『彼女が水着にきがえたら』ホイチョイ的映画レビューこの一本④

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『彼女が水着にきがえたら』

馬場康夫監督のホイチョイ三部作第二弾。原田知世と織田裕二で贈る宝探しの物語

公開:1989年 時間:103分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:          馬場康夫
脚本:          一色伸幸


キャスト
田中真理子:       原田知世
吉岡文男:        織田裕二
石井恭世:       伊藤かずえ
高橋裕子:       田中美佐子
大塚:            谷啓
山口:          伊武雅刀
浦野:           竹内力
ハロルド・ダック:    安岡力也
ジョン・リー:       坂田明
「クラブ・ヒッチ」マスター: 白竜
謎の中国人:       今井雅之
謎の中国人ボス:      佐藤允

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

あらすじ

アパレルOLの真理子(原田知世)は同僚の恭世(伊藤かずえ)と相模湾でスキューバダイビングを楽しむが、ヨットとクルーザーに乗った二つのグループと知り合う。彼らは海で宝探しをしているライバル同士だった。

真理子はヨット乗りの青年、文男(織田裕二)に次第に好意を感じだすが、真理子と恭世が遭難しかけた際に、その財宝を載せた飛行機の残骸を目にしたことから、騒動に巻き込まれていく。

レビュー(ネタバレあり)

バブル景気の象徴ともいえるホイチョイ・プロダクションの映画第二弾。監督は馬場康夫、三部作までの脚本は一色伸幸

大ヒットした前作『私をスキーに連れてって』スキー松任谷由実なら、今度はダイビングサザンオールスターズ。実に分かりやすい構図。

主演の原田知世は、前作からの続投。馬場監督によれば、当初は、三部作全て彼女の主演でいくはずだったらしい(実際は次作の主演は中山美穂に)。相手役の織田裕二は、オーディションで選出。

その織田裕二が続投する次作『波の数だけ抱きしめて』は、バブルがはじける直前の、祭りの後の寂しさを感じさせるバブル三部作の終焉に相応しい作品だったが、こちらはまだ好景気真っ只中

(C)1989 フジテレビ・小学館

もう、冒頭から時代の空気が違う。何せ、ごく普通のアパレル勤めのOL二人が、豪華なスキューバダイビング設備一式を買い揃え、20万円の水中カメラを持って、どこかで知り合った男のもつクルーザーのパーティに勇んで参加するのである。

『バブルへGO』で描かれた作り物ではなく、ホントに若者は丸井のクレジットで消費しまくるのが当然の時代。田中美佐子なんて、ヘリで登場だよ。今なら、高須クリニックトム・クルーズかって感じだが、当時は違和感なかったなあ。

クルーザー「アマゾン号」のオーナーは金満家の山口(伊武雅刀)、若い娘は手当たり次第誘いまくる。一方、ヨット「ツバメ号」には、多彩な経歴を持つ大塚(谷啓)吉岡文男(織田裕二)

その名はアーサー・ランサムの児童文学『ツバメ号とアマゾン号』に因むらしいが、この両派閥がいがみ合っている。

財宝を載せたまま相模湾に沈んだ飛行機を、競って探し回っているのだ。夢を追いかけているライバルなのである。ツバメの方が硬派で貧しくストイックなヨットマンというのでもなく、どちらも適度に軟派なのがホイチョイっぽいところ。

山口のクルーザーでダイビングしていた真理子(原田知世)恭世(伊藤かずえ)が、はぐれて遭難しかかったところに偶然、飛行機の残骸を発見。

その後、運よく文男たちのヨットに救われ、真理子と文男は次第に親しくなっていく。乱交パーティが始まった山口のクルーザーから文男たちが二人を救出し、そのまま上陸。追いかけてくるアマゾン号の連中からの湘南逃走劇

その後、真理子たちが海中で飛行機をみつけていたと知り、みんなが驚いてその場所を聞きまくる場面まで、実にテンポよく無駄なく進む。この序盤の話の運び方は実にうまい

(C)1989 フジテレビ・小学館

メインのキャストは原田知世織田裕二角川三人娘を卒業し、すっかり肩の力が抜けた原田知世だが、前作のスキーは似合っていたけど、今回のダイビングはちょっと設定が無理目な印象(とはいえ、ファンには貴重な作品)。

一方の織田裕二は、『東京ラブストーリー』カンチじゃないけど、彼女に好きだといえないシャイな青年役で、あまりに上手なので、このキャラは次作にも温存。

脇役だけど、一番存在感があったのは、主人公・真理子の親友、恭世役の伊藤かずえだ。ただのノリのいい軽薄娘なのだけど、『ポニーテールはふり向かない』をはじめ、大映ドラマの彼女に慣れ親しんだ目には、あの弾けっぷりは新鮮

ショートヘアも大胆な水着も、似合っているし、『波の数だけ抱きしめて』松下由樹と同様、本作のキーとなっているのは伊藤かずえだと断言したい。

(C)1989 フジテレビ・小学館

ところで、音楽については、気になったことがある。桑田佳祐が映画のために書き下ろした「さよならベイビー」は、そのイントロからして素晴らしい。

ただ、映画に使われた、それ以外のサザンの曲は、既に広く知られた人気曲ばかり。その力を借りて、映画を盛り上げようとする馬場康夫監督の発想は、あまりに志が低くないだろうか

「この手法は他の映画人からはあまり賛同を得られない」と監督は以前嘆いていたが、当然の反応だと思う。『わたスキ』ユーミンの曲が流れた時は、つい盛り上がってしまったが、今回のサザンの曲の起用はあざとさが目についた

また、ガジェット的なアイテムをあれこれクールに使って見せるのがホイチョイ映画の魅力ではあるが、ホバークラフト水中オートバイなど、先に設備ありきで、それを見せたいからシーンを作っているのがミエミエ。

かと思えば、俳優陣がちゃんとダイビングして撮ったという海中シーンは、『サンダーボール作戦』のような美しさ。

『わたスキ』のスキーシーンもそうだが、こういう特殊な状況での撮影は専門の撮影監督にお任せしてしまい、ひたすら曲を使うタイミングにはこだわる馬場康夫監督は、よくも悪くもスタイルが一貫している。

(C)1989 フジテレビ・小学館
  • 嫌煙家の真理子が文男に「私の前で吸わないで」というと、店にいるツバメ号の仲間たちが全員で煙草を吸い始めたり
  • 常識人っぽい大塚(谷啓)までが「女は押し倒せ」とか「強姦してでも聞き出せ」などと過激な発言をしたり
  • ついにはあの手この手で真理子に媚薬まで飲ませたり

今思えば驚きの過激さだが、悪しきフジテレビ文化というよりも、そういうのに鈍感な時代だったのだ。

 

ツバメ号の仲間が入り浸る店のマスター役がなんと白竜だよ。いつ三白眼でヤクザになるのか、ハラハラした。まだ爽やかキャラだった竹内力が、ツバメの仲間にいるのも楽しい。

谷啓馬場康夫監督が希望したキャスティングだそうだが、ホイチョイという名前自体が、そもそもクレイジーキャッツっぽいもんね。ファンなのだろう。

その谷啓が演じる大塚が、手間暇かけて文男に伝えたメッセージが「その娘は、お前の宝だ」。これを何度も繰り返して読むところが、『わたスキ』「会いたい」のボイスチェンジャーのリピートを思い出させる。

(C)1989 フジテレビ・小学館

「いいよ、そういうのも、可愛いよ」

文男に前半で言われた台詞を、終盤に真理子がそのまま言い返すシーンは、原田知世がモノマネしてふざけるという、後世に残すべき貴重な映像となった。

どちらが先に財宝をみつけるか。大きな勝負の結末が予定調和となるのは、ホイチョイ作品全てに通じるお約束。

真理子と文男の海中ダイビングキスまではロマンチックだったものの、そのまま海の底まで沈んだら、なんと「探していたお宝ゲットだぜ!」というのは、さすがにおめでたすぎる展開。バブル期なら許されるのか。

エンディング曲はサザン「C調言葉に御用心」か。確かに、ラストは盛り上がるけど、そりゃ楽曲の力であって映画の手柄じゃないと思うなあ。この興奮で傑作だと思っちゃうのも、「吊り橋効果」っていうのかな。