『アウトサイダー』今更レビュー|コッポラのヤングアダルト三部作①

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『アウトサイダー』
 The Outsiders

フランシス・フォード・コッポラ監督が、ブラッドパックのイケメン集団で撮ったYA三部作の第一弾

公開:1983年 時間:113分(ディレクターズカット)  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督: フランシス・フォード・コッポラ
原作:         S・E・ヒントン

           『アウトサイダー』
キャスト
<カーティス家>
ポニーボーイ:  C・トーマス・ハウエル
ダリー:     パトリック・スウェイジ
ソーダポップ:        ロブ・ロウ
<グリース>
ダラス:        マット・ディロン
ジョニー:       ラルフ・マッチオ
ツー・ビット:   エミリオ・エステベス
スティーヴ:       トム・クルーズ
<その他>
チェリー:       ダイアン・レイン
ボブ:        レイフ・ギャレット
ランディ:       ダレン・ダルトン
バック:         トム・ウェイツ
ジェリー:    ゲイラード・サーテイン
マルシア:     ミシェル・メイリンク
ティム:       グレン・ウィスロー

勝手に評点:2.5
  (悪くはないけど)

あらすじ

オクラホマ州の小さな町。ダラス(マット・ディロン)は自分と同じような貧しい育ちの仲間たち、ジョニー(ラルフ・マッチオ)、ポニーボーイ(C・トーマス・ハウエル)らと《グリース》というグループを組み、上流家庭の若者のグループ《ソッシュ》と対立していた。

やがてジョニーがポニーボーイを助けようとし、《ソッシュ》のひとりをナイフで刺殺する事件が起きてしまう。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

『ワン・フロム・ザ・ハート』(1982)で財政的にも評価的にも追い込まれたフランシス・フォード・コッポラ監督の、起死回生の一打となった<YA三部作>の一発目作品。

今も通用するのか知らないが、<YA>ってのは、大人と子供の狭間の世代を指す、ヤングアダルトの意。今回観たのは20分ほどの未公開シーンを加えた2005年のディレクターズカット版になる。

C・トーマス・ハウエル演じる主人公ポニーボーイが属している、貧しいながらもツッパって生きているグループ《グリース》と、上流階級で金持ちのボンボン集団《ソッシュ》との対立。

夢を持ちながらも、現実に押しつぶされて傷ついていく10代の若者たちの青春ドラマ。全米でベストセラーとなったS・E・ヒントンの同名青春小説が原作になっているとは知らなかった。

そのため、未読であるが、こういう小説とか映画とかは、やはりターゲット層である多感な思春期に向き合わないと、心を揺さぶられにくい。

1983年の公開時に観た時には、それなりに感動したはずなのであるが、すっかり親世代(それも後期の)となった今観ると、どうも勝手が違う。

名監督フランシス・フォード・コッポラを相手に恐れ多くも、そのやり方は違うんじゃないかと首をひねってしまう点が、大きく二つあった。

一つ目は、主題歌の使い方だ。

映画のために書き下ろしたスティーヴィー・ワンダー「ステイ・ゴールド」言わずと知れた名曲である。

おそらく映画の世間的な評価を多少格上げするのに貢献しているであろうこの胸揺さぶる曲は、たしか、公開当時はシングルにもアルバムにもなっていなかったと記憶する。だから、エアチェック(死語か)してテープで歌詞を覚えた。

映画のテーマにも密接につながる、この「ステイ・ゴールド」を、なぜかコッポラ監督オープニングに流してしまう。いや、勿体なさすぎでしょう! これは、終盤の感極まったシーンで初めて聴きたい曲なのに。

絶対的な抑えの切り札がいるのに、1回表から投げさせてしまうようなものだ。

全然ジャンル違うけど、大林宣彦監督『なごり雪 あるいは、五十歳の悲歌』の冒頭で伊勢正三に主題歌をフルコーラス歌わせたのを思い出した。

二つ目の難点は、キャスティングだ。

いや、豪華すぎる顔ぶれであることに異論はない。しかも、みんな、本作をきっかけに売れまくっていく若手俳優ばかりだ。青春映画の若手俳優集団を称する「ブラッドパック」という名も、本作から生まれた。

グリースの面々が凄い。

  • 三兄弟の末っ子、主人公ポニーボーイC・トーマス・ハウエル、長兄ダリーパトリック・スウェイジ、次兄ソーダポップロブ・ロウ
  • ツッパリの先輩格ダラスマット・ディロン、親友ジョニーラルフ・マッチオ
  • 更に仲間にはツー・ビット(エミリオ・エステベス)スティーヴ(トム・クルーズ)

イケメンパラダイスなのか、これは! トム・クルーズが一番控えめな役というのも驚きだ。

パトリック・スウェイジ『ゴースト/ニューヨークの幻』ラルフ・マッチオ『ベスト・キッド』など、その後の各メンバーの活躍ぶりも枚挙にいとまがない。

でもね、いい男ばっかり揃えても嘘くさいし、何よりキャラが埋もれてしまう。クリーンアップの打者だけじゃなく、俊足の選手やバントの名手がいないと、野球がつまらないのと同じ。

本作でいえば、ポニーボーイを救おうと敵を刺してしまったジョニーは、イケメンよりも味のある顔の個性派俳優にした方が一層深みが出たと思う。

 

《グリース》VS《ソッシュ》という不良グループ同士の対立構造や、誤って相手を刺し殺してしまうという展開を、我々はすでに『ウェストサイド物語』《ジェット団》VS《シャーク団》で堪能している。

ウェストサイドの面々はどちらのグループもファッションがクールで、しかもストリートで足を高らかに上げてダンスまで披露する(ダンスミュージカルだからね)。

それを観てしまうと、本作のグリースもソッシュもスタイルは野暮ったく、抗争も何だか冴えない。イケメンを揃えただけではダメなのだ。

青春映画なのに恋愛があまり絡まないのも不思議だ。野郎ばかりの映画というのに、まともにヒロイン扱いなのはチェリー役のダイアン・レインくらい。

しかも、彼女が敵陣営の女の子という設定も『ウェストサイド物語』と同じなのに、なぜか恋愛に深入りしていかない。それよりも、三兄弟が喧嘩しては仲直りで抱擁しあうという兄弟愛に比重が大きい作品となっている。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレになりますので、未見の方はご留意願います。

《ソッシュ》の連中に囲まれたポニーボーイを助けようとして、ジョニーは相手を刺殺してしまい、二人は、しばらく山の中で隠遁生活を送る。

ほとぼりがさめた頃にダラスが迎えに来て町に戻るが、その途中に火事に遭遇し、炎の中で子供たちを救出する。

英雄扱いされた記事のおかげか、裁判でも正当防衛が認められるが、ジョニーは火傷がひどく病院で亡くなる。自暴自棄になったダラスはコンビニを襲い、警官に射殺されてしまう。

誤って敵を刺殺したことを苦悩していたジョニーは生前、仲間たちが喧嘩を続けていることに反対していた。

隠遁生活中にポニーボーイが美しい朝焼けを見ながら暗唱した、ロバート・フロスト「黄金の色はあせる」という詩をジョニーは覚えていた。

子供たちを命がけで救ったことは後悔していない。彼がポニーボーイに残した手紙には、”Stay Gold”と書かれている。「色褪せずに、穢れずにいろよ」

ここでスティーヴィー・ワンダーを流されると、何だかいい映画を観た気になってしまうが、この映画のどの辺にコッポラ監督らしさがあったのかは最後まで謎だ。

ティーンの感受性が色褪せて、ゴールドどころかシルバーな世代に近づいた身には、物足りなさの残る映画となっていた。