『ダンシング・ヒーロー』
Strictly Ballroom
バズ・ラーマン監督のデビュー作。レッド・カーペット三部作はここから始まった。社交ダンスの熱き戦い。
公開:1992 年 時間:94分
製作国:オーストラリア
スタッフ 監督・脚本: バズ・ラーマン キャスト スコット・ヘイスティングス: ポール・マーキュリオ フラン: タラ・モーリス バリー・ファイフ会長: ビル・ハンター シャーリー・ヘイスティングス: パット・トムソン ダグ・ヘイスティングス:バリー・オットー レス・ケンドール: ピーター・ホワイトフォード リズ・ホルト: ジーヤ・カリディス ケン・レイリングス: ジョン・ハナン ティナ・スパークル: ソニア・クルーガー ウェイン・バーンズ: ピップ・ミューシン ヴァネッサ・クローニン:レオニー・ペイジ リコ: アントニオ・ヴァルガス
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
スコット(ポール・マーキュリオ)は社交ダンスの若きチャンピオン。だが、彼は大会で規定以外のステップに挑み審査員を怒らせ、優勝をライバルのケン(ジョン・ハナン)に譲ってしまう。
ダンスのパートナーのリズ(ジーヤ・カリディス)も彼を見放し去っていくが、そこに野暮ったいメガネをかけたダンス初心者のフラン(タラ・モーリス)がパートナーを申し出る。
3週間後に迫った大会を前に、新たなペアは猛特訓を始めるが…。
今更レビュー(ネタバレあり)
赤の時代ここに始まる
先日劇場で観た『エルヴィス』がなかなか良かったので、これまで縁がなかったバズ・ラーマン監督の過去作品を追いかけてみたくなった。
彼の監督デビュー作である本作は、『ロミオ+ジュリエット』、『ムーラン・ルージュ』とともに<レッドカーテン・トリロジー>と称される代表作のひとつ。情熱的で型破りな社交ダンス界の若き才能の挫折、そして再起と恋を描いた作品。
◇
社交ダンス界のスポ根ものともいえ、いかにもベタな展開、更に1992年の作品とあってはさすがに古臭さと画質の荒さは否めないが、それを差し引いても、意外と盛り上がれる。それに、この手の話はベタな展開でいい、いや、そうでなくては困るのだ。
日本においては『ダンシング・ヒーロー』という邦題で、荻野目洋子のヒット曲にあやかろうという魂胆ミエミエだが、原題の” Strictly Ballroom” では、確かに売れそうにない。
バズ・ラーマン監督自身による戯曲「Strictly Ballroom」がもとになって映画が作られている。
主人公の若きダンスの天才スコット・ヘイスティングスを演じたポール・マーキュリオ。そして、初心者ながらもダンスへの情熱は誰にも負けない、彼のパートナーとなるフラン役のタラ・モーリス。ふたりとも、本作を舞台で演じているだけあって、演技もダンスもお手の物。
規定違反のステップが波紋を呼ぶ
冒頭、スコットの母親シャーリー(パット・トムソン)が過去を振り返り嘆く。やれ、悲劇が起きたとか、会長を怒らせたとか悲痛な顔で語るものだから、てっきり息子が大会のトラブルかアクシデントで殺されたのかと思ったが、それほど過激な話ではない。
◇
回想シーンでは、トップダンサーが集う地区大会。スコットはリズ(ジーヤ・カリディス)と組んで出場し、順調に踊っていたが、優勝候補のベテラン、ケンとパムのコンビに、ダンスを妨害されてしまう。
負けじとスコットはオリジナルのステップで対抗し、派手なパフォーマンスに観客は熱狂する。だが、規定違反で栄冠はケンたちに。
優勝を逃しただけならまだしも、自分勝手にルールを無視するスコットに愛想を尽かしたリズは、ケン(ジョン・ハナン)の新たなパートナーへと鞍替えする。ケンと組んでいたパムが自動車事故で両脚を骨折したのだ。
◇
パンパシフィックの大会優勝を狙っているスコットは絶望する。だが、そんな彼の前に現れたのは、同じダンススクールに通う、野暮ったいメガネをかけた初心者のフラン(タラ・モーリス)。大会まで3週間しかないというのに、身の程知らずにもスコットのパートナーを志望する。
「ダンス二年目の初心者が、いきなり大会に出られるわけないだろう!」
「ルール違反なの?あなたも規定違反のステップ踏んで、ルール無視したじゃない」
出来すぎた話でもいいじゃない
普段はおとなしそうなフランだが、ダンスとなると人が変わったように攻撃的になる。彼女の迫力に押されて、試しに踊ってみるスコットだが、そこから練習に熱が入り出す。バックに流れるのは“Time after time”。
いくら練習熱心とはいえ、ほぼ初心者のメガネっ娘フランがいきなりパートナーになって勝ち進んだら、さすがに出来過ぎた話だろう。
◇
だが、ダンススクールが主催するトライアウトに応募する女性はみな冴えず、一方、日々フランと練習するうちにスコットは、彼女のラテンを採り入れた新ステップに刺激を受け始める。
ダンススクールの屋上で、コカ・コーラの大きな看板をバックに、干された洗濯物の下で踊る二人が絵になる。
「フラン、メガネを外しても踊れるのなら、取ってみたらどう?」
はいはい、定番の<メガネ女子がコンタクトにしたらいい女だった>というヤツだ。実際、大会の日のフランは、メイクもバッチリ、衣装も目を惹き、はじめの登場とは見違えるようになっている。
自分のダンスをするんだ
このまま、二人は大会に出場して勝利して終わるのだろうと思ってしまいそうだが、それでは映画にならない。
まずは最初の障害。スコットに、願ってもないパートナー候補が現れる。元チャンピオンのティナ(ソニア・クルーガー)は、パートナーの引退で新たな相手を模索していた。
スコットがフランと練習していることを知らない、母シャーリーや、スクールの校長レス・ケンドール(ピーター・ホワイトフォード)らは、ティナの登場に歓喜する。
突然の仕打ちに、フランは傷つき去っていく。そして、スコットは気づく。ティナと組むことは、自分のダンスや新しいステップは踏むことをあきらめ、このまま規定に縛られ続けるということだ。
「フランはどこだ。俺は自分のダンスをするんだ」
フランの家はラテン系一家。彼女を連れ戻しに家に行くと、父親リコ(アントニオ・ヴァルガス)にどやされる。
「毎晩フランとダンスレッスンだと? お前ダンサーか。なら、パソドブレ踊れんのかよ」
なんて強引な会話運びなんだ。とにかく、周囲のラテン系住民たちに、そのパソドブレなるものを踊って見せないと収拾がつかない。スコットは、想像でそれっぽいものを踊って見せる。
スコットとフランのダンスもキレがあり、てっきりこれで無罪放免されると思っていたが、どうやら不合格だったらしい。リコは、フランの祖母と組んでパソドブレの手本を披露する(この男も、踊れるのか)。
知らなかったが、パソドブレとはスペインの闘牛とフラメンコをイメージしたダンスらしい。スコットはこのダンスに魅せられてしまい、一方リコたちも、すっかり歓迎ムードに。フランをたぶらかす若造扱いから、あっという間に家族の一員だ。これぞ音楽の力。
両親の隠された過去
フランの家族には理解が得られ、これで大会出場かと思いきや、スコットの方の家族問題が発生。
今まで新ステップを禁止してスコット封じばかりしてきた諸悪の根源バリー・ファイフ会長(ビル・ハンター)が驚くべき事実を告げる。
ここからネタバレになります。
◇
スコットの母シャーリーは、スクールのレス校長と組んで、かつてダンスで一世を風靡した。だが、本当にダンスの天才だったのは、スコットの父で今はうだつの上がらないダグ(バリー・オットー)だった。
「ダグもお前同様に自分勝手なダンスをすることで、身を滅ぼした。だから、これ以上父親を傷つけぬよう、おとなしく規定に従って踊れ」
この作品はスポ根感動ものだと思っているのだが、なぜか時おりコメディになる。会長がスコットの両親の昔話を語るシーンも深刻な場面のはずなのに、ダグがダンス芸人のようにステージで踊る様子は、コントのようだ。
恐れながら生きる人生
そしてついに迎えた大会の決勝戦。父を傷つけぬよう、元パートナーのリズと組むことにしたスコット(ケンはティナに鞍替えし、リズは出戻ったのだ)。
「恐れながら生きることにしたのね」とフランに捨て台詞を吐かれるスコット。
恐れながら生きれば、半分の人生しかエンジョイできない。自分を欺いて、自由にステップを踏めない人生を選ぼうとしているスコット。
だが、最後にきて、父親ダグが息子に毅然とした態度を見せる。父は、傷つくことなど恐れていなかった。スコットはようやくフランを相手にえらび、パソドブレから着想を得た新ステップで会場を沸かせる。
気がつけば、最後には憎まれ役は会長だけになっており、残りはみんな一緒に盛り上がる興奮状態で幕を閉じる。観客まで一気にダンスフロアに流れ込む。ついにダグまで妻シャーリーの手をとり、”Shall we dance?”
これぞ大団円。Shall weっていうフレーズ、米国人が使うの生で聞いたことないけど、danceだけは特別なのかね? あ、本作の舞台はシドニーか。