『ナイトフラワー』
シングルマザーと格闘家、二人の女がやむなく始めたドラッグ売人稼業から始まるドラマ。
公開:2025年 時間:124分
製作国:日本
スタッフ
監督・脚本: 内田英治
キャスト
永島夏希: 北川景子
芳井多摩恵: 森田望智
池⽥海: 佐久間大介
永島小春: 渡瀬結美(子役)
永島小太郎: 加藤侑大(子役)
サトウ: 渋谷龍太
星崎みゆき: 田中麗奈
星崎桜: 瀧七海
柳⼀郎: 池内博之
多⽥真司: 光石研
岩倉探偵: 渋川清彦
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
借金取りに追われ、二人の子どもを連れて東京へ逃げてきた永島夏希(北川景子)は、昼も夜も必死に働いてもなお、明日の食べものにさえ困る生活を送っていた。
ある日、夜の街でドラッグの密売現場に遭遇した彼女は、自らも売人になることを決意する。
心に深い孤独を抱える格闘家・芳井多摩恵(森田望智)と出会った夏希は、ボディガード役を買って出た彼女とタッグを組み、さらに危険な取引に手を伸ばす。
しかし、ある女子大学生の死をきっかけに、夏希と多摩恵の運命は思わぬ方向へ転がりはじめる。
レビュー(まずはネタバレなし)
シングルマザーと格闘家
真夜中のゲイボーイ『ミッドナイトスワン』の内田英治監督が撮った、月下美人の物語。
極貧生活の中で二人の子供を育てているシングルマザーの主人公・夏希(北川景子)。違法ドラッグの密売に手を染めようとする彼女の用心棒を買って出る格闘家の多摩恵(森田望智)。
異色な女二人のバディムービーでその一人は格闘家、そして二人が笑顔で並ぶポスタービジュアルとくれば、『ベビわる』系のアクションコメディを想像するが、正反対のシリアスで重たいドラマ。
そのテーマのヘビーさは、マイノリティの生活弱者を採り上げた『ミッドナイトスワン』に近い。
清楚系美人女優の代表格である北川景子にいきなりのトイレでの絶叫シーンから、泥酔嘔吐に顔面殴打と、既存イメージ打破で新境地に臨む気合が伝わる。
そして内田英治の『全裸監督』で黒木香を怪演した森田望智が、今度は格闘家を熱演。こちらも文字通りの身体を張った演技。リング上でも死闘を繰り広げる。
さらに、多摩恵の幼馴染のデリヘル配達人、池田海には、内田監督の最新作『スペシャルズ』にも主演のSnow Man佐久間大介。キャスティングは面白い。
プロットは昭和テイスト
ただ、正直いって、このキャラ設定とストーリー展開はやや時代遅れな感じが否めない。
シングルマザーなのはありだとしても、場末のスナック楽園(ママは内田慈)でのホステス仕事とカラオケ絶唱、地球儀貼りのクソ仕事に分かりやす過ぎる陰湿上司、餃子弁当のついでに盗んでしまう違法ドラッグからの売人展開。
リアリズム度外視展開もまた、内田監督の作風といえばそれまでだが、出来すぎの娘とわがまま盛りな息子を抱え、たまにブチ切れたあとに抱きしめる母親の姿には、泣ける人もいるだろうが、昭和的な古臭さはぬぐえず。

夏希の娘・小春のバイオリンをめぐるエピソードもベタだった(これには泣かされたけど)。
小春を演じた渡瀬結美は幼少からバイオリンを習っていたようで、今回の映画初出演でもそれらしく見えていたのは流石。『ミッドナイトスワン』のバレエ教室のように、本作ではバイオリン教室で貧富による階層差をまざまざと見せつけられる。

母子三人が大阪弁なことと、デリヘル嬢をやりながらジムに通いビッグになって這い上がろうとする多摩恵のキャラクターに助けられ、映画はかろうじて、絶望的に暗く落ち込む雰囲気から逃れられている。
ドラッグ売買も楽器の路上演奏も蒲田が舞台となっているのかな。一体どんだけヤバい町なのかと、風評被害を受けそうで気の毒。
◇
ドラッグ売買の元締めサトウ(渋谷龍太)がヤバい雰囲気でいい、特にあの金属的な声質。SUPER BEAVERのボーカルとは気づかず。映画は初出演だが、ミュージシャンであの危険な雰囲気はMIYAVIを彷彿とさせる。

途中から登場してくる、資産家の妻・星崎みゆき(田中麗奈)とその放蕩娘の桜(瀧七海)が本筋にどう絡んでくるのかがなかなか読めなかったが、ここには思わぬ意外性があった。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
違法ドラッグを女二人でこそこそと売り歩いて、やがて多額のカネが必要になって、元締めに頼んで取引量を5倍にしてもらって。どう見たって最後は破綻して悲惨な目に遭うパターンの物語だが、この作品がどのように幕を閉じるのか。
それがまさか、考察を要するものになっているとは思わなかったが、自分なりに考えを整理してみた。なので、正解かどうかはわかりませんが、ネタバレではあります。

ラストはこういう解釈ではないか
夏希たちの常連客のひとりだった女子大生が警察から逃げる途中で事故死したことで、みんなの運命が狂い始める。ドラッグの元締めサトウたちは警察の捜査を恐れ、まず池⽥海を殺し、次に多摩恵を襲う。
一方、娘の事故死で売人の夏希たちを逆恨みした母みゆき(田中麗奈)は、元刑事の探偵(渋川清彦)から拳銃を買う。「この人たちにも、家族はいるのかしら」

子供への愛情が感じられないみゆきでも、復讐を考えるのだろうか。彼女は夏希の団地の前の公園で、娘の小春に銃を向ける。
室内で銃声に気づく夏希と小太郎。やがて部屋に誰かがくる気配。カギをあける小太郎とそれを制す夏希。だが入ってきたのは小春と多摩恵だった。
そしてみんなで楽しく旅行の準備。そりゃ嘘だろう。表面的にはハッピーエンドだが、そんな筈はない。旅行先は楽園。つまりこの世ではない。
夜にしか咲かない月下美人が、昼間に大輪の花を咲かしている。だから、ここはもう、夏希の妄想の世界なのだ。

「三つの質問をする。その答え次第では、殺さずにおいてやる」とサトウは多摩恵に言った。
質問も結果も不明だが、これまでの会話から、サトウが目をかけているのは母ちゃんだ。殺さずにおいてやるのは、多摩恵のはずがなく、彼女はここで殺されたのだろう。
みゆきも復讐をするのなら、夏希の子供だけを殺し、同じ不幸を味合わせるはずだ。だから、小春を撃ったあと、部屋に入り小太郎を撃ったに違いない。

ひとり生かされた夏希が、終盤で殺される直前の息子に叫ぶ「小太郎、行ったらアカン!」は、冒頭のスナックのトイレで叫ぶ台詞でもある。
つまり、冒頭の彼女は我が子を失った後の現在の姿であり、その後に店で歌う、或いは月下美人の鉢植えを客からもらう場面からが回想シーンというトリッキーな繋ぎ方なのではないか。
違法ドラック売人やって全員ハッピーなのも困るが、この終わり方も、深く考えればあまりに悲惨だ。
何も考えずに、昼間でも月下美人が咲くこともあるんだねと思って観ていたほうが、心穏やかでいられるのかもしれない。
