『神田川のふたり』
前半40分のワンシーンワンカット、いまおかしんじ監督が贈る神田川沿いロードムービー。
公開:2022年 時間:83分
製作国:日本
スタッフ
監督: いまおかしんじ
キャスト
竹下舞: 上大迫祐希
小野智樹: 平井亜門
陽菜: 椎名糸
百花: 岡本莉瑚
ナンパ男: 橋本達
謎の男: 佐藤宏
みお: 逢澤みちる
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
中学時代のクラスメイトの葬儀に参加した高校2年生の舞(上大迫祐希)と智樹(平井亜門)。
互いに気がありながら、その思いを伝えられず別々の高校へ進学していた二人は、東京都杉並区永福町の幸福橋から高井戸方面へ、神田川沿いを自転車を押しながら歩いていた。
その途中、上下オレンジ色のスウェットに両手首を縄で縛られて倒れている謎の男(佐藤宏)に遭遇したことをきっかけに、下高井戸八幡神社へ向かうことになった二人。
神社では、亡くなったクラスメイトが思いを寄せている、みお(逢澤みちる)という女性との恋愛成就の絵馬を発見し、その思いを伝えるため、みおが働く井の頭恩賜公園のボート乗り場へと歩みを進めていく。
レビュー(ほぼネタバレなし)
どこまで続く前半の長回し
本作の公式サイトによれば、映画のタイトルに<神田川>が使われるのは、黒沢清監督のデビュー作『神田川淫乱戦争』(1983)以来らしい。
世代的に頭をよぎるのはかぐや姫の歌う『神田川』の方だが、四畳半フォーク(三畳か)とも、銭湯帰りで同棲中のふたりとも本作はまったく無縁である。
同じ神田川沿いといっても、こちらは永福町から高井戸方面で、あの歌でイメージする高田馬場界隈とは異なるし、ふたりというのも、中学時代から意識し合っている高校生の男女だ。

ピンク映画界の七福神のひとり、いまおかしんじ監督の作品だが、私は『れいこいるか』しか観たことがないので、神田川沿いだけで成立させるロードムービーというのは新鮮だった。
とりわけ驚いたのは、冒頭から相米慎二なみの長回しだと思っていたショットが、いつまでも途切れずに進むことだ。
◇
同じ中学から異なる高校に進学した舞(上大迫祐希)と智樹(平井亜門)は、急死した友人の橋本(あだ名が神田)の葬儀の帰りに久々に再会し、自転車を押して神田川沿いを歩いていく。

語り合いながら二人が進む道中に学校の友人や怪しい人物が次々と現れては消えるスタイルで映画は進む。並んで歩いたり自転車に乗ったりする過程を、カメラはずっと正面から追い続ける。
コンビニに行こうと言いながら本物は登場せず、川沿いにある架空の店に黒子だけがおにぎりのトレーを持って立っている。まるでコントのように、二人は自分で想像上の自動ドアを開けて店内に入る。
この演劇のような舞台装置は時間と予算の制約からの苦肉のアイデアらしいが、なかなか斬新だ。
物語が動く後半戦
舞を演じるのは『青すぎる、青』、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の上大迫祐希、智樹を演じるのは『アルプススタンドのはしの方』の平井亜門。

ふたりとも好演していたが、ずっと自転車を押しての会話劇では途中でややダレてくる。
そもそも30分以上も続くワンカットというのは撮り直しもせず、何があっても演技を続けろという指示だろうから事前準備はえらく大変そうだが、いざカメラが回れば短い時間でクランクアップできて編集もなく、効率的なのかね?
◇
コロナ禍の思わぬ影響で文化庁から助成金がおりたから撮れてしまった映画というのは、こういう乱暴な作りになるのかな、とやや色眼鏡で見るようになったのは、両手を縛られて川沿いの転がっている謎の男(佐藤宏)が登場してからだ。
『れいこいるか』では、子供の精神年齢のままの男を演じていた佐藤宏だが、今回は更に挙動不審。この男の言動にはついていけなかったので、正直うんざりしてきたところで、何と40分が経過した頃に、タイトルが出てワンカットが終わる。
◇
この時点では、長回しだけにこだわった凡庸な映画に思えたのだが、後半からは普通にカット割りのあるスタイルとなり、単調だった物語に変化が生まれる。
死んだ神田君が秘かに想いを寄せていた、井の頭公園の貸しボート受付のみおさん(逢澤みちる)に、彼の気持ちを伝えにいこうとする二人。その行動を通じて、互いに意識しあっていた舞と智樹の関係も進展していく。そういう構成の映画だ。

ロードムービーというだけあって、目的地の井の頭公園でみおさんに会えたことで相応の達成感が得られる。
だが、私が感動したのは、それに続くカーテンコールのような場面だ。ここにたどり着くことで、それまでのモヤモヤがみな解消したような気持ちになった。
手軽にチャチャッと撮っているようで、実はよく出来ている。いまおかしんじ、恐るべし。
レビュー(更にネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はくれぐれもご留意ください。
舞台のカーテンコールのように、映画の最後にそれまでの出演者がみんな登場してくる演出はたまにみかける。
本作でも、これまでのメンバーが総動員され、劇中のカラオケで舞が歌っていた南沙織の『17歳』をみんなで合唱。二人を囲んで、舞と智樹に口づけせよと囃し立てる(そりゃ『てんとう虫のサンバ』だよ)。
だが、本作はそこに更なる仕掛けがあった。歌い手の一人である、コンビニや神社の場面で登場した黒子が頭巾を取ると、それは金髪の神田君なのだ。このさりげないサプライズにはちょっと泣けた。
いいなあ、いまおかしんじ。『れいこいるか』よりこっちのが好きだ。思い切って、後半もぶっ通しでワンシーンワンカットに挑戦してたら、大傑作になっていたに違いない。
