『映画大好きポンポさん』
ポンポさんが来たぞー! B級映画を作らせたら超一流の女性プロデューサーと映画がすべての陰キャ青年監督の物語。
公開:2021 年 時間:90分
製作国:日本
スタッフ 監督: 平尾隆之 原作: 杉谷庄吾 【人間プラモ】 声優 ポンポネット: 小原好美 ジーン・フィニ: 清水尋也 ナタリー・ウッドワード:大谷凜香 ミスティア: 加隈亜衣 マーティン・ブラドック:大塚明夫 ジョエル・ペーターゼン: 小形満 コルベット監督: 坂巻学 アラン・ガードナー: 木島隆一
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
大物映画プロデューサーの孫で自身もその才能を受け継いだポンポさんのもとで、製作アシスタントを務める映画通の青年ジーン。
映画を撮ることに憧れながらも自分には無理だと諦めかけていたが、ポンポさんに15秒CMの制作を任され、映画づくりの楽しさを知る。
ある日、ジーンはポンポさんから新作映画「MEISTER」の脚本を渡される。伝説の俳優マーティンの復帰作でもあるその映画に監督として指名されたのは、なんとジーンだった。
ポンポさんの目にとまった新人女優ナタリーをヒロインに迎え、波乱万丈の撮影がスタートする。
レビュー(まずはネタバレなし)
このマンガがすごい!
マンガ・イラスト投稿サイトpixiv上で80万ビューを超え、その反響で出版が決まり、「このマンガがすごい!」、「マンガ大賞」に入賞した杉谷庄吾【人間プラモ】による同名原作を、『空の境界「矛盾螺旋」』の平尾隆之監督がアニメ映画化。
はじめに白状してしまうと、私はアニメ作品界に明るいわけではない。今でも欠かさず観ているのはピクサー作品とエヴァくらいなものだ。
本作も、原作も監督も存じ上げなかったのだが、タイトルかメイン・キャラについ惹かれてしまったようで、本作を観させてもらった。
◇
pixivから人気に火がついて、出版に続き映画にまでなってしまうのだから、大したものだ。アニメではないが、古くは2ちゃんねるの掲示板小説から始まって映画やドラマになった『電車男』(2005)、近年なら『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2021)あたりを思い出してしまう。
本作の舞台は映画の町、ニャリウッド。映画大好きなポンポさんというから、てっきり毎週映画館に通い詰めるような映画ファンの女の子の話だと思っていたが、この不二家のペコちゃん風な表情の巻き髪の主人公は、映画の作り手なのだった。
それも、ヒット作を量産してきた伝説の映画プロデューサー、今は引退しているペーターゼンの孫なのだ。その人脈と才能を受け継いだのがジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット、通称ポンポさんだ。
ポンポさんが来たぞ~!
登場時には自ら「ポンポさんが来たぞ~!」と大声をあげながら現れずにはいられないキャラの彼女は、しかしただの目立ちたがり屋ではない。
どこをどうすれば映画ヒットするかのツボを心得て、どのキャストやスタッフが映画を輝かせるか、人を見る目に長ける。手掛けるのはなぜかB級映画ばかりだが、彼女がプロデュースすると、どんなくだらない題材でも面白くなり、観客を惹きつける。
◇
「泣かせる映画よりおバカ映画で感動させる方が偉いでしょ」
当然、この敏腕プロデューサーのポンポさんが主役なのだと思っていたが、実は物語のメインは違う人物。B級映画の15秒予告がポンポさんに高く評価され、新作映画の監督に抜擢した陰キャのスタッフ、ジーン・フィニという青年だ。
「目に輝きのないヤツはリア充な青春を過ごしていない分、自分の中に深い精神世界を持っている。だからキミを選んだんだよ、ジーン」
キャラクターについて
この、まったく自分に自信のない、映画だけはひたすら大好きな青年ジーンが、ポンポさんのサポートを受けながら、新作映画『MEISTER』を悪戦苦闘しながら仕上げていくというのが、本作の骨格となる部分。
あまりに頼りないキャラだが、映画となると豹変するあたり、碇シンジに代表される、ありがちな男子キャラに思え、既視感が強い。
◇
同様に、オーディションに落ちまくっているのだが、女優になる夢を諦めずになんとかくじけずに頑張っている若い娘ナタリー・ウッドワードが、新作のヒロインに大抜擢というのも、よくあるパターンではある。
『MEISTER』の主演男優であるマーティン・ブラドックは引退同然だった大物俳優だが、本作で久々の復帰。傲慢で気難しいキャラかと思えば、すぐに味方になってしまう。
途中から登場する銀行の融資担当アラン・ガードナーは、かつてジーンと同じクラスでカースト上位のモテ男、どうみても悪役キャラと睨んだが、こいつも善人とは恐れ入る。
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キャラクターデザインは『ソード・アート・オンライン』の足立慎吾、アニメ制作は『この世界の片隅に』の松尾亮一郎が設立した新進スタジオのCLAP。
見慣れたというか、懐かしささえ感じられる2Dアニメーション。脚本同様に、けして悪人は登場しないほのぼのとした空気は若干物足らない気もする。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
撮影は順調だが、編集で躓く
本作は、アルプスの山の羊小屋でロケが始まり、いくつかのトラブルはあるものの、天候にもスタッフにも恵まれ、特に大きな問題もなく、あれよあれよという間に、順調にクランクアップしてしまう。
面白いのは、ジーンにとっての大きな試練は、編集作業から始まることだ。
撮影さえ無事に終われば、編集そのものは心踊る楽しいプロセスになると思われたが、何時間の大作でも楽しく観ていられるジーンと違い、ポンポさんは「90分以上の映画はあり得ない!」と言い切る。
それ以上集中力を持続させることは、彼女にとって苦行なのだ。
精魂こめて撮ったフィルムを削りに削って短くしていくのは、厳しい作業なのだろう。その苦労は、察するに余りある。だが、試練はそれだけではない。ジーンには、まだ撮らなくてはいけないものが残っていたのだ。
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一旦解散させたキャストとスタッフのスケジュールを再調整が必要で、当然追加費用もかかる。それはプロデューサーであるポンポさんの仕事になる。
土下座してもこの作品にかける情熱。それは『MEISTER』の映画の中で、アリアの演奏を失敗し信用を失墜させた主人公の指揮者と重なる構成になっている。
ちょっとダメ出し
そこまでは集中力を維持できたのだが、終盤のなにごともうまくいく大団円な展開にはちょっと萎えた。ジーンが撮影撮り直しまでして撮りたかったものが、もう一つ訴えかけてこない。ここも惜しい。
そしておカネの面。新人監督の撮り直しで追加予算が必要と聞きスポンサーが下りた分を、銀行融資でカバーしようとアランが捨て身で頑張る。それは良い。
だが、銀行内の融資案件検討の役員会議を無断でネット配信し世間に晒してしまうのはダメだろう。
映画では、その配信内容がクラファンの募集金額に好影響を与えて云々という説明だったが、頭取がどう言おうと、機密情報漏えいで懲戒解雇だと思う。この時点で共感しにくくなった。
最後はめでたく本作がニャカデミー賞を総取りするわけだが、もう一歩ひねりが欲しかった。
とはいえ、エンドロールの末尾には、ポンポネットの率いるペーターゼン・フィルムのロゴが登場。ポンポさんの映画だもの、本作はジャスト90分。ここは上映時間をみてニヤリ。泣きながら編集カットしたのかな、平尾隆之監督。