『殺人の追憶』
살인의 추억
ポン・ジュノ監督がソン・ガンホ主演で実在の連続殺人事件をモデルに描いたサスペンス。
公開:2003 年 時間:130分
製作国:韓国
スタッフ 監督・脚本: ポン・ジュノ 脚本: シム・ソンボ キャスト パク・トゥマン刑事: ソン・ガンホ ソ・テユン刑事: キム・サンギョン チョ・ヨング刑事: キム・レハ ペク・グァンホ: パク・ノシク パク・ヒョンギュ: パク・ヘイル チョ・ビョンスン: リュ・テホ シン・ドンチョル課長: ソン・ジェホ ク・ヒボン課長: ピョン・ヒボン クォン・グィオク婦警: コ・ソヒ カク・ソリョン: チョン・ミソン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
1986年、ソウル近郊の農村で、同じ手口による若い女性の惨殺事件が連続して発生。
地元の刑事パク・トゥマン(ソン・ガンホ)とソウル市警から派遣された刑事ソ・テユン(キム・サンギョン)は対立しながらも捜査を続け、有力な容疑者を捕らえるのだが。
今更レビュー(まずはネタバレなし)
農業都市でおきた連続殺人事件
『パラサイト 半地下の家族』でカンヌのパルムドールとアカデミー賞作品賞を獲得し、一世を風靡したポン・ジュノ監督が、長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』(2000)の次に撮った刑事ドラマ。
公開以来、実に20年ぶりに観たが、手作り感のあった一作目とは大きく異なる堂々のサスペンス。面白さは色褪せていない。
主人公の刑事役にソン・ガンホ。時期的には『復讐者に憐れみを』(2002、パク・チャヌク監督)の翌年か。本作以降、ソン・ガンホはポン・ジュノ作品に多く起用されることとなる。
◇
1986年10月、農村地帯華城市の用水路から女性の遺体が発見される。見渡す限りの田畑。用水路に群がる野次馬の子供たちを追い払い、現場を検証する地元警察の刑事パク・トゥマン(ソン・ガンホ)とチョ・ヨング(キム・レハ)。
どうみても優秀な刑事にはみえない二人。手あたり次第、マヌケそうな容疑者を捕まえては取り調べをする。殴る蹴るは当たり前、拷問による自白強要も日常茶飯事といった彼らのやり方は、上司のク・ヒボン課長(ピョン・ヒボン)が諫めても治まらない。
◇
やがて二人目の女性被害者の遺体が発見される。ぬかるんだ土の残された犯人の足跡の上を、農家のトラクターが通過していく。怒り狂うパク。この町では、犯行現場の保存など誰も関心がないのだ。
遺体は後ろ手に拘束され、顔には下着がかぶせられ、同じ手口。パクとチョは街の噂から、知能障害のある青年グァンホ(パク・ノシク)を捕まえ、現場の足跡を偽装して犯人に仕立て上げる。
そんな折に、ソウルから捜査のために赴任してきたのがソ・テユン刑事(キム・サンギョン)。見るからに沈着冷静。
「これまでの犯行は雨の日に赤い服の女が襲われている。そしてまだ遺体はあがっていないが、失踪中の該当者女性がもうひとりいます」
できるな、ソ刑事!優秀な彼は、グァンホが犯人になり得ないポイントも指摘し、パク刑事たちと溝を深めていく。
一風変わったバディ・ムービー
パク刑事にはすでに暴力だけが取り柄の単細胞チョ刑事という相棒がいるのだが、まったくキャラの異なる都会のイケメン刑事がやってくることで、物語が転がり出す。
犯行のたびにFMラジオにリクエストされる曲があることを女性警官(コ・ソヒ)が指摘し、その方面で捜査を進めるソ刑事。一方は強姦現場に陰毛が落ちていないことから、無毛症の男を銭湯で探しだす愚かなパク刑事。
連続殺人事件の捜査ものでありながら、意外なほどに笑いの要素が入っている。
だが、それに油断していると、突如、雨に煙る農村都市で起きる事件や遺体の寒々しいカットが現れたり、容疑者を追い詰めかけては逃げられるという白熱のシーンがあったりと、サスペンスタッチの本格派刑事ドラマであることを、再認識する羽目になる。
普段はいがみ合っている相性の悪い刑事二人が、いざ事件が起きると一時休戦して力を合わせるパターンのバディもの刑事ドラマは多い。本作のその類かと思ったが、そう単純ではないところがユニークだ。
パク刑事とソ刑事は、けして歯の浮くような台詞を言い合い、手を組んだりはしない。だが、捜査が進むにつれ、パクはまともな刑事魂を持ち始めたようにみえ、一方のソ刑事は冷静さを失い野獣のように変貌していく。この変化が本作の白眉だ。
今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
移り変わる容疑者と大本命
真昼の平和な田園風景のなかで、用水路の下に転がされた遺体。ここから捜査は始まり、雨の夕闇の向こうにそびえるセメント工場、誰でも近寄れるような列車の線路とトンネル。
町全体をひとつの舞台にみたてて、映画の不気味な雰囲気を盛り上げていくポン・ジュノ監督の手法は、この当時からすでに確立されている。
それにしても、見渡す限り誰もいないような薄暗い夜道を、若い女性や女子中学生が平然と一人歩きしているのは、当たり前の風景なのか。親世代としては不安がつのる。
・初めにパク刑事たちに目を付けられ、逆さ吊りで自白させられた知能障害のグァンホ(パク・ノシク)。
・現場近くを張り込んでいると夜に現れて女性下着を置いて自慰行為を始める、妻子持ちのチョ・ビョンスン(リュ・テホ)。
・そして本命、ラジオにリクエストはがきを送っていた工場勤務の美青年パク・ヒョンギュ(パク・ヘイル)。
容疑者が次々と入れ替わる。さすがにグァンホが真犯人はないだろう(とはいえ意外な事実は終盤に分かる)。
逃亡してセメント工場の労働者にまぎれたチョ・ビョンスンは怪しかったが、病弱な妻を介護し、狭い家には子供たち。こんな場所で自慰に走るのがせめてもの息抜きというのが、何とも哀れ。
そして、知的なふるまいと品の良さそうなルックスのパク・ヒョンギュが、どうみても大本命ということになる。とはいえ、てがかりは被害者の衣服にあった精液のDNA鑑定のみ。しかも鑑定するには米国に試料を送り、返信を待つしかない。
さて、結果はどうなる。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の傑作『プリズナーズ』(2013)を例に出さずとも、容疑者が入れ替わるドラマでは、大本命の当選確率は低いものだが…。
華城連続殺人事件
ところで、公開時に観た時には知らなかったのだが、本作は1986年から5年の間に10人の女性が殺害され、犯人未逮捕のまま控訴時効が成立した、韓国犯罪史上でも有名な未解決事件「華城連続殺人事件」がベースになっている。
韓国人をはじめ、それを知っている多くの観客には、本作のエンディングは納得のいくものになっているだろう。私は当時、予備知識なしで臨んだために、モヤモヤ感の残るラストシーンとなっていた。
改めて本作を観ると、刑事から営業マンに転職したパク刑事が仕事の途中で久々にはじめの事件現場に立ち寄る。そこで気まぐれに用水路の中を覗いていると、少女がやってきて、先週も男の人が「昔ここでしたことを思い出してね」とそこを見ていたと語る。
当然、元ネタが未解決事件であることを念頭においたシーンだが、ポン・ジュノ監督は、パクがこちら側を睨んで終わるラストカットを選んだ。劇場犯罪型の自己顕示欲の強い真犯人なら、この映画を観に来るに違いないと。
2019年、事件は時効になった後だが、犯人は別件で懲役刑を受けている男だと判明した。この男は、やはり本作を観ていたそうだ。
パク刑事の眼光は、この実在する猟奇殺人犯にも突き刺さったのだ。そう思うと、本作のラストカットには、監督の慧眼に鳥肌が立つ。