『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
Spider-Man: Across the Spider-Vers
前作以上に大量発生のクモ男たち。運命なんてブッつぶせ。
公開:2023年 時間:140分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ホアキン・ドス・サントス ケンプ・パワーズ ジャスティン・K・トンプソン 声優 <スパイダーマン> マイルス・モラレス: シャメイク・ムーア(小野賢章) ピーター・B・パーカー: ジェイク・ジョンソン(宮野真守) グウェン・ステイシー: ヘイリー・スタインフェルド(悠木碧) ミゲル・オハラ: オスカー・アイザック(関智一) ジェシカ・ドリュー: イッサ・レイ(田村睦心) ホービー・ブラウン: ダニエル・カルーヤ(木村昴) パヴィトラ・プラバカール: カラン・ソーニ(佐藤せつじ) ベン・ライリー: アンディ・サムバーグ(江口拓也) マーゴ・ケス: アマンドラ・ステンバーグ(高垣彩陽) スペクタキュラー: ジョシュ・キートン(猪野学) インソムニアック: ユーリ・ローエンタール(興津和幸) <その他> ジェファーソン・デイヴィス: ブライアン・タイリ・ヘンリー(乃村健次) リオ・モラレス: ルナ・ローレン・ベレス(小島幸子) ジョージ・ステイシー: シェー・ウィガム(上田燿司) リザード:ジャック・クエイド(岩中睦樹) スポット: ジェイソン・シュワルツマン(鳥海浩輔) ヴァルチャー:ヨマ・タコンヌ(飛田展男)
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
マルチバースを自由に移動できるようになった世界。マイルスは久々に姿を現したグウェンに導かれ、あるユニバースを訪れる。
そこにはスパイダーマン2099ことミゲル・オハラやピーター・B・パーカーら、さまざまなユニバースから選ばれたスパイダーマンたちが集結していた。
愛する人と世界を同時に救うことができないというスパイダーマンの哀しき運命を突きつけられるマイルスだったが、それでも両方を守り抜くことを誓う。
しかし運命を変えようとする彼の前に無数のスパイダーマンが立ちはだかり、スパイダーマン同士の戦いが幕を開ける。
レビュー(ネタバレあり)
スパイダー・ソサエティ
マルチバースの世界観とアニメーション表現の多様性に大いに驚かされた前作『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編。
今回は冒頭、スパイダーウーマンのグウェンからの「前回までのあらすじ」的なものが紹介されるのだが、観ていない者には到底理解不能の簡単なおさらいレベル。まあ、本作のイケイケの乗りならそれでよい。
◇
まずはグッゲンハイム美術館を舞台に、時空を越えてお出ましした怪鳥バルチャーとの対戦。前作に続き、ヴィランは往年の名選手が登場するスタイルを踏襲するようだ。
そこにグウェンを救うべく現れたのがミゲル・オハラなる人物。各ユニバースから最強のスパイダーマンを結集させたスパイダー・ソサエティの創設者。
コスチュームはそれらしくないが、彼もスパイダーマンの一人。そしてカーリーヘアの妊婦スパイダー、ジェシカ・ドリューまで参戦。どうやら、本作はこのスパイダー・ソサエティという集団を軸に物語が進んでいくようだ。
前作でグウェンらの仲間たちをそれぞれの世界に戻し、元の生活に戻ったマイルスは、勿論本作でも主人公。
二度と会うことはないはずだったが、グウェンとマイルスは似た境遇同士で互いを想い合う。そしてある日、ついにグウェンがマイルスのもとに現れる。
彼女はソサエティの任務の一環としてこの世界に舞い戻ってきたのだが、自分もメンバーに入りたいというマイルスをソサエティは受け入れない。こうして、ソサエティとマイルスの関係性がよく分からないまま、話が進んでいく。
今回の新クモたち
MCUに先駆けてマルチバースの概念を映画に取り入れ、しかも多種多様なスパイダーマンたちを見事にキャラ立ちさせてアニメ表現で自由に遊びまくった前作に比べると、さすがに続編は分が悪い。
同じ路線を進んではいるが、それではサプライズがないのだ。
インド系の楽観ヒーローのパヴィトル・プラパカールだとか、パンクなギター侍のホービー・ブラウン(キカイダーかよ)、あるいはデビルマンの敵キャラみたいなベン・ライリーなど。
今回も、それなりに魅力ある新キャラは出てくる。前作にもタツノコプロ系キャラがいたが、本作ではインド系のパヴィトル・プラパカールのけん玉のような武器に、ヤッターマン1号が思い出され、面白い。
だが、どうも前作に比べると共感度が弱い。あまりにスパイダーマンが多すぎて、新鮮味が薄れてきたこともある。
前作で残念に思ったのはラスボスのキングピンのキャラデザインだったが、本作では元科学者で黒い次元間ポータルを操るスポットがメインヴィラン。
まったく怖そうではないのだが、痩せぎすの体躯といかり肩が、巨神兵やらエヴァの使徒あたりに類似性を感じさせ、不気味さは良く出ている。
アニメ表現は今回も攻めてる
アニメーションの表現は今回もまた見事なものだ。再会したマイルスとグウェンが空中ブランコのようにマンハッタンのビル街を縦横無尽に移動する場面の高揚感。
メインのキャラが変わるたびに、アニメの作画や処理の風合いをスパッと変えていく手法も、前作から更にレベルアップした感がある。
◇
グウェンがメインの際の、彼女の心情を反映したかのような背景処理は見事だし、2Dアニメ全開の平べったいスパイダーマンと立体感溢れる最新型との共存も面白い。
ホービーがギターを弾くと動き出すペーパーアニメ調の演出や、ムンバイ系キャラの登場で動きまでインド映画っぽくなるのも楽しいではないか。
レゴキャラまで登場させたかと思えば、なんと実写まで融合。この中国人女性の雑貨店は、『ヴェノム』で登場するお馴染みの店ではないか。そういえば、あれもスパイダーバースだったか。
実写融合は本作の新機軸だったが、さりげない登場のさせ方は好感。
クモの大量発生
以下、多少ネタバレになるのでご留意願います。
本作ではヴィランの人数は少ないが、実質的にマイルスが敵対する相手は、ミゲル・オハラ率いるスパイダー・ソサエティになってくる。
大小さまざまなスパイダーマンが基地に大勢で共同生活している姿は、内山まもる先生が小学館の学習雑誌に描き続けた『ザ・ウルトラマン』を思い出させる。
映画の長時間化が激しい昨今、本作の140分は特に長いとは感じないが、米国のスタジオ製作アニメとしては最長になるらしい。もっとも『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』で鍛えられた世代には、特に恐るるに足らない。
ただ、マイルスの子育てであれこれ悩む警察官の父親のエピソードは、グウェンにも同じように警察官の父親との確執が描かれているため、いい加減食傷気味だ。
ピーターとメイ叔母さん程度のあっさり目な関係ならいいのだが、前作から続くマイルスの両親の子育て話は、もう勘弁してほしい。
◇
本作は140分を使って派手に風呂敷を広げたところで、前作のメンバーを絡めて、いいところで幕切れ。続きは『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』のお楽しみということになる。
『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』のように、前半でもほぼアクションを満喫した感がある場合はまだよい。
だが本作のように消化不良かつ、次は旧メンバー勢ぞろいというのを匂わされると、もう待ちきれない。でも、俳優ストライキの影響で、まだ公開時期が決まらないんだって。