『ルディ・レイ・ムーア』
Dolemite Is My Name
過激な漫談を吹き込んだアルバムを茶封筒に入れて、レコード店でこそこそ販売する姿は『全裸監督』か。録音漫談が口コミで売れていくのは、綾小路きみまろのブレイクと同じ展開じゃないか、エディー・マーフィー。
公開:2019年 時間:118分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: クレイグ・ブリュワー
脚本: スコット・アレクサンダー
ラリー・カラゼウスキー
キャスト
ルディ・レイ・ムーア:
エディ・マーフィ
ダーヴィル・マーティン:
ウェズリー・スナイプス
ジェリー・ジョーンズ:
キーガン=マイケル・キー
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
舞台は70年代の西海岸。なかなか売れずにレコード店でくすぶっているR&B歌手のルディ(エディ・マーフィ)。
生活費稼ぎにやっているクラブのMCで、ホームレスの老人からパクったネタをアレンジして披露し、その下ネタと毒舌満載のトークがバカ受け。
スタンダップ・コメディアンとして、黒人社会で一躍人気者になっていく。
レビュー(まずはネタバレなし)
ルディ・レイ・ムーアって誰よ
エディ・マーフィが久々に主演した黒人コメディアン、ルディ・レイ・ムーアの伝記映画。
おー、それは観たいな、でもルディ・レイ・ムーアって誰よ。というのが率直な反応だが、本国アメリカではどのくらい名の売れた人なのだろうか。
◇
原題にあるように、『ドールマイト』というコメディ映画を素人同然の彼が作っていくのがメインの物語なのだが、この作品はカルトムービーとして実在している。
当時のポスターも探してみると、まさに本作に出てくるイメージそのまんまなので、こちらもちょっと観てみたい気がしてくる。
◇
このところなかなかヒット作に恵まれないエディ・マーフィと、なかなか売れずにもがくルディが重なるが、映画のルディ同様、ここで再びエディが勢い付いてくれると嬉しい。
『星の王子ニューヨークへ行く』の続編に期待してしまう、同じクレイグ・ブリュワー監督だし。
レビュー(ここからネタバレ)
全裸監督か、きみまろか
言葉の壁なのか文化の壁なのか、前半のスタンダップ・コメディアン時代のお下劣トークは、私にはほとんど笑えなかった。
ただ、そこはさすがのエディ・マーフィ。観ている方も、笑えなくても何となく見守りたい雰囲気になっていく。
◇
ご自慢の過激な漫談を吹き込んだレコードを、怪しげなスタンプを押した茶封筒に入れて、レコード店の店頭でこそこそ販売する姿は、どこかで観たぞ。
と思ったら、同じNETFLIX配信の『全裸監督』でヤバい〇〇本を売ってた構図と同じじゃないか。
さらに、漫談の録音が口コミで売れていくあたりは、綾小路きみまろがブレイクするまでの道のりとも通じるものがある。
いつしか映画制作がメインの話に
中盤からの、ビリー・ワイルダー監督『フロント・ページ』を散々こき下ろして、黒人向けのコメディを作るぞとなるあたりから、映画は俄然面白くなってくる。
素人集団だから、UCLAの映画科の学生を投入させたり、ストリップ・バーで偶然出会った俳優ダーヴィル(ウェズリー・スナイプス)を巻き込んだりと、思いつくまま。
◇
当時の流行を思わせる、カンフーあり、エクソシストありの無計画さで、ホントに完成するのか疑わしかったが、どうにか多額の借金で完成に漕ぎつける。
ところが、なんとここまで来て、配給先がつかずお蔵入りになりかけてしまう。やっと人づてにみつけた一軒の映画館、前金500ドルで上映という条件をめぐるやりとりは笑えた。
さあ、あとは観客が入るかどうか。
黒人のための映画は完成した
この『ドールマイト』、ブラックスプロイテーション(黒人主演で黒人の観客向けに作られた映画)の原典といえる作品のようだ。
ルディのおかげでブラックスプロイテーションというジャンルが確立されたのだろう。
以前に訪れた黒人が多く住む米国の都市で、街のあちこちに掲げられた映画のポスターが、みんなブラックスプロイテーションだったのを思い出す。今回共演しているウェズリー・スナイプスのポスターもあった。
昨年だったか、『ブラック・クランズマン』を撮ったスパイク・リー監督が、アカデミー賞を受賞した『グリーンブック』を批判していたが、白人の監督が撮った、白人が黒人を救う映画はブラックスプロイテーションとはいえないわけだ。
その辺の複雑な問題を白人のクレイグ・ブリュワー監督が難なくクリアーしてしまっているところは、何気にすごい才能なのではないかと思う。
ルディたちがみんなで一生懸命に撮った作品が編集されて上映され、観客がどっかーんと沸いているシーンを観ると、なんだかほっとする。
全編にわたってルディの口汚いマシンガントークを聞かされているはずだが、(英語だからか)不思議と嫌悪感はない。
映画のキャストやスタッフも、同じように彼のお下劣な毒舌が好きになってきたのだろう。クランクアップの際にも、上品に挨拶した彼にいつもの調子を求めてくる。
◇
80年代初期のラッパーはみな、ルディの影響を受けているのだと、最後に紹介される。劇中でもルディのファンだという少年と、ラップバトルをやっていた。
エディ・マーフィがこんな映画を作ってくれるのならば、ルディ・レイ・ムーア本人も、存命中に観たかったに違いない。
『ドールマイト』を配信してるところ、探してみようかな。