『バスターのバラード』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『バスターのバラード』考察とネタバレ|陽気なガンマンから早とちり娘まで

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『バスターのバラード』
The Ballad of Buster Scruggs

コーエン兄弟が贈る、アメリカ開拓者の西部劇アンソロジー

公開:2018 年  時間:138分  
製作国:アメリカ
 

スタッフ 
監督・脚本:    ジョエル・コーエン
          イーサン・コーエン
キャスト
<バスターのバラード>
バスター: ティム・ブレイク・ネルソン
キッド:     ウィリアム・ワトソン
カーリー:    クランシー・ブラウン
<アルゴドネス付近>
カウボーイ:   ジェームズ・フランコ
銀行員:     スティーヴン・ルート
<食事券>
老いた興行師:   リーアム・ニーソン
ハリソン:      ハリー・メリング
<金の谷>
老山師:        トム・ウェイツ
若い男:        サム・ディロン
<早とちりの娘>
アリス・ロングボウ:  ゾーイ・カザン
ビリー・ナップ:     ビル・ヘック
アーサー:  グラインジャー・ハインズ
<遺骸>
老婦人:       タイン・デイリー
アイルランド人:ブレンダン・グリーソン
イギリス人:   ジョンジョ・オニール
フランス人:    ソウル・ルビネック
猟師:        チェルシー・ロス

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C)Netflix. All Rights Reserved.

あらすじ

アメリカ西部を駆け抜けた無法者や開拓者たちの6つの冒険物語。各エピソードのあらすじはレビュー内に記載。

レビュー(ネタバレあり)

ジョエル&イーサン・コーエン兄弟が製作・監督・脚本を手がけNETFLIXで撮った西部劇のアンソロジー。表題作をはじめ6篇の短編で構成されるが、それぞれに連関性はなく、独立した内容となっている。

各話に濃淡はあるが、どれもこれもコーエン兄弟の好きそうなシニカルなブラック・ユーモアに富んだ内容で、愉快痛快に終わるものは一つとしてない。

どんよりとした気分になること請け合いだが、そこもまた、いや、それこそがコーエン兄弟の作品の楽しみ方だと達観している方には、むしろ好ましいのかもしれない。通好みなキャスティングもお楽しみのひとつといえる。

『バスターのバラードと他のアメリカ開拓者の物語』という題名の古い本を開くと、物語が始まる。

<バスターのバラード>

「”手を見たならそれでやれ”と鼻であしらった」

バスター・スクラッグス(ティム・ブレイク・ネルソン)が白馬のダンに乗って旅をしている。歌うことが好きな陽気なカウボーイだが、生粋の無法者。彼は、道中のバーで店の客と口論になり、店の客とオーナーをいとも簡単に銃殺する。

次の町の酒場では、バスターは入れ違いで出て行った客の代わりに、ポーカーに参加するが、先客の手札があまりにも悪かったため、ゲームから抜けようし、カーリー・ジョー(クランシー・ブラウン)とトラブルになる。ここで冒頭の台詞が登場。

コーエン兄弟『オー・ブラザー!』(2000)で注目されたティム・ブレイク・ネルソンが演じる、歌が好きで陽気なガンマンのバスターが不気味な魅力を発する。

早撃ちで滅法強いバスターは果たして善人キャラなのか。カーリーを意表を突く手で仕留めるところは見事だったが、そもそも誰彼構わず撃ち殺しまくる主人公に安静な結末が待っているはずがない。

兄の仇と現れた弟や、バスターを倒して名を上げたい流れ者と決闘するのはいかにも西部劇だが、あまりにあっさりと終わる結末に、しばし呆気にとられる。こんな感じで先が続いていくのか。

<アルゴドネス付近>

「”ヘタクソ”と老人は叫んだ」

若いカウボーイ(ジェームズ・フランコ)が、草原に孤立する銀行へ強盗に入ると、そこには老人の銀行員(スティーヴン・ルート)が一人いるだけ。

銃を突きつけるが、老人が「ヘタクソ!」と反撃、あっさり倒されてしまう。目が覚めると、自分の絞首刑の寸前。だがそこに、コマンチ族が到来し、保安官たちを皆殺しにする。

殺されそうになり、寸前で神風が吹いて助かるカウボーイのジェームズ・フランコもよいが、このエピソードでのお気に入りは気骨ある老銀行員。

行員も客もいない銀行を単身守っているだけあって、窓口の足元にはライフル銃が複数常に装備されているナンセンスな面白味。しかもフライパンの防弾ジョッキで勇敢にも強盗を返り討ちにするとは。

<食事券>

「慈悲は強いられることなく、優しい雨のように天から降り注ぐ」

老いた興行師(リーアム・ニーソン)と四肢が欠損した青年ハリソン(ハリー・メリング)が巡業をしている。ハリソンはカインとアベルやシェイクスピアなどを暗唱し、観客からおひねりをもらう。

やがて、娯楽の少ない小さな町を回るほどに利益は減っていく。興行師は別の興行師から計算ができる鶏を手に入れる。

これはマザーグースのような寓話じみた話だ。『ハリー・ポッター』でお馴染みのハリー・メリングが四肢のない身体で舞台で劇を語るシーンが暗鬱な印象だが、日に日に稼ぎが減っていくことで更に暗さに拍車をかける。

ついには計算ができる鶏などというインチキな演し物にまんまと騙されて、ハリソンと訣別する興行師の間抜けさももの悲しい。

<金の谷>

「大地のどこにも、人の気配や細工は見当たらなかった」

人里離れた山の奥で一人の老山師(トム・ウェイツ)が苦労のすえに、ついに鉱床を掘り当てる。だが、背後から若い男に撃たれる。若い男が金を盗むため穴に入ると、山師は起き上がり若い男を返り討ちにする。

これは大自然の下での金脈探しのプロセスは面白いが、話としてはどこにオチがあるのか正直よくわからない。散々苦労させたあとに、獲物を横取りしようとした若造を懲らしめた話なのは分かったが、So what?といいたくなる終わり方。

<早とちりの娘>

「アーサーはビリー・ナップに合わせる顔がなかった」

アリス・ロングボウ(ゾーイ・カザン)と兄のギルバートは新天地を求め、オレゴンへ向かってキャラバンと旅をする。ところが、旅の最中にギルバートがコレラで死亡。

アリスはキャラバンの護衛のビリー(ビル・ヘック)アーサー(グラインジャー・ハインズ)に面倒を見てもらうようになる。ビリーとアリスは惹かれ合うようになり、ついに婚約する。

ようやく若い娘が主人公のエピソード。はじめは信用ならない連中かと思われたビリーとアーサーが、なかなか頼りになる。

ただし、基本的にはハッピーエンドのないこの映画、アリスも例外ではない。アーサーと二人でいるところをネイティヴ・アメリカンに囲まれ、「いざとなったら強姦され殺される前に自害しろ」と、銃を渡されるアリス。

ひとりで大勢と抗戦するアーサーは、隙をつかれて敵に殺されたかと思いきや、それは死んだふりで最後に残った敵を倒す。だが、早とちりしたアリスは、既に言いつけを守ってしまっていた。

なるほど、確かにこれでは、アーサーはビリーに合わせる顔がない。

<遺骸>

「聞こえなかったのか、御者は減速しなかった」

フォートモーガンに向かう馬車に老婦人(タイン・デイリー)猟師(チェルシー・ロス)フランス人の男(ソウル・ルビネック)アイルランド人の男(ブレンダン・グリーソン)イギリス人の男(ジョンジョ・オニール)の二人組の5人が乗っている。

アイルランド人とイギリス人は馬車の上に死体を載せている。一体どんな仕事なのか。馬車の中での会話劇が主体で、あまり鮮やかなオチがなかったように思うが、本エピソードで映画は終わる。

冒頭にも申し上げたが、このコーエン兄弟らしい不条理なブラック・ユーモアを好むひとには、本作は相性がよいのだろう。世間的な評価も悪くないし、ベネチアで脚本賞も獲っている。

でも、私にはイマイチだった。好きな話とダメな話で半々くらい。やはりアンソロジーの映画って難しいな。