『インファナル・アフェア』
『インファナル・アフェアⅡ 無間序曲』
『インファナル・アフェアⅢ 終極無間』
『インファナル・アフェアⅡ 無間序曲』
無間道Ⅱ
一国二制度の幕開けの裏で、サムは闇社会の頂点にのし上がる。ラウとヤンはイヌとして警察とマフィアに潜りこむ。そしてウォン警部とサムの因縁も、はや火花を散らし始める。
公開:2003 年 時間:119分
製作国:香港
スタッフ 監督: アンドリュー・ラウ キャスト ウォン警部: アンソニー・ウォン サム: エリック・ツァン ラウ: エディソン・チャン ヤン: ショーン・ユー マリー: カリーナ・ラウ ンガイ・ハウ: フランシス・ン ルク警視: フー・ジュン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
ポイント
- 人気が出たから撮ったのではなく、はじめからしっかりと準備された前日譚。若き日のラウとヤンそれぞれがこの世界に入り込む経緯も分かるが、むしろ本作でクリーズアップされるのはウォン警部とサムの不思議な腐れ縁。香港ノワールの魅力十分。
あらすじ
前作から遡ること11年、1991年の香港。マフィア・サムの部下のラウは警察に潜入する事になるが、その直前にサムの妻であるマリーに組織のボス・クワンの暗殺を依頼される。
密かにマリーに心を寄せていたラウはその依頼を受けクワンを暗殺する。ラウと同時に警察学校に入学したヤンは、クワンの私生児という出自を理由に退学を言い渡される。
マフィアの台頭を危惧するウォン警部により、組織への極秘潜入を条件に警官の身分を与えられたヤンは、クワンの後継者で異母兄であるハウの部下として動き始める。
レビュー(まずはネタバレなし)
今回はウォンとサムが主役だ
『インファナル・アフェア』の前日譚にあたる二作目である。シリーズ全三作の製作時期を考えると、ヒットしたからの次作ではなく、同時進行で進められていたのだろう。前作とのつながりが随所にみられる。
◇
今回のメインは、前作でも重要なポジションであったウォン警部(アンソニー・ウォン)と、まだ裏組織の一幹部にすぎないサム(エリック・ツァン)の二人だ。
ウォンの見かけは既にこの頃から十分渋いが、サムは、11年前という設定を感じさせる若さが残る風体。
◇
前作の主演であった、相対する組織の潜入スパイであるラウ(エディソン・チャン)とヤン(ショーン・ユー)。
前作での若き日の配役通りの二人だが、微妙にヤンに肩入れする作りだった前作に比べると、本作ではまだマスクに甘さが残るラウに比重が多い。
ラウの恋慕、ヤンの信念
ラウはサムの妻・マリー(カリーナ・ラウ)を一方的に思い焦がれているという、前作ではあえて封じていた内面が描かれている。
本作は、裏組織のトップだったクワンが何者かに射殺され、その後継者である長男のハウ(フランシス・ン)が、父の仇を討つべく真犯人を探す話が、全体の骨格となっている。
そして、クワンを狙撃したのは、マリーの命を受けたラウだ。
ラウはその後、サムの指示により警察学校に入り、潜入スパイとして警察組織をのし上がっていく。
潜入は断ってもよい話だったが、ラウはマリーのためにボスまで暗殺する男だ。愛する夫・サムのために何でもする女・マリー、そして彼女のために何でもする若者・ラウの三層構造。
◇
一方のヤンは、警察学校首席の優等生だったが、ハウと異母兄弟であることが発覚し、除名処分になりかけたところを、ウォンが潜入スパイとして抜擢。
前作でウォン警視の面接試験を受けていたくだりと若干差異がある気もしたが、彼がイヌになった経緯はこれでスッキリした。
本作は単体作品としての魅力は前作には及ばないものの、けして安易な作りではないし、なかなか面白い。
前作で伝えきれなかった人間関係をうまく補完する作品であり、また、ハウやルク警視、マリーといった本作のみの魅力的なキャラも作り出している。
◇
それに、香港返還という歴史的な節目を上手にストーリーにも織り込んでおり、ラウが英語で上官と面接をするあたりも新鮮だった。
あの当時、当夜にこんな出来事が裏で繰り広げられていたのかと、フィクションながら感慨深く観ることもできる。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレになりますので、未見の方はご留意ください。
前作とのつながりは
多くの主要登場人物が死んでしまう本シリーズにあって、前述のキャストのほかに連続で出演するのは、前作でヤンの弟分だったバカのキョンだ。
本作ではまずイヌになる前のヤンにボコられ、最後にはサムの手下になるヤンに先輩風を吹かす。
その他にも前作つながりの点としては、冒頭でラウがマリーの自宅で聞く高級オーディオからの女の唄(前作でヤンと初めて会ったオーディオ店の曲だ)。
そして、マリーを失って警察業務に邁進するラウが、ラストで調書を書く相手の泥酔女(こっちも同名のマリー)は、後の妻になる女性だ。
◇
ヤンに無断で子供を堕ろしたと責められていた恋人は、前作で再会した元カノだろうか。
前作では彼女がヤンに6歳の娘を5歳と言い間違えることに意味がありそうだったが、堕胎せずに産み育てたヤンの娘だったのかもしれない。私生児ヤンの私生児だ。
からみあう因果関係
さて、本作で意外だったのは、ウォン警部とサムが、敵対はしているものの、仲が良さそうなことだ。
といっても二人とも、本心を容易にさらすような人物ではないので、表面的な付き合いだとは思うけれど。
冒頭でウォン警部がサムに初めての逮捕の思い出を語る。
「俺は犯人の腹に6発撃ち込んだが、そいつの釈放後に先輩刑事は殺された。あの時、射殺しておけばよかった」
それ以来、ウォン警部は制裁のために手段を選ばなくなった。無間道の序曲だ。
弱味でも握っているのか、ウォンはマリーに、クワンの暗殺を指示する。それがラウの狙撃につながり、無間地獄が始まる。
父を殺されたハウは探偵を使い、真犯人を突き止める。ウォン警部を失脚させ、クルマごと爆破しようと企むが、ウォンの良き同僚であるルク警視(フー・ジュン)が身代わりに爆死する。
◇
サムは取引でタイに行き、その間にマリーは空港でハウの手下に轢き殺される。
これは、マリーに思いを伝え彼女を救出しようとしたラウがふられ、サムのもとへ行こうとする彼女の居所をハウに密告した結果なのだ。
サムに渡すくらいなら、という失意と嫉妬だ。死ぬ直前、ラウからの電話に気づくもマリーはそれを無視する。
終盤、ハウの裁判で彼に不利な証言をさせようと、ウォンはサムをタイから香港に呼び戻す。だが、裁判近くなりサムは逃亡し、ハウと直接対峙する。
互いに、タイとハワイにいる相手の親族を拉致したうえでの対決だ。ここに乗り込んだ警察隊。結局ハウは、ウォンの銃弾に倒れる。
一発必中の弾丸は、ハウの額を貫く。初めての逮捕からの教訓だ。ルク警視の仇を取った思いもあるのか。ハウは死ぬ間際、信頼を寄せていた弟のヤンが、潜入だったことを知る羽目になる。
◇
この銃殺劇は、サムがウォンをうまく担ぎ出してハウを殺させた印象が強い。愛していた妻マリーを殺したハウへの復讐だ。
だが、マリーが殺されるきっかけを作ったのはウォンだ。そのサムの復讐が、11年後に果たされるのは因果なものだ。
また、ラウにしてみても、思い焦がれたマリーの夫サムに将来銃口を向けることになる。
◇
前作を振り返る形で本作を観るのが、やはり正しい作法だったと思う。スターウォーズをエピソード4から公開順に追うのと、同じ理屈である。近日中に久しぶりに最終作に浸りたい。
4K版観に行ってきた
追記:2023年11月。日本公開20周年ということで、スクリーンを拝みに行った。
アンディ・ラウとトニー・レオンの不在という物足りなさはあれど、一作目の段階から準備された前日譚であり、完成度は高く、サムが若くなっているところも立派。
本作の中でも、クワンが生きていた時代とハウが撃たれる時代はきちんと携帯電話の大きさで描き分けられるなど、芸が細かい。本作でしか観られないのが惜しい、インテリヤクザ風のハウのキャラも、個人的に気に入っている。
人気の出た前作を必要以上に絡めて来ない、独立志向。本作単体でも楽しめる。