『ドラゴン怒りの鉄拳』
精武門 Fist of Fury
ブルース・リー香港凱旋後の主演第二作。ヌンチャクと悲痛な表情がたまらない。
公開:1972 年 日本公開:1974年
時間:102分 製作国:香港
スタッフ 監督・脚本: ロー・ウェイ 製作総指揮: レイモンド・チョウ キャスト チェン: ブルース・リー(李小龍) ユアン: ノラ・ミャオ 鈴木寛: 橋本力 師範: ティエン・フォン 警察署長: ロー・ウェイ ファン: ジェームス・ティエン スー: リー・クン 用心棒: 勝村淳 ペトロフ: ボブ・ベイカー
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
20世紀初頭の上海。霍元甲の弟子チェン(ブルース・リー)は師匠が急死したことを知り、霍元甲の道場・精武館に帰ってくる。師匠の死が日本人による暗殺だと知ったチェンは、復讐を果たすべく決死の戦いに身を投じる。
今更レビュー(ネタバレあり)
日本人が敵とは複雑な心境
ブルース・リー主演の第二弾。前作『ドラゴン危機一発』に比べ完成度もアクションも磨きがかかっており、前作を凌ぐ大ヒットになったのも大いに肯ける。
両作品とも、『燃えよドラゴン』(1973)の大ヒットを受けて、日本で公開されたものであり、いずれもブルース・リーの没後となっている。
タイを舞台に、なかば国籍不明なカンフーアクション映画として成立していた『ドラゴン危機一発』に対し、本作は日本の租界となっていた清朝末期の上海が舞台で、日本人を徹底的に悪者扱いで描いている。
ブルース・リー人気なかりせば、およそ日本での公開など考えられない作品だろう。
犬と中国人はお断りだと住居区域から中国人を排除し、日本家屋の中では芸者を裸にして乱痴気騒ぎ、そしてチェン(ブルース・リー)の師匠である中国武術の大家・霍元甲を毒殺する日本人たち。
ドニー・イェンの『イップ・マン 序章』(2008)の池内博之のように、気骨ある人物を登場させるわけでもなく、もうひたすら日本人俳優がヒール役に徹する。
普通なら日本人としては観ていて腹も立とうが、ここはブルース・リーの同志目線で作品に没入しているせいか、そんな感情も湧き起らず、ただただ非情な仕打ちの連続に怒りをたぎらせてしまうのだ。
ブルース・リーの七変化
師匠の謎の突然死で葬儀のために上海に戻ってきたチェン。白スーツのブルース・リーが渋い。
彼らの精武館の館長の死去に乗じていやがらせをかけてくる虹口柔道場の日本人たち。「他流試合はしないという師の教えを守れ」との師範(ティエン・フォン)に背き、チェンは単身殴り込み。
1対Nの波状攻撃についにはヌンチャク登場。相手は丸腰だが、これはありか。まあ、人数差を補うには仕方ない。
アクションには前作よりも更にキレが加わり、カットワークも冴える。チェンの渾身の一撃は、まさに怒りの鉄拳。
◇
かくして、チェンの存在は日本人たちに恐れられ、奴を差し出せと、鈴木館長(橋本力)は地元警察に働きかける。租界の力関係から、警察署長(ロー・ウェイ)は従わざるを得ず、チェンは身を隠すことに。
やがてチェンは、怪しい日本人を捕まえて、彼らが師匠を毒殺したことを突き止め、制裁を加える。上裸の男たちの乳首をみて「日本人か?」と分かるのはなぜかと悩んだが、どうやら腹巻をみて判断したらしい。
敵陣に乗り込み仇を討つ前に、まずは変装して屋敷に近づき情報収集するチェン。この七変化ぶりは、ヒロイン役のノラ・ミャオとのキスシーンとともに、ファンを沸かせるものになる。
車夫に化けたチェンなど、まるで『できるかな』のノッポさんのようでかわいい。
彼が、日本人に魂を売っている中国人通訳を乗せたまま人力車を軽々と持ち上げて脅かすシーンは、さすがに嘘くさいとシラケたが、ブルース・リーもその演出には反対だったと知り、我が意を得た気になる。
怪鳥音・ヌンチャク・悲痛な面持ち
さて、徐々に敵の大将に近づいていくチェン。まずは用心棒の柔道家(勝村淳)、そしてロシアから亡命の剣客ペトロフ(ボブ・ベイカー)、ついにはラスボスの鈴木(橋本力)と対決する。
劣勢になると日本刀を持ち出す相手に対し、ヌンチャクで応戦するチェン。ひとり倒しては、師匠を弔う怒りと悲しみで悲痛な表情をみせる。
憎き日本人をブルース・リーが蹴散らしてくれる、胸のすくカンフーアクションとして、本作は中国大陸ではひときわ人気なのだろう。日本人として気持ちは複雑だが、理由は分かる。
『ドラゴン危機一発』ではラスボスの工場経営者がひ弱な外見で盛り上がりに欠けたが、本作の鈴木は体格と眼力には迫力がある。
まったく知らなかったが、演じた橋本力はプロ野球選手から俳優に転じ、なんと『大魔神』を演じていた人物だった。ベイスターズの<ハマの大魔神>ではなく、本家の方だ。
まばたき禁止の苦行で大魔神を演じてきただけはある、その眼力はただ者ではない。もっとも、本作がこんなに有名になるとは、当の本人も思っていなかったそうだが。
そして、最後にチェンの蹴りを喰らって飛んでいく場面は若き日のジャッキー・チェンがスタントをやったというが、勿論そんなものは言われて観直しても判別できない(できたら意味ないか)。これはちょっと悔しい。
◇
ラストは日本人領事館の圧力にまけ、チェンを探して出頭させろと師範たちに命じ、板挟みになる警察署長。そこにチェンが現れ、出頭すれば道場は潰さないと署長に約束させる。
こうして、彼は大勢の警察官とともに、屋敷から外に出る。そこには彼に声援を送る中国人、だがそれを遮るように列を組んで彼に銃を向ける官憲たち。
騙しやがったな。怒りにふるえるチェンが彼らに飛び蹴りをするところでストップモーション。痺れる。
経緯はともかく、あれだけ日本人を殺しておいてチェンが逮捕されハッピーエンドにはなりえないし、かといって彼の死に顔も見たくない。ギリギリで寸止めして幕を閉じる本作の終わり方は、他の選択肢を思いつかない。