『RRR』
3時間のインド映画に腰が引けている場合ではない。身を委ねろ、魅惑のナートゥの世界に。
公開:2022 年 時間:182分
製作国:インド
スタッフ 監督・脚本: S・S・ラージャマウリ キャスト コムラム・ビーム: NT・ラーマ・ラオJr ラーマ・ラージュ: ラーム・チャラン シータ: アーリヤー・バット ジェニー: オリヴィア・モリス スコット総督: レイ・スティーヴンソン キャサリン夫人: アリソン・ドゥーディ ヴェンカタ: アジャイ・デーヴガン マッリ(少女):トゥインクル・シャルマ
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため立ち上がったビーム(N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア)と、大義のため英国政府の警察となったラーマ(ラーム・チャラン)。
それぞれに熱い思いを胸に秘めた二人は敵対する立場にあったが、互いの素性を知らずに、運命に導かれるように出会い、無二の親友となる。
しかし、ある事件をきっかけに、二人は友情か使命かの選択を迫られることになる。
今更レビュー(まずはネタバレなし)
「元気を貰う」ってこういうことか
劇場公開中なのに『今更レビュー』としてブログを書くのは、本サイトでは初めてのことだ。2022年10月の公開から既に半年以上が経過したというのに、まだメジャーな劇場でもロングラン公開が続いている。
いや、評判の高さは認識していたのだが、インド映画で180分の長さというので腰が引けて、「まあ配信でいいかな」と自分に言い聞かせていた。
だが、映画業界に籍を置く複数の旧友から、「『RRR』を観ないで、明日の映画界を語る勿れ。これぞエンタメよ」と背中を押され、ようやく観賞した。
◇
いや、凄かった。「元気をもらった」という表現は、こういう作品に捧げるべきかもしれない。インド映画にはけして造詣が深いわけではないが、私の知るインド映画を軽々と超越している。
インドのパワーが漲るエンタメの王道作品。監督は『バーフバリ』シリーズで知られるS・S・ラージャマウリ。
インド映画の興行収入を塗り替えた男が、インド史上最高額7200万ドル(約97億円)の製作費をかけた超大作で、自らそれを更新しようとしている。
インドの<一本満足>映画
予告編やポスタービジュアルから、二人の髭もじゃの猛者が敵同士で熱い戦いを繰り広げる映画だと思っていた。
半分は正解だが、ただの敵同士ではなく、二人は相手を敵と知らず、義兄弟のような固い友情で結ばれていく。そこから、この二人が互いの使命や立場から、どのような道を選んでいくかの物語である。
◇
そのバトルのスケールの大きさやCGの見事さは圧巻だ。
鉄橋で炎上し落下しそうな機関車から、真下の川にいる子供を救うために、男二人が協力して空中ブランコで救出するアクロバティックな出会いの場面。
そうかと思えば、ひとりはバイク、ひとりは馬に飛び乗り、戦場で並走しては敵を倒しまくる激しい戦闘シーン。マーベル映画の集団バトルの迫力に負けていない。
というか、こっちはそれ以外に「ナートゥ・ナートゥ」のダンス対決までたっぷり魅せるからね。お得感でいえば、本作の方が上だわ。アベンジャーズは、キレキレの踊りはやらないでしょ。
おまけに恋愛ドラマもからませて、臆面もないほどの大胆不敵なエンタメ要素全部入り。これぞインドの<一本満足>映画。邦画には、ここまでできない。
羊飼いと担当捜査官
舞台は1920年、英国植民地下のインド。少女マッリ(トゥインクル・シャルマ)が美しい歌とともに総督夫人(アリソン・ドゥーディ)の手に絵を描く。
満足して夫人は銅貨を与えたようにみえたが、それは彼女を買い上げた対価で、スコット総督(レイ・スティーヴンソン)とともに、少女を攫っていく。泣き崩れる母。ここからドラマが始まる。
結束の固いその一族で<羊飼い>と呼ばれる男ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr)が、少女の奪還のためにデリーに潜伏する。
そのデリーでは、英国の圧政に耐えかねた無数のインド人暴徒たちが、総督のいる警察署を取り囲んでいる。見渡す限りの暴徒たちに、押され気味の警察隊。
だが、そこに単身で群れに飛び込み、一同を蹴散らす警察官ラーマ(ラーム・チャラン)がいた。本作では英国人は極悪非道の人種に描かれているが、このラーマはインド人でありながら、彼らの手先となっていた。
総督府では、早晩ビームが少女奪還のために襲ってくることを予期し、ラーマは担当捜査官として名乗りを上げる。彼は出世欲の強い男なのだ。
切れ者のラーマは、うまくビームの仲間ラッチュ(ラーフル・ラーマクリシュナ)に近づく。このあたりはスパイ映画の興奮。ラッチュもビームも髭面なので見分けがつかず難儀した。
どうみても正義のビームに強敵のラーマという構図なのだが、なぜかこの二人が力を合わせて子供を救うことになる。ここからの展開はインド映画ならでは。
捜査を忘れてしばしラーマはビームと親交を深めていき、ビームが一目惚れした、総督の娘ジェニー(オリヴィア・モリス)との恋の手助けをし、そして散々英国人貴族になめられた仕返しに、激しく義兄弟ダンスを披露する。
おいおい、正体を知らないとはいえ、敵同士が並んで踊るのって、凄いな。『ウェストサイドストーリー』を越えている。もはや、他者の追随を許さない『RRR』の世界。
今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
ラーマにも大義
だがラーマは、やがてビームの正体を知ることになる。毒蛇に噛まれたラーマを、ビームは必死に救ってくれるのだが、そこでつい自分の身上を語ってしまうのだ。
ここで職務を忘れてしまってはドラマにならない。総督の屋敷で少女を救出しようと急襲を仕掛けたビームたち。解き放たれた猛獣たちが英国警察隊を襲う。だが、そこに立ちはだかるラーマが、非情にもビームを捕える。
◇
そこから先は第二幕になる。詳細は割愛するが、ラーマが出世に燃えるのには理由があった。
彼は総督の圧政に抵抗しようと村人たちを鍛えてきたが、全員に行きわたる銃を手に入れるために、警察官となり武器庫の管理者に任命される日を待っていたのだ。
その大義のために、故郷でラーマを待ち続ける婚約者のシータ(アーリヤー・バット)。水のビームと火のラーマ。互いに使命を果たしながら、ようやく力を合わせて戦える時がくる。
退屈知らずのエンドロール
「ビームを処刑するのに使いなさい」と、釘入り特製の鞭をラーマに投げてよこす総督夫人のサディスティックさが凄い。
だが、鞭打ち処刑されているビームが不屈の精神で歌い始め、それを見ていた周囲のインド人の群衆が立ち上がるところは、ツッコむことさえ忘れさせる説得力。
二人の豪傑が、最後にはきっちりと総督夫妻にとどめを刺す。
3時間を感じさせることのないエンタメ作品。いやそれどころか、ビームとジェニー、ラーマとシータのそれぞれの恋愛ドラマも、もっと掘り下げて見せてほしいと思うほど。
通常なら席を立ちたくなる長いエンドロールだって、得意のダンス披露で、本編にまけない面白さ。
「ナートゥ、納豆、納豆」と聞くと『ひみつのアッコちゃん』の「すきすきソング」が脳内再生されてしまう。歌詞に出てくるインド史の偉人が全然分からなかったのは悔しいが、まさにザッツ・エンターテインメント!