『クレアのカメラ』
Claire’s Camera
ホン・サンス監督がキム・ミニに加えイザベル・ユペールの共演で撮るカンヌ舞台の短期集中映画
公開:2018年 時間:69分
製作国:韓国
スタッフ
監督・脚本: ホン・サンス
キャスト
マニ: キム・ミニ
クレア: イザベル・ユペール
ナム社長: チャン・ミヒ
ソ監督: チョン・ジニョン
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
映画会社で働くマニ(キム・ミニ)は、カンヌ国際映画祭への出張中に突然、社長(チャン・ミヒ)から解雇を言い渡されてしまう。
帰国日の変更もできずカンヌに残ることになった彼女は、ポラロイドカメラを手に観光中のクレア(イザベル・ユペール)と知り合う。
クレアは、自分がシャッターを切った相手は別人になるという自説を持つ不思議な女性だった。二人はマニが解雇を告げられたカフェを訪れ、当時と同じ構図で写真を撮るが…。
今更レビュー(ネタバレあり)
短期集中カンヌ撮影
ホン・サンス監督の作品は、観るたびに自分との相性の悪さを再確認することになる。本作も例外ではなかった。
ゲス不倫と騒がれたホン・サンス監督のミューズであるキム・ミニは、いつもながら自然体で美しい。だが意外だったのは、タイトル・ロールであるフランス人のクレアを演じたイザベル・ユぺールが、キム・ミニとの年齢差を全く感じさせない美しさで、存在感を放っていること。
カンヌを舞台にしている映画となれば、フランス映画界を代表する女優が韓国の小娘に負ける訳にはいかないってことか。
長回しとズームを多用したホン・サンス監督ならではの作品には、相変わらず飲食店での対面での語り合いが多い。
実際には綿密に台詞もアングルも練られているというが、素人目にはろくに台本もなく自然にアドリブで芝居を続けているようにみえる場面が続く。
◇
特に今回のセールスポイントは、2016年のカンヌ国際映画祭の開催期間中に、『エル ELLE』で参加のイザベル・ユペールと、『お嬢さん』で参加のキム・ミニを借り受け、短期集中で70分の映画に仕立てたこととなっている。
そんなお手軽さで出来上がった映画が軽快な芸術作とかなんとか言われて持て囃されるのは、シナリオや絵コンテを重視してしまう形式主義で頭の固い私には、どうにも釈然としない。これは理屈ではないだろう。
クリント・イーストウッドやウディ・アレンにさえも、「そんなに手軽に早撮りで傑作撮るなよ」と感じてしまうこともあるくらいなのに、ホン・サンスの「簡単・手軽に撮れそうな」作風が受け容れられるはずがない。
おまえはクビだ!
映画の序盤は結構期待させる展開だった。
仕事中にナム社長(チャン・ミヒ)から時間があるかと聞かれ、一緒にカフェに行くマニ(キム・ミニ)。そこで、突然、「あなたは正直じゃないから、一緒に仕事ができないわ」と解雇通知されてしまう。
ここは映画祭開催期間中のカンヌで、どうやら彼女の勤務先は映画会社と分かってくる。マニはソウルに戻る前に、出張先でクビになったらしい。
解雇理由も不明、解雇通知の期間も方法も適法とは思えないが、韓国ではこれがまかり通るのか。社長に言われたら仕方がないと、5年も勤めた割にはマニはあっさりと身を引く。
そして次のカンヌの砂浜のカットで、真相が分かってくる。社長には男女の仲になっているソ監督(チョン・ジニョン)がおり、こいつが酒に酔ってマニに手を出したことから、嫉妬心で社長が部下を切り捨てたのだ。
このあたりの人間関係を大した説明もなく、抽象的な会話シーンをいくつか繋ぎ合わせるだけで示すホン・サンス監督の手腕はさすが。
◇
だが、この映画のキモである、パリ在住の音楽教師クレア(イザベル・ユペール)が登場することで、映画的には盛り上がるのだが、話の内容としては珍妙になる。
シャッターを切れば別人に
クレアは旅行先のカンヌで次々に会う人をカメラに収める。彼女の持論は、「私がシャッターを切った相手は、その後に別人になる」だ。
そんなクレアが、まずマニに出会い、次にはカフェで監督の隣に座り親しくなり、その後に監督が連れてきた社長にも紹介される。
クレアは三人をそれぞれポラロイドカメラで撮り、現像写真をその場で手渡す。その後、確かにみな、それまでとは異なった行動を見せる。別人になったということなのかもしれない。
ただ、それは明確に描かれている訳ではなく、クレアに特別な力があるようにも見えない。別人とこじつけることも可能な展開ではあるが、それだけで映画を成立させるほどの惹きつける力はない。
だから私には中途半端な映画に思えた。カンヌの映画祭期間中という限られた条件の映画で70分の短さだから、そこは仕方ないという寛容さは持ち合わせていない。
◇
映画の流れとしては、クレアがビルの屋上でフルメイクのマニをみかけて写真を撮り、その後に監督や社長と出会うという順序になっている。
だが、途中に登場するクレアとマニが浜辺で出会い言葉を交わすシーンが初対面のようで、どうにも話が噛み合っていないように思えた。屋上で撮った写真は、単に隠し撮りだったのかもしれない。
ホン・サンス監督作品に登場する中年男は大抵クズだが、本作のソ監督もその流れを汲んでいる。
若い女、それもキム・ミニに手を出す老監督というキャラクターは、『夜の浜辺でひとり』でもそうだったように、実生活で彼女との不倫に走った監督本人の自虐ネタなのだろう。
そのソ監督に「仕事の関係を続けたいから、男女の仲は終わりにしよう」と言われるも納得できないナム社長は、私的な理由で早々にマニを解雇したくせに、最後には心変わりしたのか、彼女に優しい言葉をかけに来る。
これが<クレアのカメラ>効果ってことか。ラストはどうなるのかと思えば、マニがカンヌの事務所で荷造りしているシーンで唐突に幕を閉じる。
荷物の中身や梱包方法からみても、マニの私物ではなく映画会社の出張終了と思われ、つまり彼女は解雇を免れたということなのだろう。このエンディングでスッキリとした気持ちになれる観客がどれほどいるのかな。