『そして彼女たちは』
Jeunes mères
公開:2026年 時間:104分
製作国:ベルギー
スタッフ
監督: ジャン=ピエール・ダルデンヌ
リュック・ダルデンヌ
キャスト
ジェシカ: バベット・ベルベーク
ペルラ: ルシー・ラリュエル
アリアンヌ:ジャナイナ・アロワ・フォカン
ジュリー: エルサ・ウーベン
ナイマ: サミア・ヒルミ
モルガーヌ: インディア・ヘア
ナタリー: クリステル・コルニル
アンジェル: ジョエリー・ムブンドゥ
ディラン: ジェフ・ジェイコブス
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
コンテンツ
あらすじ
若くして妊娠した女性たちを支援する施設で共同生活を送る、ジェシカ、ペルラ、アリアンヌ、ジュリー、ナイマの5人の少女。
頼る人を持たず、貧困や暴力などさまざまな問題を抱える彼女たちは、戸惑い、悩み、目指すべき家族像を見いだせないまま母親になる。
押し寄せる孤独感に飲み込まれそうになりながらも「愛する」ことを望む少女たちは、時に誰かに寄り添われ、それぞれが歩むべき道を選びとっていく。
レビュー(若干ネタバレあり)
支援施設の若き母親たち
若くして妊娠するが、さまざまな理由からサポートが必要なため、施設で共同生活を送る女性たちの物語。原題は『若き母親たち』とストレートだが、『そして彼女たちは』と意訳した邦題は悪くない。
複数の主人公たちの群像劇仕立てになっているのは、ダルデンヌ兄弟の作品にしては珍しいように思うが、当初はひとりの女性の物語にする予定だったそうだ。
だが母子支援施設を取材したところ、その長い歴史の中での多くのエピソードを聞き、本作のスタイルになっていく。

Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
なるほど、支援が必要なケースといえば、まず貧困、あるいは身寄りのない家庭環境などが思い浮かぶが、ここに登場する5人の女性たちは、それぞれに異なる問題に苦悩しながら、乳飲み子を育てる、或いはこれから出産しようとしている。
見知らぬ母に会うジェシカ
まず登場するのは、妊娠中のジェシカ(バベット・ベルベーク)。重いおなかを抱えて、かつて自分を養子に出した、名前も知らない母親(インディア・ヘア)に会いにいく。
はちきれそうに膨らんだお腹を出して診察してもらうシーンは、どうやって撮ったんだろう。彼女は本当に妊婦だったのか。ダルデンヌ兄弟なら、それもあり得そう。

Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
この母親モルガーヌが我が子にあまりに塩対応で驚く。日本のドラマではまず見られない方向性が新鮮だ。
生みの親の愛情を受けずに育ったジェシカは、生まれ来る子どもを自分が「嬉しい、可愛い」と思えないことに思い悩む。このエピソードは、ある意味本作の中では一番切ないと感じる。
男は逃げて子供が残るぺルラ
次に、コンゴからベルギーに移民した黒人女性のペルラ(ルシー・ラリュエル)。
赤ん坊の父親は少年院を出所すると、家族のように三人で暮らそうとする彼女を重荷に感じたか、逃げ回った挙句に別れを告げて姿を消す。
ペルラはショックで赤ん坊と向き合えなくなり、頼りにしていた姉(ジョエリー・ムブンドゥ)との仲も険悪になる。
子供を家族としてしっかり育てる決意が一番強かったぺルラが、育児放棄してしまうのが見ていてつらい。
逃げた相手のダメ男ぶりは際立つものの、本作ではどのエピソードでも父親の存在感は驚くほど希薄で、頼りにならない。
養子に出すと決めるアリアンヌ
ダメ男は恋人なかりではない。アリアンヌ(ジャナイナ・アロワ・フォカン)は母(クリステル・コルニル)の男に虐待されてきた。
それなのに男とは別れたとか、酒もきっぱりとやめたとか、信じがたいことばかり言って、孫と娘と三人で暮らしたがる母親。
だがアリアンヌの決意は固く、貧乏暮らしの自分よりも、裕福な誰かに育ててもらったほうがこの子の為だと、養子に出す。

Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
この展開とその顛末は、ウェットな日本のドラマとは全く異質だった。同居を熱望する母親を見捨てたり、我が子を涙なしに手離すことなど考えられない。
重松清なら、このネタで泣かせる長編を一冊書いてくれるだろう。だがダルデンヌ兄弟は、あえてそこまで情緒に介入してこない。
何を恐れているのかジュリー
ジュリー(エルサ・ウーベン)はパートナーのディラン(ジェフ・ジェイコブス)に支えられて赤ん坊を育てている。だが彼女は誰かのことを極度に恐れ、託児所へのお迎えも忘れてパニックになる。
過去にDV男でも存在していたか、犯罪者なのかとも思ったが、どうやらこのカップルは薬物中毒から立ち直った二人なのだ。売人に会えばまたクスリに手を出してしまう。ジュリーはそれを恐れていたのだ。

Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
ここにきて、ようやく誠実そうな男性が登場したことは喜ばしいが、これまでの女性たちと違って幸福そうなジュリーだけに、これから遭遇しそうな災禍の予感にハラハラさせられる。
シングルマザーとなるナイマ
五人目の女性となるのはナイマ(サミア・ヒルミ)。
中絶を覚悟していたが、周囲の人たちの支えと励ましで、出産をする決意をし、ガーデンパーティの場で、みんなに祝福される。希望通りの鉄道関係の仕事にも就くことができ、シングルマザーとして子供を育てていこうとする。
ナイマに関するエピソードは他の四人に比べると少ないが、幸福な事例として挿入されたのかもしれない。

Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
全体を通じてみれば、社会的な弱者の目線から日常に直面している問題を掘り起こし、映画として問題提起をするダルデンヌ兄弟らしいアプローチは本作にも脈々と受け継がれている。
そこに抒情的なドラマの押しつけはなく、時には冷徹なほど淡々と出来事だけを並べていくスタイルは、感動ポルノで毒されてしまった私の感性には物足りなく感じてしまった感も否めないが、これこそが素材本来の味わいなのだろう。
ダルデンヌ兄弟らしいアプローチ
以下ネタバレになるが、この女性たちはどんなラストを迎えるか。
- 男と別れたぺルラは子供と生きようと決意し、そんな妹に、一緒に暮らそうと姉が迎え入れる。
- 再び薬物に手を出してしまったジュリーは、ディランの支えで立ち直り結婚する運びとなる。
- アリアンヌは、優しく裕福そうな夫婦に娘を養子に出し、その子の18歳の誕生日に向けて手紙を書いて手渡す。

Proximus – RTBF (Télévision belge) / Photo(C)Christine Plenus
特徴的なのはジェシカのケース。我が子を抱いて、捨てられた母の職場に乗り込んでいき、自分の悩みを吐露する。
ここで言い合いになってもつらいが、母子で泣いて抱き合うのも嘘くさくて興ざめだろう。ジュリーが母の写真を撮らせてもらい、ほんのわずかに心が触れ合うだけ。この匙加減がうまいなあ。
