『2分の1の魔法』
Onward
傑作『リメンバー・ミー』以来久々のピクサーオリジナルアニメだった本作だが、なかなか微妙な内容。
公開:2020 年 時間:102分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ダン・スキャンロン 脚本: ダン・スキャンロン ジェイソン・ヘッドリー キース・ブーニン 声優 <ライトフット家> イアン: トム・ホランド(志尊淳) バーリー: クリス・プラット(城田優) ローレル: ジュリア・ルイス=ドレファス(近藤春菜) ウィルデン: カイル・ボーンハイマー(宗矢樹頼) <その他> コーリー: オクタヴィア・スペンサー(浦嶋りんこ) ブロンコ: メル・ロドリゲス(村治学) スペクター:リナ・ウェイス(斉藤貴美子) ゴア: アリ・ウォン(大井麻利衣) デュードロップ: グレイ・デリスル(林真里花)
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
かつては魔法に満ちていたが、科学技術の進歩にともない魔法が忘れ去られてしまった世界。家族思いで優しいが、なにをやってもうまくいかない少年イアンには、隠れた魔法の才能があった。
そんなイアンの願いは、自分が生まれる前に亡くなってしまった父親に一目会うこと。
16歳の誕生日に、亡き父が母に託した魔法の杖とともに、「父を24時間だけよみがえらせる魔法」を書かれた手紙を手にしたイアンは、早速その魔法を試すが失敗。父を半分だけの姿で復活させてしまう。
イアンは好奇心旺盛な兄バーリーとともに、父を完全によみがえらせる魔法を探す旅に出る。
レビュー(ネタバレあり)
父親との再会の物語か
『モンスターズ・ユニバーシティ』のダン・スキャンロン監督が手掛けたピクサー・アニメ。ピクサーがシリーズ作品以外のオリジナル作品を出すのは『リメンバー・ミー』以来3年ぶりだとか。
文明の利器のおかげで苦労して魔法を習得しなくなった妖精たちの世界が舞台となっていて、今回人間どもは登場しない。主人公はイマイチ学校の仲間と溶け込めていない主人公の男子高校生・イアン。
彼には魔法オタクの兄・バーリーがいる。オンボロの愛車のボディにペガサスを描き乗り回し、魔法の世界を懐古してやまないバーリーは、弟を溺愛するちょっと暑苦しい兄でもある。
◇
本作は、イアンが生まれる前に亡くなってしまった、二人の父親であるウィルデンとの再会の物語だ。
父が生前にイアンの16歳の誕生日にと母のローレルに託していた<魔法の杖>。そこにバーリーに教わった呪文を使い、父の復活を試みるが、なぜか下半身だけが実体化し、上半身がない父親が現れる。
これが邦題にある『2分の1の魔法』というわけだ。日本ではアパレルメーカーと名称がかぶる原題の<Onward>よりはイメージがわきやすい。
下半身だけの父さん
ただ、この復活した下半身父さん。映画的には本当にこのキャラ設定で良かったのか甚だ疑問である。
下半身だけということで、軽快に移動はできるものの、何も見聞きができず、兄弟とは意思疎通ができない。脚本としてはそのもどかしさが狙いなのだろうが、かかしのように上半身に上着だけを被せた父親は、表情も喋りもないので、コミカルな動きだけしか印象に残らない。
イアンが生まれる前、あるいは長男バーリーが幼少の頃に死んでしまった父は、さぞ子供たちや妻に会いたかったであろうと想像するも、その16年間の重みと、コミカルな下半身の動きが絶望的にミスマッチなのだ。
兄弟は父親の上半身を復活させるために、魔法の地図をたどって冒険の旅にでる。
そこに、失踪した彼ら兄弟を追いかけるシングルマザーのローレルや、本来はマンティコアという凶暴な生き物ながらも現代社会では普通にファミレスを経営するコーリーら、二人をサポートするキャラが後方支援する展開。
少しずつ魔法を習得し、同時に自信をつけていくイアンの成長。このRPG的な流れはいい。
父に会えたら何をしよう。サラ・ポーリーの『死ぬまでにしたい10のこと』よろしく、メモパッドにTo Doリストを作っていたイアンだったが、冒険は難航し、達成されないまま多くの項目が消されていく。この見せ方も悪くない。
これはダメだろう
だが、どうにも納得できない点が二つある。(ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。)
ひとつは、母ローレルに新たな恋人である、警察官をやっているケンタウロス(下半身が馬)のブロンコというキャラを登場させたこと。勿論、母に再婚相手がいたって構わないとは思うが、このブロンコの立ち位置は中途半端だ。
兄弟たちが母の新恋人を敬遠し、強い確執があって、というサイドストーリーがあるならともかく、ブロンコはただの警官。だが、この新恋人がいるせいで、ローレルと、子供たちが追い求める死んだ夫との再会話に関しては、まったくスルーされる。
夫婦再会話を加えると、兄弟と父との話に水を差すと考えたのかもしれないが、これはピクサーの世界観としてはイケてない。
また、兄弟が最後に戦う羽目になる相手が、恐竜のような巨大な図体にスクールマスコットのアニマルの顔を載せた、コミカルな代物なのもどうかと思う。『ゴーストバスターズ』のマシュマロ・マンのような古典的なギャグなのだろうが、本作にはフィットしていない。
◇
最も愕然としたのは、結局、24時間の魔法のタイムリミットのせいで、ギリギリのタイミングで上半身が復活した父親と再会し、ガッチリと抱擁できるのは、兄のバーリーだけなのだ。
兄のために、イアンはその最後の瞬間、魔法を使って必死に格闘している。遠くの岩陰から、父と兄の再会を目にするだけなのだ。
いやあ、これではイアンが気の毒すぎる! 確かに彼には生まれる前に死んだ父の記憶はないが、でも主人公なのだから、冒険の終わりには父と抱擁してほしかった。
父は消えてしまい、兄は父の伝言だといって、弟を抱擁する。この冒険で、兄弟の絆は強まった。バーリーもただの魔法オタクではなく、頼れる兄貴だということが分かった。
だが、結局父はイアンには会えず、観客である我々には、ろくに父親の顔も、声も分からない。何というモヤモヤ感。ピクサー好きの子供たちはこれを観て、何を思うのだろうか。
◇
感動させたいのかさせたくないのか、モヤモヤが募るストーリー展開。そもそも父さんの下半身しか実体化しない点で、感情移入が難しい。
上半身が魚で『リトルマーメイド』が成り立つと思ったか、ディズニー。ただツッコんで笑いたい人には、オススメのピクサー作品。