『ふつうの子ども』考察とネタバレ|それって大人の責任じゃないんですか

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『ふつうの子ども』

呉美保監督✕高田亮脚本の安心ユニットで贈る、子供たちのちょっとした暴走劇。

公開:2025年 時間:96分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:          呉美保
脚本:          高田亮


キャスト
上田唯士:       嶋田鉄太
三宅心愛:         瑠璃
橋本陽斗:       味元耀大
心愛の母:       瀧内公美
唯士の母:        蒼井優
唯士の父:       少路勇介
小林颯真:       大熊大貴
藤井メイ:       長峰くみ
浅井先生:       風間俊介

勝手に評点:3.5
 (一見の価値はあり)

(C)2025「ふつうの子ども」製作委員会

あらすじ

10歳の小学4年生・上田唯士ゆいし(嶋田鉄太)は両親と三人家族で、おなかが空いたらごはんを食べる、ごくふつうの男の子。最近は、同じクラスの三宅心愛ここあ(瑠璃)のことが気になっている。

環境問題に高い意識を持ち、大人にも物怖じせず声をあげる心愛に近づこうと奮闘する唯士だったが、彼女はクラスの問題児・橋本陽斗はると(味元耀大)にひかれている様子。

そんな三人が心愛の提案で始めた“環境活動”は、次第に親たちも巻き込む大騒動へと発展していく。

レビュー(まずはネタバレなし)

主人公の少年がヘルメットを被ったまま、隣で本を読む真面目そうな女の子にちょっかいを出すポスタービジュアル。

ビビッドな色合いが独特だが、ホントにタイトル通りの<ふつうの子ども>たちを描いた作品なのだと思っていた。

呉美保監督と脚本の高田亮の名前がなければ、素通りしていた作品だったろう。

だが、『そこのみにて光り輝く』『きみはいい子』という傑作を撮ってきたこのタッグは、またも観客の想像を超える作品を送り出してきた。

(C)2025「ふつうの子ども」製作委員会

序盤はいかにも普通の、元気な小学生たちの児童ドラマだ。主人公の小学4年生・上田唯士ゆいし(嶋田鉄太)が自宅マンションから、仲良しの友人たちと元気に登校。

いきものがかりの颯真そうま(大熊大貴)たちと、カナヘビの餌になるワラジムシ集め(ダンゴムシではない)に忙しい。

嶋田鉄太子役にして既に顔に哀愁が漂い、ため息がサマになる。彼が売れっ子なのはよく分かる。余人をもって代え難いキャラだもの。

担任の浅井先生には風間俊介『きみはいい子』で新米先生だった高良健吾よりは頼もしさがありそうだ。

(C)2025「ふつうの子ども」製作委員会

先生が児童たちに読ませる作文の中で、三宅心愛ここあ(瑠璃)の読む内容が尖っている。

地球温暖化の問題を放置しているのは大人たち。なぜ子供たちの世代のために努力もせず、この環境問題に見て見ぬふりをするのですか

舌鋒鋭く責められた先生はタジタジだ。

これはその場限りのトピックかと思ったら、何と環境問題はこの映画の本題だった。心愛が気になっている唯士は、彼女の気をひこうと、自分もカーボンニュートラルやSDGSの勉強を始める。

(C)2025「ふつうの子ども」製作委員会

努力の甲斐あって、気の強い心愛と徐々に親しくなる唯士だが、そこにクラスの問題児・橋本陽斗はると(味元耀大)が登場。子供たちはみなフリガナなしでは読めない名前だね。

いきなり机の上の本をぶちまける乱暴者は、心愛が最も嫌いそうなキャラなのに、なんと彼女は唯士に見せたことのない笑顔で陽斗に親し気に話しかける。

そうか、どの世代でも女はちょっと危険そうなイケメンに弱いのだ。唯士は小5にして、人生の悲哀を味わう。

大人の意識を変えなければ環境問題は解決しない。陽斗にけしかけられて、心愛は唯士も仲間に引き込み、三人で抗議行動を始める。

はじめは、「クルマに乗るな」とか「牛肉を食べるな」とかビラを貼る程度の運動だったが、次第にエスカレートしていく。

ビラ貼りならまだ可愛いものだが、肉屋にロケット花火を撃ち込んだり、クルマのマフラーにビラを詰め込んだりは、一歩間違うとヤバいことにもなりかねない。

そもそも、唯士は母(蒼井優)の言うことを素直に聞く、子供らしい少年だ。環境問題にだって関心は薄く、好きな子の言いなりでやっているようなもの。

それが、環境活動家のテロ行為のように過激化していくのだから、これは<ふつうの子ども>の映画ではないのだ。まんまと高田亮に騙されてしまった。

(C)2025「ふつうの子ども」製作委員会

常に環境問題を考えている心愛は、まるで活動家のグレタ・トゥンベリのようになっていく。映画では、林田茶愛美がグレタのような活動家の少女を演じ、心愛はそれに心酔していく。これは結構怖い。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

この映画には、子供たちの普通の世界と、そこから逸脱した異常な世界が共存している。

唯士が片想い中の心愛は、問題児イケメンの陽斗に気がある。好き嫌いが表情に溢れてしまうので、子供の世界は大人たちよりも残酷なのかも。

唯士を気に入って積極的にアプローチしてくるクラスメイトの藤井メイ(長峰くみ)もおり、天然キャラでかわいい娘だなと大人目線では思うのだが、唯士にはそんな感情はなさそうだ。

地球温暖化よりも、駄菓子屋で何買うかが問題。この辺の恋愛相関図は子供の普通の世界。

一方、異常なのは環境活動の方。大人の意識を変えるよりも、活動を目立たせることに関心が移った心愛。

犯行がエスカレートしても、足抜けできないように囲い込む心愛のやり口は、まるで過激派テロ組織のようである。腰が引けている男子二人を、心愛が奮い立たせる。

三人は近くで飼っている牛舎のゲートをこっそり壊して、牛を何頭か脱走させる。塾の帰りをバス停で待つ母親(蒼井優)は、まさか我が子が犯罪に手を染めているとは夢にも思わなかっただろう。

逃げた牛を避けようとしたクルマが事故を起こし、ドライバーが重傷を負う。ついに、子供の悪戯の域を越えてしまったわけだ。

(C)2025「ふつうの子ども」製作委員会

逃げ切れるわけもなく、あっという間に三人は先生に呼び出され、保護者たちも同席する中で、事実確認が行われる。

興味深いのはクラスの暴れん坊だった陽斗が、母親の前でずっと何も言えずに泣き崩れていること。ただの腰抜けの泣き虫マザコンだったのだ。

こういうヤツって、子供の頃にもいたなあ。犯罪がバレても強気のままの心愛や、真摯に反省する唯士の方が、余程頼もしく見える。

だが、この事実確認の場で一番目立っていたのは、心愛の母を演じる瀧内公美だろう。

(C)2025「ふつうの子ども」製作委員会

娘以上に切れ味抜群のこの母親は、教師たちを前に、心愛を吊るし上げ、ついでに、好きな子のために犯行に加担した唯士に感動さえする。

主犯の娘の母親でありながら、「ガキが何かやって大人の環境意識が変わるわけないだろ」と我が子をこき下ろし、正論をぶち上げて気炎を吐く。

終盤のみの出演ながら、美味しいところを全て持っていった瀧内公美。かつて、黒沢清監督の『岸辺の旅』ではワンシーンのみで圧倒的な印象を残した蒼井優だが、本作では瀧内公美がそれを再現したかのよう。

呉美保監督は子供たちの撮り方が手慣れているのか、子供たちの演技がナチュラルで鮮度がよいと感じる。題材は深刻だったかもしれないが、映画自体は明るく楽しい。

タイトルが平板すぎて印象に残らないのは、ちょっと気になるけれど。