し屋のおとり捜査官コメディ。
公開:2024年 時間:115分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: リチャード・リンクレイター
原案: スキップ・ホランズワース
『Hit Man』
キャスト
ゲイリー・ジョンソン:グレン・パウエル
マディソン: アドリア・アルホナ
ジャスパー: オースティン・アメリオ
クローデット: レタ
フィル: サンジェイ・ラオ
アリシア: モリー・バーナード
レイ: エヴァン・ホルツマン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
ニューオリンズで二匹の猫と静かに暮らすゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は大学で心理学と哲学を教える一方、地元警察に技術スタッフとして協力していた。
ある日、おとり捜査で殺し屋役となるはずの警官ジャスパー(オースティン・アメリオ)が職務停止となり、ゲイリーが急きょ代わりを務めることに。
さまざまな姿や人格になりきる才能を思いがけず発揮したゲイリーは、その後も偽の殺し屋を演じて警察の捜査に協力する。
ある時、マディソンという女性(アドリア・アルホナ)が夫の殺害を依頼してくるが、支配的な夫との生活に傷つき、追い詰められた様子の彼女に、ゲイリーはモラルに反する領域に足を踏み入れてしまう。
レビュー(まずはネタバレなし)
殺し屋はおとり捜査官
偽の殺し屋に扮したおとり捜査官として警察に協力した実在の人物にインスパイアされたクライムコメディ。監督はリチャード・リンクレイター。
前作はNETFLIXの配信アニメ『アポロ10号 1/2 宇宙時代のアドベンチャー』、実写映画は『バーナデット ママは行方不明』(2023)以来。
まさか実在の人物が題材とは思わなかったが、グレン・パウエル演じる主人公のゲイリー・ジョンソンが相当キャラ的に面白い。
◇
普段はニューオリンズの大学で心理学や哲学を教えている冴えない不人気教師の彼が、副業として地元警察の技術スタッフをやっている。

ところが、おとり捜査の担当警官ジャスパー(オースティン・アメリオ)が問題を起こししばらく停職処分になったことで、なぜかゲイリーに代役の白羽の矢が立つ。
仕事の内容は、依頼人との交渉。彼を腕の立つ殺し屋だと信じて接触してきた依頼人に、「〇〇を殺してほしい」と殺意を抱く相手の依頼を受け、前金を支払わせる。
こうして証拠を揃えたところで、交渉成立で立ち去るゲイリーのあとに、警官がやってきて身柄確保。そういうパターンだ。

惚れた女に仏心を
時には危険な目にも遭う仕事らしいが、なぜか初仕事から一皮むけたゲイリーが、普段のおとなしいキャラから大きなイメチェンで名うての殺し屋に早変わり。犯罪検挙率も爆上がりで前任ジャスパーはお役御免ということになる。
すっかりヒットマンになりきって、依頼人によって風貌や話し方も変えていく、変幻自在のゲイリー。
◇
ニセモノの殺し屋になりきって相手を信じさせるコメディというのは、けして目新しいアイデアではない。三谷幸喜の『ザ・マジックアワー』もそうだし、『あぶ刑事』でも柴田恭兵がやってた回があった。
でも実話ベースというのは珍しいし、ノリノリで演じているグレン・パウエルが楽しませてくれる。『トップガン・マーヴェリック』のハングマン役で一気に有名になった感がある彼だが、こういう役もこなせるのか。
物語に変化が起きるのは、依頼人の女性マディソン(アドリア・アルホナ)が現れてからだ。
夫を殺してほしいという彼女の話を聞くうちに同情してしまったゲイリーは、「殺し屋に払うこの前金を持ってどこかに逃げて人生をやり直せ」と彼女を逃がしてやる。
◇
ゲイリーが成りすました殺し屋ロンに助けられたマディソンは無事に人生を立て直し、すっかりロンに夢中になり、一方のゲイリーも、ロンになりきって彼女と付き合い始める。
警察の同僚クローデット(レタ)やフィル(サンジェイ・ラオ)の目は欺けたが、復職してきたジャスパーは、二人に疑いの目を向け始める。こうして話は、あらぬ方向に向かっていくのだ。

レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
ゲイリーが成りすましている殺し屋ロンにメロメロのマディソンは、離婚してくれない夫レイ(エヴァン・ホルツマン)から身を護ろうと、射撃の練習を始める。
すっかり熱々の仲のロンとマディソン。ノリノリで破天荒なマディソン役のアドリア・アルホナは、残念なマーベル映画『モービウス』のヒロインよりも断然キャラ立ちしてる。

マディソンと陰で付き合いながら、ゲイリーは順調におとり捜査の検挙を続けていく。
どんどんエスカレートしていく殺し屋キャラで依頼人をけしかけ、逮捕された顔写真で終わるパターンは、序盤こそ面白かったが後半になると食傷気味。
◇
そしてある日、ついに何者かにマディソンの夫レイが殺されてしまう。ゲイリーはニセモノの殺し屋なのだから、彼が殺すことはないだろう。となれば、犯人はマディソンか。ここから話はどういう展開を迎えるか。
二人の怪しい関係を見抜いているジャスパーは味方のフリで近づいてくるが、彼のねらいはマディソンが手に入れた夫の生命保険金。
ジャスパー役のオースティン・アメリオはドラマ『ウォーキング・デッド』のメインキャストらしい。観ていないので知らない俳優だったが、本作での悪そうな役柄はハマっている。

もともと殺し屋に頼んで夫を殺そうとしていたマディソンが、結局自らの銃で、息の根を止めてしまう。
それを知った時、おとり捜査官のゲイリーは愛する彼女をどうするか、そして真相をつかんで強請をかけてきたジャスパーはどうなるか。
その結末は、ちょっとありえないほどに都合のいいものであった。これも実話ベースなのかと驚いたが、さすがにそうではなかったようだ。