『ドラゴン危機一発』
唐山大兄 The Big Boss
ブルース・リー香港凱旋後の主演第一作。粗削りだが、これが彼の原点なのかも。
公開:1971 年 日本公開:1974年
時間:100分
製作国:香港
スタッフ
監督・脚本: ロー・ウェイ
製作総指揮: レイモンド・チョウ
キャスト
チェン・チャオアン: ブルース・リー
(李小龍)
ハオ・ムイ: マリア・イー
ホイ・キン: ジェームス・ティエン
クオン: リー・クン
マイ社長: ハン・インチェ
社長の息子: トニー・リュウ
ウー・マン: マラリン
工場長: チェン・チャオ
氷菓子屋の娘: ノラ・ミャオ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
タイの製氷工場で働く親戚を頼って香港からやってきた青年チェン(ブルース・リー)。だが、その会社は裏で麻薬の密売を行っており、秘密を知った仲間が次々と殺される。
怒りを爆発させたチェンは「喧嘩はしない」という母との誓いを破り、仲間の復讐のため極悪非道な社長一味に単身闘いを挑む。
今更レビュー(ネタバレあり)
没後、人気が出てから公開の初主演作
2023年の7月で、ブルース・リーの没後50年を数える。ワールド・ブルース・リー・クラシック(WBLC)2023なるイベント上映も行われる。
あいにく都合がつかなかったので、配信作品を懐かしく追いかけてみる。まずは、ブルース・リーが米国から香港に凱旋した主演第1作目である本作。
◇
アジア各国で大ヒットとなるが、日本では『燃えよドラゴン』(1973)の熱狂を受け、第二弾として公開された。
50年前の話ゆえ、すっかり忘れていたが、つまり日本ではブルース・リーが『燃えよドラゴン』で初めてスクリーンに登場した時点で、すでに帰らぬ人となっていたのだ。
さて本作、邦題は『ドラゴン危機一発』。危機一髪ではなく一発なのは、ジェームズ・ボンドシリーズ屈指の名作『007 ロシアより愛を込めて』の改題前の邦題『007/危機一発』から拝借したのだろう。
タイトルバックに登場するリーの飛び蹴り姿の写真の切り抜きコラージュが、手作り感に溢れていて楽しい。
愛すべきツッコミどころ
香港映画だから舞台も香港と思い込んでいたが、タイの製氷工場がメインステージであった。50年前のカンフー映画の黎明期の作品であり、現代基準で観てしまうと、もうツッコミどころに事欠かない。
麻薬取引で私腹を肥やすマイ社長(ハン・インチェ)の製氷工場に、そうとは知らず仲間のホイ(ジェームス・ティエン)の紹介で一緒に働き始めるチェン。
工場長(チェン・チャオ)や社長のドラ息子(トニー・リュウ)などの策略で、麻薬取引に加担しないホイの仲間たちは次々と拉致されては殺される。
行方不明者が増えるばかりで怪しむチェンたちだが、ついに確信に至る頃には、仲間たちはもうほとんど殺されている。
そりゃ、争いごとはご法度という母との約束を破っても、仇を討ちにいかずにはいられない。何とも単純明快なストーリーだが、結構目を疑う展開もある。
話の流れからは、悪行三昧の社長たちに対してじっと怒りを堪えるストイックなチェンが、最後に爆発するのだろうと予想するだろう。
大筋は合っているが、何と彼は行方不明の仲間を探せと社長に交渉に行くと接待漬けで商売女をあてがわれ、骨抜きになって一晩中、女と楽しんでしまうのだ。
◇
翌朝、チェンに好意を抱くハオ・ムイ(マリア・イー)に、店から出てくるところを鉢合わせで、気まずそうな表情をするという、情けない場面まである。
カンフーの鍛錬に精をだす、正義のひととはだいぶ異なるトホホなキャラをブルース・リーが演じているというのが、結構意外だった。工場の主任に昇格して、ご機嫌になっておどけるチェンの姿も、珍しいものに思える。
本人のアクションはさすがだが
アクションに関しても、まだまだ本作においてはアラが目立つ。特に対戦相手。カット割りで何とかごまかしているが、勢いで見せているアクション。
とはいえ、それはあくまで、目が肥えた今だから言えることで、当時ここまで映画で表現しているのは画期的なことだったのかもしれない。
それに、対戦相手はともかく、ブルース・リー本人のアクションは段違いだ。一挙手一投足に、渾身の力が注入されているように見える。
ただ、チェンが飛び蹴りした相手が木塀にヒト型の穴を残して、塀の向こうに押し込まれてしまうのはさすがにコントだが。
◇
はたして本作でチェンが倒すラスボスは誰かと思っていたが、なんとメガネをかけた社長その人。
戦い出すと、案外チェンを苦しめるほどの拳法の使い手と分かるが、クライマックスの対戦相手としては、いささか見栄えが足りない気はした。
最後は、社長に軟禁されていたハオ・ムイが屋敷から飛び出し、庭で繰り広げられた死闘を見て警察に通報、そのおかげで警察に逮捕されるチェンに、彼女が駆け寄る。
チェンを逃がしたいのか捕まえたいのか、女心の不可解さが身に沁みるエンディング。このように、ツッコミどころは数え切れないが、かくして、香港映画界のレジェンドは生まれたのだった。