『机のなかみ』今更レビュー|女子高生といえば𠮷田恵輔監督だった頃

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『机のなかみ』

女子高生ものといえばこの人、𠮷田恵輔監督の商業映画デビュー作

公開:2007年 時間:104分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:          𠮷田恵輔


キャスト
馬場元:        あべこうじ
望月望:         鈴木美生
藤巻凛:     坂本爽(内田章文)
水野多恵:        清浦夏実
棚橋美沙:       踊り子あり
望の父:        内藤トモヤ
三島先生:       三島ゆたか

勝手に評点:2.5
 (悪くはないけど)

あらすじ

大学受験を控える高校生・望(鈴木美生)の家庭教師を引きうけたフリーターの馬場(あべこうじ)

同棲中の彼女(踊り子あり)がいるにもかかわらず、望の可憐さにすっかり心を奪われてしまった馬場は、あの手この手で彼女の気を引こうとする。

一方、馬場のアタックをかわしながら猛勉強を続ける望には、ある秘密があった。

今更レビュー(ネタバレあり)

塚本晋也監督のもとで照明を担当しながら、『なま夏』『メリちん』と自主製作を撮ってきた𠮷田恵輔監督の商業映画デビュー作。

女子高生を教える家庭教師ものなのだが、そのパッケージにある制服姿の美少女の姿から、『なま夏』の流れを汲むちょっと変態系の入ったエロい作品だと思い込んでいたが、とんだ見込み違いだった。

女子高生を撮ることにはこだわりがあると監督自ら豪語するだけあって、女子高生がメインの映画には違いないのだが、エロ要素はあまりなく、むしろピュアな恋愛要素に重きが置かれている。これは意外だった。

やる気のない調子の良さそうな男が、家庭教師として採用され、生徒の部屋でレッスンを始める。まるで『家族ゲーム』(森田芳光監督)のような導入部分だ。先生が大学生ではなく、フリーターっぽい男というのも似ている。

だが、この家庭教師・馬場(あべこうじ)松田優作ほどの骨っぽさも謎めいた雰囲気もない、口先だけの軽そうな人物。一方、教え子の(鈴木美生)も、生意気な宮川一朗太とは大違いの、まじめで従順そうな可愛い女子高生である。

馬場には同棲している美沙(踊り子あり)がおり、ヒモ同然の暮らしぶりのようだが、彼女のことはほったらかしで、若く可愛い望に夢中になっていく。

望の気をひこうとレッスンの会話を必死に盛り上げたり、口実をみつけては望を外に連れ出したり、自分で作ったようなフリで美沙の作ったカレー鍋を持参したりと、涙ぐましい努力

おかげで少しずつ二人の距離は親密になるが、馬場のダメ男ぶりをみれば、二人が恋仲になることがまずないことは容易に想像できる。

なお、望の家は父子家庭なのか、母親は一切登場しない。娘を溺愛しているであろう父(𠮷田作品常連の内藤トモヤ)は、今でも娘と一緒に入浴しているのがキモい人物。

受験に失敗し落ち込んでいる望に、ここぞとばかりに付け入る馬場が、パンツを脱がすところまで成功したところで、娘の部屋にその父親が入ってきて愕然とする。ここでようやくタイトルが登場。

実は映画は二部構成になっていて、前半は馬場の目線で描かれている。なので、男の私から見ると、馬場の行動心理は手に取るように分かる。身に覚えがあると言っても良いくらいだ。

だが、後半は女子高生・望の目線で同じ物語が繰り返される。彼女の親友の多恵(清浦夏実)、そしてそのカレシである同級生の藤巻凛(坂本爽)

望は凛を秘かに想っており、相手も自分に好意を持っている様子。親友を裏切るような真似はしたくない望だが、多恵と凛の仲は険悪らしく、「私もう別れるから、望が付き合えばいいよ」としつこく勧められる始末。

「先生、私って魅力ないですかね?」「彼女がいるひとを好きになるのって、いけないことですかね?」と望が馬場に問いかけて有頂天にさせた言葉の真意がここで分かる。

この映画は役を演じた鈴木美生のフレッシュな魅力なしでは成立しないような作品だが、本作以降、彼女は女優としての映画出演はないようなのがちょっと残念。

馬場役のあべこうじはお笑い芸人としても活躍し、2010年にはR-1グランプリ優勝。𠮷田監督は次作『純喫茶磯辺』でも宮迫博之を主演に抜擢しており、演技のできる芸人を積極起用する人なのかも。

さて、女子高生の恋愛ものといえども、ヒリヒリするような実社会のつらさを注入するのが𠮷田監督らしさであり、望にも試練が与えられる。

多恵や凛と同じ大学を目指した望だが、一人だけ不合格。それだけならまだよいが、望に気を持たせる言動ばかりの凛は、ちゃっかり不仲なはずの多恵とも交際を続けており、むしろその事に傷ついた望は落ち込む。

そんな彼女の心の隙をつく馬場に唇を奪われ、されるがままに下着までおろされた望。そのタイミングに、彼女を心配して家にやってきた多恵と凛を父親が部屋に案内しドアを開けるのだ。まさに最悪の事態。

あわててスカートがめくれお尻が剥き出しになった望。わけわからず、父親は馬場を責め、みじめな望は性格の悪い親友・多恵の頬を叩く。

結局、望の凛への恋は成就しない。

馬場は冷たい態度で接していた同棲相手の美沙と別れる段になって、泣き崩れる美沙の前に自分も泣きだして、二人でやり直そうと抱き合う。だが、馬場はその場の感情に流されただけだろう。二人がうまくいくようには見えない。

大学に進んだ多恵と凛は、惰性で交際が続くのかもしれないが、望を傷つけたこの二人も、いつか破局を迎えるに違いない。

一人我が道を歩み、バッティングセンターでホームランを打つ、望の将来だけが前途洋々だ。爽やかなエンディングにクラムボンの曲が合う。でも、どの辺が<机のなかみ>だったのだろう。