『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』
Night Moves
公開:2014 年(日本劇場未公開) 時間:112分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ケリー・ライカート
キャスト
ジョシュ: ジェシー・アイゼンバーグ
ディーナ: ダコタ・ファニング
ハーモン: ピーター・サースガード
事務員: ジェームズ・レグロス
勝手に評点:
(悪くはないけど)
あらすじ
アメリカ、オレゴン州。過激なエコ思想を持つ青年ジョシュ(ジェシー・アイゼンバーグ)は、アフガン帰りの元軍人ハーモン(ピーター・サースガード)や裕福な少女ディーナ(ダコタ・ファニング)と共謀し、水力発電ダムの爆破を企んでいた。
作戦は順調に進み成功するかに見えたが、トラブルが起こったことで完璧だったはずの計画がほころびはじめる。
レビュー(ネタバレあり)
ダム爆破でさえケリー・ライカート風
ケリー・ライカート監督の劇場未公開作品。日本では『ダム爆破計画』などという大仰な副題がつけられてしまったので、およそ彼女の作風には似つかわしくない作品に思える。
だって、インデペンデント映画の中心的な役割を担い、盟友ミシェル・ウィリアムズを主演に、ちょっとした日常の不条理さなんかを描いてきた監督なのだから。
◇
だが、そんな違和感は見当違いだった。そもそも原題は”Night Moves”、ダム爆破などとは無縁のタイトルだ。
過激な環境保護論者たちが企てたダム爆破計画の顛末をサスペンスタッチで描いているので邦題も虚偽ではないが、巨大なダムがテロリストにより決壊し、大洪水が起こるようなディザスターものを想像すると激しく落胆する。
ケリー・ライカート監督が低予算のインディーズでそんな作品を撮るわけがなく、本作でクローズアップされるのは、爆破計画を実行に移す三人の活動家たちの心理と行動である。
主人公の青年ジョシュにはジェシー・アイゼンバーグ。『ソーシャル・ネットワーク』(2010)でフェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグを演じた記憶が今なお鮮明だ。
そして彼とともに計画を遂行する裕福な家庭のお嬢さん活動家ディーナにはダコタ・ファニング。個人的には天才子役のイメージがいまだに抜けず、大人になってからの彼女が出演していてもすぐにピンとこなかった。近作はデンゼル・ワシントン主演の『イコライザー THE FINAL』(2023)。
そして、爆弾の知識豊富な元海兵隊員で、ジョシュが頼りにする共犯者ハーモンにピーター・サースガード。彼は清潔感溢れるスーツ姿で腹黒い役が多いので(先入観です)、薄汚い恰好のマッチョな元海兵隊員を演じていたのは意外。
◇
ケリー・ライカート監督作品に名のある俳優が三人も共演するなんて、これまでには考えられなかったことだ。
本作の3年後には、ミシェル・ウィリアムズやローラ・ダーン、クリステン・スチュワートが出演した『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』を撮るものの、あちらはオムニバス形式の映画であり、三人が同じシーンで台詞を交わすことはない。
仲違いするダム爆破計画
本作では、ジョシュとディーナがダム爆破計画をじっくり時間をかけて準備し、中古のボートを1万ドル(彼女の父親のカネ)で購入。
そこに爆薬を詰めて湖で爆破させる計画だが、頼りのハーモンは二人と違い、実戦では活躍するかもしれないが、緻密な計画遂行は不得手なタイプ。
ジョシュを相手に、「いい加減なハーモンが信頼できるのか」と心配するディーナと、「あんな裕福家庭の娘が役に立つのかよ」と不満げなハーモン。そりの合わない共犯者たちの関係が面白い。
◇
爆薬を作るために、ホームセンターで化学肥料として売っている硝酸アンモニウムを大量に購入する必要がある。防犯カメラに注意しながら、偽造IDカードで店頭に向かうディーナ。購入には社会保障カードの提示が必要だと突っぱねる店主。
このやりとりのハラハラ感。映像的には何のカネも手間もかかっていないが、ホームセンターで肥料を買うだけなのに、これだけ盛り上げるのはさすがの手腕。
ちなみに店主役のジェームズ・レグロス、次作『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』ではミシェル・ウィリアムズの夫役を演じている。
火柱ひとつ見せないリアルさ
さて、紆余曲折はあったが、ついに夜のキャンプ場から湖に浮かべたボートを時限スイッチで爆破させることに成功する三人。
山道を逃げるクルマの背後から、鈍い低音で爆発音が響く。予算のせいだろうが、ダムの爆破に繋がる映像は何もない。火柱ひとつ見せてくれない。
体感できるのは、背後で遠くに聴こえる爆音と、翌朝のニュース報道のみ。だが、実行犯の目線に立てば、それがむしろリアルなはずだ。
◇
計画では想定していなかった人的被害が出てしまう。キャンプ場にいた男性が一人、遺体で発見されるのだ。環境保護活動のために、被害者を出してしまったことにディーナは動揺し、そこから計画は思わぬ形で瓦解し始める。
自首しそうなディーナのせいで窮地に立たされたジョシュが彼女を絞殺してしまう。
終盤からの展開は盛り上がりに欠け、ラストにも唐突感はあるが、分かり易くドラマを終わらせない点はケリー・ライカートの作風と言えなくもないか。