『コート・スティーリング』
Caught Stealing
ダーレン・アロノフスキー監督がオースティン・バトラー主演で撮る巻き込まれ系痛快エンタメ。
公開:2026年 時間:107分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ダーレン・アロノフスキー
原作・脚本: チャーリー・ヒューストン
キャスト
ハンク・トンプソン:
オースティン・バトラー
ラス・マイナー: マット・スミス
イヴォンヌ: ゾーイ・クラヴィッツ
エリース・ロマン刑事: レジーナ・キング
コロラド:
ベニート・マルティネス・オカシオ
パーヴェル: ニキータ・ククシュキン
アレクセイ: ユーリ・コロコリニコフ
リーパ: リーヴ・シュライバー
シュムリー: ヴィンセント・ドノフリオ
勝手に評点:
(オススメ!)

コンテンツ
あらすじ
1998年、ニューヨーク。かつてメジャーリーグのドラフト候補になるほど野球で将来を嘱望されたハンク(オースティン・バトラー)。
運命のいたずらによって夢は潰え、今はバーテンダーとして働きながら恋人のイヴォンヌ(ゾーイ・クラヴィッツ)と穏やかな日々を送っていた。
ある日、変わり者の隣人ラス(マット・スミス)から突然ネコの世話を頼まれて引き受けたところ、マフィアたちが次々と彼の家に殴り込んでくる。
ハンクは、自分が裏社会の大金絡みの事件に巻き込まれたことを知る。
レビュー(まずはネタバレなし)
アロノフスキー監督の路線変更
『エルヴィス』以来オースティン・バトラーは大好きだけど、ダーレン・アロノフスキー監督の新作となると小難しそうで、相性イマイチなんじゃないか。
などと訳知り顔で敬遠していたら、意外と評判がよいので、あわてて劇場に観に行った。いや、まいった。面白いったらありゃしない。アロノフスキー監督にこういう境地があったとは恐れ入った。

プロ野球選手を嘱望されていたが、ある事故がきっかけで夢を諦めてバーテンダーをやっている主人公のハンク(オースティン・バトラー)。舞台はNYだが、熱心なジャイアンツファンだ(読売じゃないよ)。ちなみに”Caught Stealing”とは盗塁失敗という意味らしい。
このハンクが、アパートの隣人でモヒカン頭のラス(マット・スミス)から、飼い猫をしばらく預かってくれと強引に頼まれたのが運の尽き。
その直後にラスの留守宅を訪ねてきたロシア系のマフィアの凸凹コンビにボコボコにされるハンク。あとは次々に降りかかってくる災禍に、完膚なきままに打ちのめされるという、巻き込まれ系災難アクションもの。
1998年のニューヨーク
時代設定は1998年。地下鉄の駅のタイル壁に文字が書かれていくオープニングクレジット、そして地上に上がれば、背景にさりげなくそびえるワールドトレードセンターのツインタワー。ここまでのセンスが抜群で、つかみはOK。
◇
イケメンが切り盛りするマンハッタンの店なんて、ウォン・カーウァイ監督の『マイ・ブルーベリー・ナイツ』かよ。
なんて思っていると、閉店間際の店の窓に外から張り付いて胸をはだけるカノジョのイヴォンヌ(ゾーイ・クラヴィッツ)。お洒落な恋愛ドラマではなさそうだ。

狭いアパートの隣人には口うるさい中年男、そしてカバンに押し込まれた猫とくれば、『ティファニーで朝食を』を彷彿とさせるが、ドアの覗き穴から怖いマフィアが暴れている様子が見える展開はむしろ『レオン』に近いか。
まあともかく、「隣人は留守ですよ」などと言ってしまったことでハンクは腎臓破裂するほど蹴り込まれ、そこから悲劇は始まるのだ。
単調にさせない面白さ
ラスが麻薬絡みでネコババした大金を隠しており、その鍵を本人にも知らせずにハンクに渡した。その行方をロシアのマフィアたちが追いかけているという訳だが、ありきたりなマクガフィン探しという構造が新鮮にみえるのにはいくつか訳がある。
まず、そもそもどこに鍵が隠されていて、さらにそれがどこに紛れてしまったかという鍵のありかそのものの発想が秀逸(言えないけど)。
◇
更に、その鍵を血眼になって探している連中がロシア人マフィアだけでなく、多様な人種や職業の面々が絡み合ってきて、敵味方が入り乱れる相関関係が面白いのだ。

2000年間際のNYの町並の雰囲気も見事だし(伝説と化したキムズビデオの店も一瞬登場)、メッツのファンで溢れる球場前の駅や、『バレリーナ The World of John Wick』に比肩する派手なバーでの銃撃戦、ボロ車だからかえって臨場感のあるカーアクション。
どれも手が込んでいて、この手のアクション映画が陥りがちな、スタントアクションは凄いのだけど展開が単調で飽きてしまうということもない。
キャスティングについて
主人公ハンクを演じたオースティン・バトラーは、『ザ・バイクライダーズ』の暴走族っぽい雰囲気と『デューン砂の惑星』の鍛えた肉体美を持ちながら、けしてヒーローではない脆弱キャラなところが好感。

恋人イヴォンヌ役のゾーイ・クラヴィッツは『The Batman』のキャットウーマン、ラス役のマット・スミスは『モービウス』の悪役マイロが記憶に新しい。
◇
ロシアマフィアには、ピストル男のベニート・マルティネス・オカシオが『ブレットトレイン』の殺し屋で、凸凹コンビの小さい方のユーリ・コロコリニコフは、『テネット』のラストで活躍するマフィアだね。

凶悪だが憎めないユダヤ人のヒゲ面の双子は、ヴィンセント・ドノフリオが『デアデビル』、リーヴ・シュレイバーが『スパイダーバース』で偶然にも同じキングピンを演じているのは笑。
あとは女刑事役のレジーナ・キングか。この刑事が怪しそうなのはすぐに分かったが、全体を通じて一番の憎まれ役だったのは、この女刑事だったような気がする。

振り返ってみると、結構な高確率で登場人物が殺されているのに驚く。死者の頭数でいえば『ジョン・ウィック』シリーズの方が遥かに多いだろうが、「え、こいつも死んじゃうの?」という衝撃度からいえば、本作のほうが印象深い。
そういう状況でも、”Go Giants!”と騒ぎ、母子揃って熱狂的なジャイアンツファンだというネタを執拗にアピールするため、けして殺伐とした雰囲気にはならない。
正月映画っぽくはないが、エンタメ作品としては文句なしの快作だ。

レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
伏線の回収というか、前半で展開したフックがちゃんと後半で活きてくる点は、脚本がよくできていると感心した。
熱烈な野球ファンネタは、ハンクがエンディングでジャイアンツに興味を失うところに効いてくるし、腎臓を失って酒が飲めなくなることも、鍵の在処が分からなくなることと関連する。
イヴォンヌが持っていたピストル型のライターも、後半の犯人探しに役立つ(石井隆の『夜がまた来る』っぽいけど』。

更に、クルマの中で結束バンドで拘束されていたハンクが、シガーライターで難を逃れるという展開が、そこに繋がってくる自然な流れに感心した。
◇
最後にハンクの母親役でローラ・ダーンがカメオ出演するとは思わなかった。
エンドロールが縦横無尽に動くので読みにくいのなんのって。もうダーレン・アロノフスキー監督のやりたい放題の映画なのだが、不思議と収まりはいい。
